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109.ジャガイモを植えよう!

 パトリシアから「お茶会の反省会」という名目で呼び出された翌朝。

 いつもより早く起きたリーナは、数日ぶりにジャガイモ畑に来ていた。


「……なんでこんな寒い朝から農作業なんかするのよ!」

「早く植えた方が早く収穫できるじゃないですか!」


 まだ眠いからなのか、それとも寒いからなのか。

 文句ばかりのエーデリアを横目に、リーナは畑を耕しているところだ。


 昨日、なんとオーネマン子爵からも追加でジャガイモの種芋が献上されたと聞いた時にはびっくりしてしまったと同時にものすごく嬉しかった。

 たくさん種芋があるということは植える場所さえあれば、たくさん収穫できるということに他ならないのだ。


「あんたの殿下は何をしているのかしら。いっつも過保護なのに、こんな寒いところには出すのね」

「フィリウスさまは優しい方ですから!」


 いつもなら温かいコートを着るように言われるのだけれど、今日は着てきていない。

 動きにくいのでできれば着ないでおきたいけれど、フィリウスがいる時だと叶わないのだ。


 けれど今日の午前中はフィリウスにも「どうしても行かないといけない場所」があるらしく、注意されないし執務室も開けられないということで、ユスティナのレッスンも中止になったのだ。


 ちなみに、よほど大事なことなのか──それとも先日のように一緒に来てほしくないからなのか──行き先はリーナには教えてもらえなかった。


 じっさい、この前ジャガイモカフェに行った時は危険な目に遭ってしまったし、ジャガイモも植えられるからということで、今回は大人しくすることに決めたのが昨日の夕方。


 届いてから安全なものか確認するのに時間がかかるはずなのに、リーナのために素早く確認するように言っててくれたフィリウスや、確認してくれた皆には感謝しかない。


 ざくり、と土に(くわ)を入れていると、隣からまたまたエーデリアの抗議が飛んでくる。


「そうかもしれないけれど今の季節分かってる? 冬よ冬!」

「ジュリア、キルク。エーデリアの相手をお願いね」

「承知いたしました。……実は、お忘れかもしれませんがリーナ妃殿下は第二王子殿下とご結婚なさっている方なのですよ?」

「で、でも書類上だけでまだ式は挙げていないのでしょう?」

「口を慎みなさい。貴女の罰はリーナ様の隣で畑を耕すことでしょう?」


 ジュリアがいつもより一段低い声でエーデリアを(さと)す。

 こんなに楽しいジャガイモ育てに関わろうとしないのは、エーデリアが「自分はジャガイモにふさわしくない」と自分を卑下(ひげ)しているからなのだろうか。


「ジュリア、もういいわ。きっと、エーデリアさんは今のままではジャガイモに顔向けできないと思っているのよ」

「リーナ様、そういうことではないと思いますが……」

「そうよ! 王子妃の貴女の楽しみを奪うなんて、いち平民に許されてよいはずがないもの!」


 やっぱりリーナのことを思ってくれていたらしい。

 エーデリアはフィリウスと結婚したくて、リーナに手を上げてしまっただけで、根は優しいのだろう。


 でも自分の思い通りにならない時に手を上げてしまうのはよくないことだと思うから、そこだけは反省してほしい。

 というわけで畑を耕し続けることしばらく。


「……次はいよいよ、ジャガイモを植えていくわよ!」

「ほら、エーデリア。貴女も行きなさい」

「わたくしごときが楽しそうにしている妃殿下の邪魔をするわけにわいかないのよ!」


 リーナは反省を続けているエーデリアを横目に、ずた袋から種芋を手に取る。

 いつの間にか少々高いところまで上がっていた日の光にあててみると、太陽からの光がまるでジャガイモに


 ジャガイモを植えられるというわけで、あまりに夢中になっていたリーナはいくつかの足音が近づいてきていることに気がつかなかった。


「妃殿下、本当に向かうのですか?」

「わたくしだって半信半疑よ。けれど、城の中で噂されていることには、えてして真実が含まれているものよ──」


 種芋を一(うね)に開けた穴全部に入れ終えたので、ぐぐっと伸びをしてジュリアたちの方を振り向けば、彼女たち三人の視線はリーナの畑とは違う方に向いていた。


 リーナもその視線を追えば、そこに立っていたのは。


「ノマさま!? ご、ごきげんよう」


 シャタール王国から連れてきていたらしい侍女たちと共にやってきたノマ。

 突然現れた彼女たちにびっくりしてしまったけれど、ノマたちも同じようにびっくりしていた。


「まさか、本当に──」

「お久しぶりですわね、ノマ妃殿下」


 いつの間にかリーナたちの側に来ていたのはエーデリアだった。

 彼女はノマから不審な視線を向けられつつも、綺麗なカーテシーを披露した。


「リーナ様、彼女は?」

「エーデリアさんはその……」

「ちょっ! 離しなさいよ!」

「実は、リーナ妃殿下の部屋に侵入して、あまつさえ妃殿下に手を上げた方ですよ」


 今度は、いつの間にか近づいてきていたらしいキルクがエーデリアの首根っこ……もとい(えり)をひっつかんで遠くへと引っ張っていった。

 そんなキルクたちからノマたちの方へと視線を戻す。


「? こんなところまでいらして、本日はいかがなさいましたか?」


 ノマはリーナの後ろ──これからジャガイモのベッドになろうとしている畑──を一瞥(いちべつ)したかと思えば、畑を囲っている煉瓦(れんが)の前でしゃがみ込む。


「こちらの畑はもしかしてリーナ様が?」

「そう、ですね」

「もしかして、ジャガイモを育てるおつもりですか?」


 何を育てようとしているかを当てられて、思わず両手で口を覆ってしまう。

 もしかしなくても、ノマにうっかり話してしまっていたのだろうか。


 さすがは王太子妃だ。観察眼がすごい。


 でも、ジャガイモだとばれてしまうぐらいに知識があると思えば話が早い。

 ジャガイモのことに詳しいということは、ノマはジャガイモに興味を持ってくれているということではないだろうか。


 ジャガイモの話ができそうな相手、それもリーナと同じ王族という相手を見つけてしまい、思わず笑顔になってしまった。


「はい! こちらのジャガイモは我が国でもジャガイモの名産地と名高いオーネマン子爵領の品種でして──。フィリウス殿下が贈ってくださったのです!」


 正確に言えば、このジャガイモはオーネマン子爵がくれたものらしい。

 けれどオーネマン子爵にジャガイモが好きだと伝えた覚えはないので、これをリーナに贈ってもらえているのは、フィリウスのおかげなのだろう。


 本来ならリーナが誇るところではないのだけれど、ジャガイモというだけで思わず自分のことのように嬉しくなってしまうし笑顔になってしまう。


 喜びのあまりリーナが一歩ノマのもとに近づくと、なぜかノマに一歩後退されてしまった。ちょっと解せない。


「このジャガイモがフライドポテトになるんですよ! そう思ったらかわいいと思えてきませんか?」


 ノマが目を見開く。けれどすぐに首を振り、下を向く。


「どうして」

「?」


 ぼそり、と何かをつぶやいたノマ。リーナには答えを待つしかない。


「どうして貴女はご自分の手を汚して──」

「汚してなんてないですっ!」


 リーナがそう大声で答えた瞬間、ノマの目が大きく見開かれた。



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