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36.謝罪ふたたび

 リーナはひとしきりフィリウスの腕の中で泣いた後、フィリウスの指示に従って自身の部屋に戻り、内側から扉をの鍵を開けた。

 もちろん、フィリウスの部屋との間にあった扉を閉じてから、である。


 少し怖かったけれど、フィリウスが言っていた通りそんな短い間にエーデリアが目を覚ますことはなかった。


 あらためて廊下側の入口から入ってきたフィリウス。

 彼が共に入室してきた近衛騎士に気を失ったままのエーデリアを牢に閉じ込めておくようにと指示していると、ちょうどそこに別の近衛騎士を連れたジュリアが戻ってきた。


「リーナ様! ご無事ですか!? ……フィリウス殿下!?」

「ジュリア、落ち着いて」


 そうしてジュリアを落ち着かせている間に、フィリウスはエーデリアのことを教えてくれた。


「彼女──元フィクトゥス伯爵令嬢のエーデリアは、借金で実家が没落してからも、その勤務態度が評価されて母上の侍女を勤めていた」

「彼女の勤務態度のどこがよろしいのですか?」


 辛辣(しんらつ)なジュリアにリーナは苦笑いを浮かべるしかない。


 ジュリアの知っているエーデリアがどんな人物かはわからないけれど、口ぶりからして少なくともジュリアにとってはろくでもないように見えていたのだろう。

 リーナ自身、先ほどひどい目に遭ったばかりなので、勤務態度がよかったなどと言われても首を傾げてしまうのも仕方がない。


「ヒルミス嬢、彼女は其方が来てから変わった。一番彼女について知っているのは其方であろう? かつては私の婚約者候補にもなっていたが、正直言っていい思い出が一切ない。どうして選定されたのか聞きたいぐらいだ」

「本当に昔の勤務態度はよろしかったということですか?」

「ああ、昔はそうだった。私の婚約者候補だったから大人しくしていたのかもしれないな。そういう令嬢はいくらでも見た。──連れて行け」


 指示された近衛騎士たちは気を失ったエーデリアを連れて退出していく。

 フィリウスはとても素敵な人だから、彼女のような問題のある令嬢も頑張ってしおらしく見せようとさせてしまうのも仕方がない気がした。


 けれど、マリアだったらそんなことにはならず我儘を言っていそうだな──などとよそ事を考えかけてしまったリーナはふと思い出す。


「それからその、だ……」

「ごめんなさいっ!」


 言いよどんでいるフィリウスに、リーナは先回りして謝罪する。

 二日前、ダンスの練習中にフィリウスにひどいことを言ってしまった。リーナは彼の気持ちを傷つけてしまったのだから、誤るのは当然のことなのだ。


「わたし、今すぐには踊れなくても大丈夫だと励ましてくださったフィリウス殿下にひどいことを言ってしまいました」

「ひどいこと、か。リーナ嬢はそんなことを言うが、私の方が十分ひどいことを言った。君は私のためにと頑張ってくれていたのだろう? すまなかった」

「──っ!?」


 伝えていないはずの気持ちを言い当てられてしまって、とても恥ずかしい。

 もしかしたらリーナが彼の言葉を聞かずに逃げてしまっただけで、フィリウスはあの時にはすでにリーナの気持ちもわかっていたのだろうか。


 けれど、不義理を重ねたのにそんなことを聞く勇気は今のリーナにはなかった。

 そんなふうにフリーズしてしまっていたリーナに、フィリウスが口を開く。


「それから──誕生日おめでとう、リーナ嬢」


 その言葉と共に跪いたフィリウスは、リーナの髪を一房手に取って口づけを落とす。

 当然、リーナの心臓はより一層うるさくなってしまうわけで。


「かわいい」

「~~~~っ!」

「えー、コホン!」


 まったく話が進まないとばかりに、ジュリアは咳払いで二人の注目を自身の方に集めた。


「お二人の気持ちはわかりましたから、せめてパーティーが終わってからにしていただけません?」

「じゅ、ジュリア?」

「リーナ様、まだお着替えも終わっていないのですよ!? いえ、わたくしがエーデリアのありがたくない申し出を断れなかったせいなので、お二人に責任を転嫁(てんか)すべきではないとわかってはいるのですが」

