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17.城ではじめての朝食もいっしょに

 リーナはフィリウスを室内へと招き入れた。

 あっという間にソファに腰を下ろすフィリウス。すっかり準備万端といった様子だ。


 リーナもまた、彼の向かい側のソファに座る。けれど、目の前のフィリウスに目を向けると、彼はほんの少し不服そうな表情を浮かべていた。


「なぜ隣に座らない?」

「宿でもこのように向かい合って座っていたと思ったのですが」


 リーナが思ったことをそのまま口にすれば、ようやくフィリウスは納得してくれたらしい。つい先ほどまでとは打って変わって穏やかな表情に変わる。

 でも、今度同席する時は隣に座った方がいいかもしれない。


「たしかに君の言う通りだ。今は同席する者もいないし、私と君の二人だけだ。正面に座っても問題ないだろう。……リーナ嬢の顔がよく見えるからな」

「?」


 最後の方は声が小さかったせいで、よく聞き取れなかった。

 けれど、どうやらマナーを破ってしまったわけではないらしいとわかって、安堵(あんど)する。




 やがて部屋へと運ばれてきたのは、リーナがここまでの宿で食べてきたどの朝食よりも、豪華なものだった。さすがはこの国一番のお城だ。

 パンはもちろん、リーナが大好きなイモまである。おなかを壊さないかはちょっと心配だけれど、道中で食べたイモはどれも大丈夫だったから今回も大丈夫だと信じたい。


 見たことがない食べ物についても、リーナが尋ねればフィリウスが教えてくれた。

 ムニエル、ゆで卵、コーンスープ……どれも小屋暮らしだったリーナには縁のなかったものばかりだ。


 料理を口に含んだリーナがふとフィリウスの方に目をやると、彼に凝視(ぎょうし)されていたことに気づく。


「殿下、そんなに見られると食べにくいです……」

「ああすまない。その、目を輝かせているリーナ嬢があまりにも愛らしくてな」

「──っ!」


 思わず、リーナは顔を伏せてしまった。


 リーナが生まれてから一度も言われた覚えのない言葉。

 それも美形に言われたわけで、リーナにとってはそれだけで十分に恥ずかしい。


「あ、ありがとうございますお褒めにあずかり光栄ですっ!」

「私は思ったことを言ったまでだ」


 今度は、フィリウスが顔を赤らめながらそっぽを向いている。


 リーナも最初はなぜだかわからなかった。

 しかし彼がティーカップを手に取り、お茶を口に含んだことでさらに顔が赤くなったので、もしかしたら風邪でもひいてしまったのかもしれない。


「フィリウス殿下。お顔が」

「私の顔に何かついているだろうか?」

「いえ、そうではなくて。真っ赤で……」


 リーナがそう言えば、フィリウスはカップをソーサーに戻して、自身の顔に手をあてる。

 それでやっと気づいたらしく、軽く息を呑んでいた。


「熱いな」

「お加減の方は」

「問題ない。聞くところによると、人間というのは寝起きの体温は低いが、朝食を取ると身体が温まるという性質を持っているらしいぞ。そのせいだろう」


 そういうものなのだろうか?

 リーナもアルトにそのような話は教わったことがないので、フィリウスが言っていることが本当なのかはわからない。

 けれど、リーナよりもずっと勉強しているはずの彼が言うのならそうなのだろう。


 赤く染まった顔でリーナの方を見つめるフィリウス。

 彼が相好(そうごう)を崩すと、リーナも自然と笑顔になってしまう。無言だけれど、彼は「大丈夫だ」と言っている気がした。


「食事を続けようか」




 王城に来てはじめての食事が終わると、目の前ですっかり空になった食器が、使用人たちの手によって片付けられていく。


「ごちそうさまでした。ありがとうございます、殿下」

「気にするな。私はここに持って来させただけなのだから」

「いえ、そういう話ではなくて……。殿下が我が家にいらっしゃらなければ、わたしは今もパンとイモの生活を続けていましたし。あ、もちろん朝食を用意してくださったことも感謝していますよ」

「パンとイモの生活を続けて……たしかにそうなのかもしれないし、私がここに食事を持って来させたのも事実ではあるが」

「でも、殿下のおっしゃる通りですね。この料理を用意してくださったのは使用人や料理人の皆様ですから。皆様もありがとうございました。おいしかったです」


 そう言って皿をワゴンに下げている使用人にリーナがお辞儀をすると、使用人たちは一斉にリーナの方を向いてぎょっとしたように動きを止めた。

 けれどそれは一瞬のことで、フィリウスが小さく口を動かせばすぐに何事もなかったかのように時間が進んでいく。


 片付けが終わり、ジュリア以外の使用人が部屋を出て行くのを見送ると、リーナは再びフィリウスの方へと向き直った。


「何だその顔は」

「殿下は君主の鑑だな、と思いまして」

「どうしてそうなる」


 フィリウスの「持って来させただけ」とかリーナに「自分より部下を(ねぎら)うように」と暗に伝えているような言動が、自分自身よりも他の誰かのことを優先する態度が──リーナにはとても好ましく思えた。


「それに次期国王は私ではなく兄上だ」

「承知しております。その上で思ったことを申し上げたまでです」

「……そうか。悪い気はしない」


 リーナたちが食後の談笑をしていると、外から扉がノックされる。

 それと同時に立ち上がったのはフィリウスだった。


 寝室の入口の側に控えていたジュリアが扉のもとへ行こうとしていた頃には、フィリウスによってとっくに扉が開かれていた。


「リーナ殿下。王妃殿下より伝言を──フィリウス殿下!?」

「母上がリーナ嬢に?」

「あっ、はい。王妃殿下がリーナ殿下をお茶会に、と」


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