街中決戦
「……!いくら俺様でもあんなのに巻き込まれたらさすがに死んじまうぜ!」
リヴァイアサンの破壊の咆哮と勇者の絶対なる光の皇龍の激突による爆発は、男の魔力の鎧も貫通して攻撃を与えられるほどの威力を持っていた。だが、男はその爆発の寸前にリヴァイアサンの背から飛びのき、単身街へと向かっていたのだ。
「だがそれでももう俺様を止められる人間はこの街にはいねぇ!俺様の勝ちだ!」
港近くの大きな家の屋根に勢いよく着地した男であるが、その顔には余裕の笑みが浮かんでいた。それもそのはず、この街で一番の脅威であるはずだった二人が港で足止めを食らっているのだ。しかも片方はSランク冒険者以上の怪物を。想像以上に計画通りに進んでいるために思わず顔が緩んでいるのだろう。
「クックック!仕込みは既に済ませた。あとは―――ッ!?」
背後のリヴァイアサンから街の中心部に視線を向けた瞬間に、氷の槍がすさまじい勢いで接近してるのに気づいたのだ。それを瞬時に分厚くした魔力の鎧で弾いた。
「あとは、何ですか?」
魔法が放たれた方向から声がした。向かい側の家の屋根の上に顔が隠れてしまうほど大きな帽子をかぶった少女が肩に猫を載せて佇んでいた。
「クックック!!そうだ、忘れていた。まだお前がいた!この街にはまだお前がいたんだったな!?」
男の喜びの叫びに形のいい眉を少し歪めながら少女は口を開いた。
「なんですか?ストーカーですか、気持ち悪い。申し訳ないですが、私はあなたに会いたかったわけではないので。街を出るなら止めないのでさっさと消えてください。」
「それは断る!それに話しただろう、俺は強さのみを求める!お前は俺の相手にふさわしいということだ!」
「……あー、そういえばそんなこと言ってましたね。ちょっとその時の記憶が曖昧なので何とも言えませんが。」
少女は本当に覚えて内容で、少し困ったように言葉を漏らした。
「そんなことはどうでもいい!!俺は魔王軍月の騎士団団長、カリギュラだ!お前の名前は何という!?」
「……どうせもう会うことはないでしょうから言う必要がないですね。」
少し考えたのちに少女はそう呟いた。そしてその直後、少女を中心に強大な魔力の渦が出来上がった。魔力を支配したのだろう。が、まだ慣れていないのか、少し顔を歪めている。
「ッ!?クックック!殺る気は満々ということか!いいだろう、お前を倒した後にその名前を聞くとしよう!―――狂暴化!」
「そんなことができるといいですね。―――黄泉平坂より」
双方共に切り札になり得る深淵を最初から発動させた。男からは荒れ狂わんばかりの強烈な黒いオーラが体からあふれ出し、少女からは黒いオーラであることは同じだが静かに立ち昇っている。
戦闘経験が豊富な男はまだしも、少女の方はそこまで経験がない。しかし、経験はなくとも優れた直感と戦闘のセンスが彼女を導いた。これがなくては瞬殺されていたとしてもおかしくはなかっただろう。
深淵の相手は深淵にしかできない。これは上位者にとっては常識である。深淵はスキルにも魔法にも優先されるためだ。
「クックック!この気配、この深さ!やはりお前もこっち側だ!」
「何が言いたいんですか?」
「自覚がないのか!?……いいだろう、教えてやる。それはただのスキルではない。俺様達が求めるこの世の強さの頂点、深淵だ!人が心身共に死に最も近づいた時にそのカウンターとして身に宿る!自らの意思を持って発現するこのスキルはこの世全てに優先される。魔法もスキルも、この前には全て塵芥にすぎん!」
「はぁ……?」
「これは強者の証だ!お前はまだ完全に自覚できていないようだが、それでも構わん!お前くらいの強者ならば!戦いの最中に学ぶことになるだろう!」
少女は黒く染まった右手に視線をちらりと移すとすぐに男に戻した。
「何が言いたいのかよくわかりませんが、別に何でもいいです。」
少女はセリフの途中で無詠唱魔法での攻撃を仕掛けた。男の周囲から囲うように氷と闇の槍がまっすぐに迫る。
「効かねぇなぁ!その程度の攻撃でどうにかなると思ってんのか!?」
黒と水色の槍の雨が男に殺到するが、それでも男からは元気な声が聞こえる。おそらく先ほどより強化されている魔力による鎧によって完全に防いでいるのだろう。
「情報収集は戦闘の基本です。」
少女は独り言のように呟きながら少しづつ近づいてくる男の気配を察知していた。
―――さて、どうしましょうか。
少女の手の内は既に昨日の戦いでさらしてしまっている。結界魔法による逃げ道の封鎖、そしてひたすら攻撃を与え続ける持久戦を展開する。魔力量が何よりも多い少女だからこそできる最強無敗の戦略である。
しかし、それは魔法攻撃が少しでも通じることが絶対条件である。リヴァイアサンもそうであったが、男もまたその例外に含まれているのだった。
―――となると、この解明が最優先ですね。オリジナル魔法だと思っていましたが、どうやら男の口ぶりからしてそうではないようですし。疑わしいですが強さに直結することなので嘘ではないでしょう。
「……分かりましたよ。深淵とやらを使いこなせるようになればいいということでしょう?ならやって見せますよ。」




