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街中決戦 その4

「ッ!?黄泉平坂より(メメント・モリ)!」


 男が深淵(アビス)を発動させたことでヨミもとっくにクールタイムが終わっていることに気づいた。そしてその気づきとほぼ同時に発動させたが、少し無防備の状態で男の深淵(アビス)に触れてしまった。


 ―――ッ!……これは、そういうことですか。深淵(アビス)の攻撃の対象は体の奥底、()()()()()ということですか。そして深淵(アビス)は魂という戦場における攻防一体の何か、ということなのでしょう。

 そしてその規模はさっきとは全く違います。周囲だけだったのが、この街の南部一帯にまで拡張しています。これだけ見てみると魔法と同じような感じがしますが、果たしてどうなんでしょう……?


 ヨミが深淵(アビス)に思考が持っていかれた時間はほんの数秒のことであった。しかし、その戦場には不似合いな数秒が命取りとなった。


「「「―――――!!」」」


 街のいたるところから建物が崩壊する音と共に獣の咆哮が街に響き渡った。それは戦いの場が港から街全体へと広がったことを意味していた。


「……何をしたんですか!?」


「スタンピードを意図的に起こしただけだ。」


「そんなことが、できるはずが……。」


「できる。初心者のお前も気づいただろう?この力は魂を掌握する力だ。特に俺様のはこういうのに向いてる。だからあとは少しの道具さえあればこの程度は造作もねぇことだ。


 それよりいいのか?このままだと街が壊れるぜ。」


 男の言葉はヨミの耳に正確に届いていたが、その心に驚きこそあれど動揺はなかった。


「構いません。住人は避難していますし、街ならまた建て直せばいいことです。それにあなたを放っておいたらどちらにせよ、同じ結末になるでしょう?」


「クックック!状況把握はできているようだな。その通りだ。それにそもそもの話だ、Sランクが二人っていう情報は悪い方に間違ってたわけだが、それでも余裕を持った計画を俺様は立てていたのさ。だからこの街の領主が精霊王以上の化け物だったり、お前は予想以上に強かったりと想定外は確かに多かったが、それでもこの勝負は始まった時から俺様の勝ちだったのさ。」


 男の計画は成功を収めていた。実際、小さいスタンピードに相当する量の魔物をこの街中で今いる冒険者だけで討伐しきるのは不可能に近い。それに冒険者は領主館で住人の護衛をしているか、それ以外の方面で出歩いている人がいないか警備をしているために出払っている。そのため、この現場に駆け付けられる戦える者は精霊騎士を含めほとんどいない。


 つまり、詰みである。魔法使いと言えど、無い袖は振れないのだ。たとえヨミが男に打ち勝ち、魔道具を破壊することができたとしてもその時にはもう街は崩壊しているだろう。そうなれば後の戦争で有利を取れる帝国の、すなわち男の勝ちなのである。


「なら……。」


 ヨミは黒く染まった右手を男に向けてかざした。


「おっとやめておけ。互いの深淵(アビス)をぶつけて対消滅を狙ったんだろうが、そんなことをしたらもっと最悪なことになるぞ。」


「十分最悪です。これ以上はありませんよ。」


「それがあるんだな、これが。今魔物どもは俺様の支配下にある。だから街を破壊しろっていう命令に従っているわけだが、それがなくなったらどうなると思う?」


 ―――住人を襲い始める。


 いわれずともヨミは分かってしまった。それが魔物の習性なのだ。他の生物を、人間を食らい生を永らえるという一際強い本能に従順であるという存在なのだ。


「……随分見た目に反して周到なことをするじゃないですか。」


「クックック!これでも一国の将軍だ。力だけではなれん。」


「よくもまあ魔物を使うなんて発想に至ったもんです。一体どうやってそんな量の魔物を集めたんですか?」


「あれは集めたんじゃない。言ったろ、道具を使ったとな。ただダンジョンコアを少し拝借しただけだ。」


「ダンジョンコア、ですか。……納得がいきました。」


 ダンジョンを成り立たせている力の源。これをダンジョンから引き抜くだけでダンジョンを一時的に休眠状態にできるが、数年をかけて新しいコアが出来上がるという。もっとも、街の近くにあったダンジョンでは数年の休眠状態が冒険者の活動に対して致命的であるために滅多に行われることはないが。


 そんなダンジョンコアであるが、ダンジョンから切り離された後も莫大なエネルギーを内包しており、その用途は多岐にわたる。街のインフラの動力炉として使えば王都のような大きな都市でも一年は賄えるだろう。一方、男のように魔物を出すために使うのであればスタンピードほどの規模ではないが多くの魔物を召喚することができる。実際王都の騎士団や貴族学校、冒険者学校ではダンジョンコアを使用した演習があるという。


「それで、何個使ったんですか?」


「6つだ。これだけあれば確実にこの程度の街は確実に落とせる。」


 男はあたかも軍師であるかのように自信満々にそう言い切った。


「そうですか。まあ想定外といえば想定外ですが、想定内といえば想定内ですね。」


「なんだと?」


「まあ見ててください。今度は私の番ですからね。……アリエル、力を借ります。


 ―――魔力完全支配。空間掌握。」

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