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接敵

「クックック!!さて、どう出る?リヴァイアサンを止めるか?それとも俺様を殺しにくるか?


 どちらにせよ、任務は達成する。この街は今日で終わりだ。……はてさて、一体誰が俺様の前に立つだろうなあ?」


「ずいぶん機嫌がいいじゃないか。逆賊の分際で景気がいいとはふざけたこともあるもんだ。」


「昨日みたいな不覚は取らないよ。君は逃がさないしこの街も壊させない。」


 水面を揺蕩う船のように揺れるリヴァイアサンの背の上で街を眺めていた男の前に、二人の姿があらわれた。一人は青を基調とした王国近衛騎士団の軍服を纏い、その上に魔力でできた光の鎧を身につけている。もう一人はパーティーに出るご令嬢のような春色のドレスを身につけている。そしてその肩には一人の精霊の姿がある。


「クックック!俺様は身軽なんだ。ただ求めるは己の強さのみだからな。貴様らと違って守るものなどない。そして、貴様らには果たして俺様に構っている余裕があるか?」


 リヴァイアサンも二人の姿を認めて動きを止めている。その目は濁っており、何を考えているかを推察することはできない。だが、またすぐに街に向かって泳ぎ始めるのは誰の目にも明らかだった。


「俺様の計算じゃ、リヴァイアサンの進撃を止めるにはSランク二人でも足りない。神代において悪神を撃退するためにこの星の神に造られた神像兵器だ。永年の眠りを無理やり叩き起こした最悪の寝起き状態とはいえ、人にどうこうできる道理はねぇ。」


 たとえそれが完全武装の勇者であろうとも。たとえ精霊に好かれている精霊王であろうとも。


 たった二人で世界そのものとも形容できる神と渡り合えるわけがない。その歩みを止められるはずがない。


「ーーーそう思っているのか?」


 ビシッという世界が歪むような音と共に動き始めかけたリヴァイアサンの動きが固まった。よく見ると海水がリヴァイアサンの体に巻きつき動きを止めている。


「ふん、何かと思えば。水属性魔法程度でリヴァイアサンを止められるとでも思っているのか?…………なんだ貴様、その姿は!?」


 男の視線の先にはさっきまで精霊王だった何者かが立っていた。その肉体は流動的に揺蕩う光の結晶と化し、周囲に体表が気化した光の破片が粉雪のように空中を舞っている。


「ようやく気づいたか。いいか?確かにSランク二人でもその気になったリヴァイアサンには敵わん。数分程度押し留めるのが限界だろう。だがな、私がいる。」


「貴様は、精霊王ではないのか!?」


「ああ、違う。世間ではそう言われているが、そもそも自称したこともない。大方、始祖精霊である星精霊を従えているからだろうが、私はその程度の存在ではない。


 私はな、かつてこの星のために戦った神像兵器の忘れ形見の片割れなんだよ。」


「ッ!?」


「分かったか?いくら相手が正真正銘の神であろうと、半分神の私と勇者の二人がいればどうとでもなる。」


「ーーーーーーー!!」


 突如、音にならない咆哮をリヴァイアサンが上げた。そして濁った瞳に明確な敵意を込めてティターニアを睨みつけた。

 海水がリヴァイアサンの体をその場に縫い止めているが、それでも咄嗟に上げていた頭や翼はその限りではなかったのだ。


 そしてその翼を力強く振るった。


 その動作は単純に強風を起こしただけに見えたが、実際にやっていることはかなり高度であった。魔力を込めることで一陣の風がカマイタチとなり肉体を傷つけることがあるが、それを数十数百と重ねている。その上に自身の破壊の権能も上掛けしている。この攻撃を少しでも当たってしまえば、そこは深い裂傷となりそこから全身が壊れていくことになるだろう。


 が、その破壊の嵐は絶えず襲い掛かっているが二人の元に届くことがなかった。正確にはティターニアの伸ばした手に吸い込まれるように嵐が小さく収まれていく。


「やはり操られているだけだな。攻撃が単調だし、そもそも私に風やら炎の攻撃は一切効かない。」


「……なんだと?」


「聞いてなかったのか?私は星の精霊と契約しているのだ。大地も大気も()()()()()()()()()()()()が干渉対象だ。」


「……クックック……!出鱈目だな。神像兵器というだけある。」


 異変に気付いたのか、リヴァイアサンも攻撃の手を緩めていく。


「だがそうなるとリヴァイアサンを止めるのはお前だけで十分だろう。なぜ勇者もここにいる?俺様の相手か?」


「まさか。お前の相手は別にいる。そもそも本気のリヴァイアサンを私一人で抑えることは出来ん。


 ―――勇者、来るぞ。」


 ティターニアの言葉の直後、リヴァイアサンがその顎を大きく開いた。その喉の奥に計り知れない量の魔力がとてつもない密度となって瞬時に溜まっていく。


「分かってる!


 ここに勇気と正義、その果ての勝利を示せ!聖剣解放―――絶対なる光の皇龍(リンドヴルム)!!」


 聖剣から顕現した光龍が素早くリヴァイアサンに近づき、その口の中に自身の頭部を突っ込んだ。直後、喉の奥に直接攻撃を叩きこんだのか、リヴァイアサンの喉のあたりで大爆発が起こった。


「ふう、これでよかったんだよね?」


 光龍を聖剣の中に戻しながら勇者がティターニアの隣にゆっくり近づく。


「そうだ。だが、爆発が起こった瞬間に男が街の方に突っ込んでいくのが見えた。


 ヨミがあの男を捕え、魔道具を破壊するまでここにリヴァイアサンをとどめおくぞ。」

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