「わたしはジュリアのせいではないと思うわ」

「リーナ嬢の言う通りだ。だが主役がパーティーに遅れるわけにはいかないな。私は一旦お(いとま)するとしよう」


 そう言って部屋を出ていったフィリウス。

 その後ジュリアが今度こそドレスを持ってくるというので、リーナは先に隣の寝室へと移動した。




 再び戻ってきたジュリアが持ってきた箱の中には、パトリシアがリーナのために用意してくれたあのドレス──を豪華にしたものが入っていた。


「素敵なドレスですね」

「え、ええ」


 いつの間に装飾が増えたのだろう?


 それはともかく、はじめてのパーティーにフィリウスと共に選んだドレスが着ていけないのが不服ではないと言ったら嘘になる。

 けれど、それでもこれはリーナがフィリウスの妻として認められている証なのだと思うと、不思議と気分も悪くなかった。


「できましたよ」


 鮮やかな紫色の生地をふんだんに使ったオフショルダーのドレス。

 デコルテの開き具合はイブニングドレスとしては控えめだ。


 ドレスと同色の生地で作られた、花をモチーフにした胸元のリボン飾りは大きくて華やかだけれど、肩周りがちょっと心もとない。


 足下の方に視線を向けていけば、流行(はや)りの多段フリルスカートもクリノリンで広げられていていた。

 けれど、そうしたことよりも一番気になるのは。


「ジュリア。このスカートの周りについている宝石は」

「アメジストと、あとクリスタルもありますね」

「やっぱり宝石、よね」


 スカート周りに以前ウェスティンが持ってきた時にはなかったはずの宝石たち。一体いつの間に増えたのだろう。

 これだけでドレスの値段が倍ぐらいになっているのではないかと、苦笑してしまう。

 値段を考えたら眩暈(めまい)がしそうだ。


「──っくしゅん!」

「大変申し訳ございません! 寒いですよね」


 ジュリアが差し出してくれたショールを羽織る。

 普段着ているドレスにはかなわないけれど、たった一枚で肩周りがだいぶ温かくなった。やはりオフショルダーではいくら王都が比較的温暖な地域といっても冬は寒い。


 再び自身のスカートを見下ろす。

 あの日選んだネックレスのものよりも少し小さいだけのアメジストが縫い付けられているのはリーナの見間違いではないらしい。


 紫色のスカートとの相性を考えたのか、くどくなりすぎないようにクリスタルも交えてはあったけれど、どちらにしてもリーナにとってみれば眩暈(めまい)してしまいそうな値段だろうなということに変わりはない。




 その後ジュリアにメイクをしてもらい、髪型も複雑なハーフアップにしてもらい。

 小花の髪飾りをつけて、グローブをつけて。フィリウスと意見の一致したアメジストのネックレスを首から下げてもらい──とすべての準備が終わると、パーティーまでちょうどいいぐらいの時間になった。


 ジュリアも退出していき、室内にいるのはただ一人。

 隣の部屋に移動して、スカートに変な(しわ)がつかないように気をつけながら座っていたリーナを訪ねてきたのは言うまでもなく。


「リーナ嬢。入ってもよいだろうか?」


 リーナの夫、フィリウスだった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

活動報告にも書きましたが、明日投稿予定の第37話をもちまして、本作の第一章は完結となります。


また、第一章の完結をもちまして、一旦本作の更新をお休みさせていただきます。

第二章以降の投稿につきましては今年じゅうの再開を予定しております。

何卒よろしくお願いします。

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