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街中決戦 その2

 ーーー男の口ぶりからおそらくこの黄泉平坂より(メメント・モリ)深淵(アビス)であることに違いはなさそうですね。では、それ同士がぶつかったらどうなるんでしょうね。


 少女は攻撃の手を緩めず、そのまま黒に染まった右手をまっすぐ男へと伸ばした。その手の先から透明な黒い手が出てきた。その手は禍々しいの一言に尽きる。指は骨張り、爪は鋭い。


 その手がゆっくりと男に近づき、ーーーその周囲を覆っていた魔力の鎧に触れた。


「何ッ!?」


 魔法の弾幕に上手く隠れていたのか、男はその手に触れられるまで気づかなかった。


 だが、男の驚声も納得な結果が訪れていた。


 ヨミの出した透明な手はすぐに形を崩してしまい、ヨミの手も普段に戻ってしまった。つまり、深淵(アビス)が解けているのだ。


 それは男も同じようで、分厚かった魔力の鎧が一気に薄くなった。闇のオーラも消え、男も同様に解けているのだと分かった。


 薄くなった鎧では弾幕を受け切るのはしんどいのか、初めて男が攻勢に出た。右手に大量の魔力を集めて、圧縮を始めた。そして大きく振りかぶった。この間、たったの2秒。


酸魔圧縮咆(アトミックブロウ)!!」


 魔法どころか、ヨミの魔力の渦そのものごと吹き飛ばさんと放たれた超威力の一撃をヨミは大量の魔法障壁を作ることで迎え撃った。


 空気と魔力が限界まで圧縮されているところに、圧縮された魔力から生じた火花によって点火され爆発が起こる。空気と魔力の膨張と共に誘爆の範囲は急速に広がっていき、その一撃は一つの都市を破壊できるほどの規模となる。


 対するヨミは当然威力を抑えるためのシールドも作成しているが、大本の目的としてその攻撃を防ぎ切るのではなく、少しずつ上に誘導する形で氷のシールドを展開した。結果、男を中心とした半球のような形のシールドの塊の上に、これまた男を中心とした立方体が乗る形となった。


「くっ!」


 だが、それでもその攻撃を完全に逸らすことはできなかった。暴風は街に襲い掛かり街中の住宅の窓ガラスは割れ、少し弱い作りをしている屋根は吹き飛ばされた。


 ヨミも吹き飛ばされかけたが、なんとかその場に止まる。しかし彼女がいた場所が悪かった。彼女は立方体のシールドの外側ではあったが半球状のシールドの上に立っていたのだ。ゆえに強風を追いかけるように襲い掛かってきた爆発の嵐をその身に受けることになったのだ。


「はぁ、はぁ。……クックック!まさか、俺様とほぼ同じ強度とはな!想定外にも程があったぜ。そのせいで少し雨に降られちまった。」


 ヨミの放った魔法も少しは魔力の鎧を貫通していたのだろう、男の体の至る所から血が流れ出している。


「おやおや、少しというには濡れすぎではないですか?しっかりと傘もさせないようで。」


「クックック!お前の方こそ嵐の一つに遭遇したようじゃねぇか!その様子じゃ、俺様より深手なんじゃねぇか!?」


 男の言葉通り、ヨミの服装は乱れていたし口の端から血が垂れていた。その血を手のひらで受け止めると、舐めとった。


「これが深手ですか。随分ご立派な目を持っているようで。」


 バカにするようにつぶやくと、少女の体に異変が起こった。爆発に襲られたために、見た目以上に体の内側に大ダメージを負っていたはずだが、それが瞬時に修復されていく。若干白んでいた顔色も血色がよくなっている。


「……治ってやがる。クックック!やるじゃねえか!」


 ―――一体どういうことだ!?回復魔法を使った様子はなかった。それなのにさっきのダメージがなかったことにされやがった。


 男は内心では動揺しまくっていたが、しかしそれが顔に出るときには笑顔になっていた。戦闘狂ここに極まれり、といった感じではあるが実際楽しんでいるのは確かである。


 Aランク冒険者“神眼”のセロであっても受けきれない攻撃を、結果としてはダメージゼロで受けきったのだ。しかも街の被害は最小限に抑えるというおまけつきである。


 ―――ああ、わけわからねぇ!消費無しで回復できるんなら突破口は見えねぇ以上、勝ち目は皆無だ。だが、それがいい!


「じゃあ今度は俺様から行くぞ!」


 男は体の損傷を治す前にヨミのいる通りを挟んで向かい側の家に大きく跳躍した。


 ―――魔法使いである以上、接近戦じゃ俺様には勝てねぇ!クックック!まさか俺様が自分の土俵に相手をひきづりだすことになるとはな!随分久しぶりだぜ!


「ああ、こっちに来てしまうんですね。」


 跳躍した瞬間である。そんな少しほっとしたような声が聞こえてきたのは。ぎょっとした男がヨミの顔を注視すると、そこには酷薄とした笑みが浮かんでいた。


 まるで狩場に迷い込んだ獲物に対して最後の慈悲を与えるような、そんな笑みを。


 跳躍の勢いを全て乗せた男の渾身の一撃は屋上の激突した。正確にはヨミがついさっきまでたっていた場所に。


 屋上は吹き飛び、その家ごと崩壊を始めた。しかし、男の拳が屋根にあたり、体が硬直した瞬間に男は右わき腹あたりに冷たいなにかがふれた感覚があった。


 直後、そこは焼かれるような熱さを激痛と共に彼に伝えてきた。


 両者は崩壊する家から飛び退り、再度向かい合うように立った。しかし男はたまらず膝をついた。


「ぐッ……。お前、近接もイケる口なのか?」


「さあ、どうでしょうね?ですが剣士とタンクの弟子はいましたよ。教えるために最低限勉強した程度です。」


 ―――マジか。たまんねぇな、おい。冗談みてぇに考えてたがまさか本当にこいつが最大の障害になるとはな。っていうか、あの回避の動き、どっかで見たことあるんだよな。

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