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100.いざお茶会へ

ついに第100話です!

 ルークにお菓子やお茶の用意をお願いしてからは、お茶会に向けて色々な準備をする毎日だった。

 ユスティナのアドバイスに従って、ノマ以外にパトリシアやアリスにも招待状を出したり。当日の会場にする予定の温室をしっかりと下見したり。


 そんなことをしていると毎日が過ぎていくのはあっという間で、ルークが王城に外商に来てくれてから、一週間が経っていた。


 この一週間はノマたちが来るよりも前のように穏やかで、自分のことながらはじめてのお茶会の主催に緊張していてもおかしくないはずなのに、薬を飲まなくても眠れるようになっていた。


 やや冷たい空気の中気持ちよく目を覚ましたリーナは、いつものようにジュリアに手伝ってもらって着替えを終えると、隣の部屋に向かう。


 扉を開いてすぐ、目の前のソファに見えた後ろ姿に安心する。

 リーナは彼の隣にいそいそと座りながら、その紫水晶の瞳を見つめながら笑顔で口を開いた。


「おはようございます、フィリウスさま」

「おはよう。最近はよく眠れているようだな」

「はいっ」


 朝からティーカップを片手にお茶を飲んでいるフィリウスといったら、神様が作った芸術品と言っても過言ではないのでは?


 そんなことを考えていると、ふとフィリウスが飲んでいるお茶の香りが、リーナが知っているものではないことに気づく。

 ちょっと刺激的な今まで嗅いだこともない香りなので、何のお茶なのかつい気になってジュリアの方を振り返る。


「フィリウスさまが飲んでいらっしゃるのはお茶なのかしら?」

「シソと呼ばれる遠い東の国のハーブの一種を使用したものです。緊張感をほぐす効果があるそうですよ」


 ジュリアはそんなふうに答えながら、リーナの分も用意してくれる。

 お茶にそんな効果があるものもあるだなんて、知らなかった。ジュリアの優しさが身に染みる。


 そんな中、次々と朝食が運ばれてくる。

 メイン料理は昨日と同じでジャガイモ料理のクロケットを挟んだサンドイッチのようだけれど、フィリウスが隣にいると思うだけで、昨日の何倍もおいしくいただけてしまいそうだ。


 そんなことを考えながらフィリウスの方を見れば、彼もまたじっとクロケットサンドを見つめていたので、一瞬声をかけようかためらってしまった。

 でも少しすると、さすがにリーナから見つめられていることに気づいたらしく、フィリウスの紫水晶の瞳とばっちり視線があう。


「リーナ?」

「フィリウスさまもジャガイモのことが好きになりましたか?」

「ジャガイモにはかなわないな──と思っていただけだ。昨日も朝食はクロケットサンドだったが、君と一緒に食べられるというだけで数倍は美味しく感じられてしまいそうだ」


 フィリウスが考えていたことが予想外すぎて、目をしばたたいてしまった。

 リーナはジャガイモにかなうもかなわないも考えたことがなかったので新鮮だ。美味しいかより美味しいか。そういうものだと思っていた。


 けれど、フィリウスと一緒に食べるといつもより美味しく食べられる気がするのは、リーナにも覚えがあるのでものすごく頷きたい。


「本日はリーナ様がはじめて主催するお茶会ということですので、食べ物が喉を通らないといけないと思い僭越(せんえつ)ながらクロケットサンドを出させていただきました」

「シソ茶には食欲増進の効果もあるそうだな」

「はい」


 たしかに緊張でたくさん食べられずに、けれども昼食は喉を通らないぐらいには食べてしまいそうな気もする。そこまで考えてくれていたなんて。


 けれどフィリウスが「そうか。最初からそうしておけばリーナの顔色はもっと早くよくなっていたのか……」などとちょっとわけのわからないことを言っていたのにはちょっとだけ首をかしげてしまった。


 けれどフィリウスはそんなリーナの気持ちに気づいていないらしく、「そういえば」と口を開く。


「今日もつけてくれたのだな、香水」

「あっ……はい」


 つい気がついていないものだと思っていたから、フィリウスから突然告げられた言葉に顔が熱くなってしまう。

 この香水をつけると、不思議と彼のことを思い出して勇気が湧いてくるのだ。


「会場までは私がエスコートしよう」

「ありがとうございますっ」


 フィリウスが差し出してくれた手を取ると、ソファから立ち上がり部屋を後にした。




 朝食を終えたリーナがフィリウスやジュリアとともに向かった先は、お茶会の会場だ。


 会場は春の花がたくさん植えられた温室。

 外よりもいくらか暖かいので、レーゲ王国よりも温暖なシャタール王国から来ているノマのことを考えると、ここを選んでよかったかもしれない。


 温室の隅に準備したテーブルに、次々と運び込まれるお茶菓子たち。

 ルークの商会から買ったそれらはどれも綺麗なコーティングがなされていて、ほとんど高級品を見たことがないリーナでもそれが高価な品だというのが見ただけでわかる。


 ユスティナいわくお茶会は主催者や参加者、人数や場所などで色々とやり方が変わるらしい。

 けれど基本的には皆が来るよりも先──というか指定した時刻よりもある程度早め──に会場に到着して準備しておけば問題ないのだとか。


 そんなわけで準備が終わった温室の入り口でジュリアと共に待っていると、最初に入ってきたのはパトリシアだった。

 舞踏会などでは身分が低いほど先に入るのが普通のはずだけれど、もしかしたら「今回は細かいことは気にしなくて大丈夫」というような気持ちで来てくれたのだろうか。


 あるいは、今回は主催をするから聞かされていないだけで、お茶会だと主催者以外も入る順番に決まりがあったりするのかもしれない。

 このあたりは今後のレッスンでユスティナに聞いておかないと……と心の中にメモをした。


「こんなにも早くお茶会に招待してもらえるだなんて思ってもみなかったわ。……今日は楽しませて頂戴な」


 にこりと笑みを浮かべるパトリシア。

 ……うん、やっぱり回れ右をして帰りたくなってしまう。


 そんなことを考えながら、彼女のための席を指先をそろえて手で指し示すと、使用人の一人がすでに椅子を座りやすいように動かしてくれていた。優秀すぎる。


 そうしてほっとしたのも束の間、今度はアリスとノマが二人一緒に到着してしまったので一瞬焦ってしまったけれど、アリスが先にノマに席を勧めてくれたおかげで助かった。


 というわけで招待状を送った三人が来てくれたので、リーナも残った入り口から一番近い席──パトリシアの正面──に腰を下ろす。

 それと同時に左側に座っているノマから視線を感じたけれど、もしかしたら先日の一件で何か言われるのだろうかと思ったけれど何もなかったので、たぶんリーナの勘違いなのだろう。


 そうして「何事も起こりませんように……!」と祈りながら口を開く。


「皆様、今日はお集まりいただきありがとうございます」


 リーナにとって、はじめて主催するお茶会が始まった。



 いつもお読みいただいている皆様も、ふらりとご覧になってくださった皆様もありがとうございます。

 続きが読みたい!とか面白いなと思ったらブクマ、感想、★などいただけますと嬉しいです(いいねとかも励みになります)。

 今後ともリーナやフィリウスたちの物語をよろしくお願いします。

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