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朝は始まりを告げる

 海深くから放たれた甲高い叫び声と共に領都は朝を迎えた。船そのものは港につけられていたことと津波にも似た大波がヨミによって凍らされていたことで大破を免れていたが、先日の襲撃を受けて誰も漁に出ていなかった。


 幸運にもその叫び声と海神が再度その姿を海の中から現すのには数分の間隔があった。その数分でアーサー、ティターニアをはじめとした強者は現場につくことができた。家屋の屋上に立ち、遠くの海面を眺める彼らの顔には固い決意が浮かんでいた。たった数時間前にたてた作戦を実行し、確実にこの街を守りきるために。


「来たか。いいか、私があの男を捕えてリヴァイアサンを従えている魔道具を破壊する。勇者とヨミはその間リヴァイアサンを足止めしてくれ。そしてカレンは私の騎士を連れて遊撃だ。危ないと思った方に加勢を頼む。」


「了解。なるべく早く頼むよ。」


 昨夜立てた作戦とは、すなわち男の持つ魔道具、神封の呪杖を破壊しリヴァイアサンを解放することである。しかし魔道具とはいえ神話の時代の遺物である。それを確実に破壊するために少し過剰とも思えるがティターニアが男の相手をすることになったのだ。戦闘狂の男の相手としても申し分ない。


 だが、


「クックック!!よお、領都の諸君!昨日ぶりだな!!今日の俺様の遊び相手はてめぇらだ!!」


 リヴァイアサンの背に乗った男が街中に響き渡るように大声でそう宣言した。領都の諸君、そういったのだ。


 その宣言の最中もリヴァイアサンはゆっくりと波を立てながら浜辺に近づいてきている。大きな翼でまるでオールのように海水を漕ぎながら昨日の戦闘地点を超えて港にずんずんと近づいてきている。


「……!そういうことか!作戦変更だ!私と勇者でリヴァイアサンを止める!その間にヨミ、お前があの男と戦って杖を壊すんだ!!カレンはヨミのサポートとこの街を守ってくれ!最悪男は殺してもいい!」


 4人は男の目的を見誤っていたのだ。彼がただの戦闘狂であったのであれば、立てた作戦は十分にうまく行っていた可能性は高い。しかし、その目的がまったく違ったのだ。


 男の目的はこの街を破壊すること。ひいては王国と連合を分断し、後の戦争を有利に進めることだった。つまり、何をしようが結果この街が破壊されていればよかったのだ。たとえリヴァイアサンの破壊の咆哮でなくても、巨大な体躯によって押しつぶされるようにして崩壊したとしてもよかった。


 そうなったとき、最高戦力の二人がリヴァイアサンにつきっきりとなる以上、完全にフリーとなる男一人でも一つの街が破壊可能であるとティターニアは分かったのだ。たった一撃のパンチで街は壊滅的なダメージを受けかねない。


 ティターニアとアーサーはすぐに飛び立った。狙いがリヴァイアサンの巨体による街の圧壊であると分かった以上、確実に不利であると分かっている海上でリヴァイアサンと戦わないといけないのだ。たとえ少しであったとしても余裕が必要だった。


「……ふわぁあ。寝不足で頭がボーっとしてたので話を聞いてませんでしたが、つまり私はあの男に引導を渡せばいいということですか。」


「そういうことよ。……どうする?連戦で疲れているのなら、私がやる?」


「いいえ、カレンさん。あの男を助けてこの街に厄災を運んだのは私なんです。せめて私がけじめをつけないと。」


「そう。まあ、好きにしなさいな。私体はせいぜい住人に被害がいかないように目を光らせておくわ。」


 それだけ言うとカレンさんも姿を消してしまいました。……すごいですね。二人は空を飛んでいったので何をしたのかわかりましたけど、カレンさんはその動きを世界が認識できなかったかのようにすごい静かにいなくなりましたよ。


「男はまだリヴァイアサンの背に乗っているようですね。あの存在に常に意識を向けておかないと。ただでさえリヴァイアサンとか勇者様のせいでここら辺は普段の感覚が働かないんですから。」


 普段魔法使いは、特にソロの魔法使いは魔力感知によって全方位を警戒している。自分の魔力をまるでエコーのように周囲に放ち、その反射によって周囲を把握しているのだ。しかし、今この現場においてそれはまったくと言ってもいいほど役に立っていない。なぜなら桁違いの魔力の渦のようなものが出来上がっているからだ。ヨミの魔力はその渦に飲まれてしまい、感知がバグってしまっているために信頼できなくなってしまっている。


「そう言えば、ジャイロとアイシャは大丈夫でしょうか?昨日はそのまま放置してしまいましたけど。家に被害がなかったので大丈夫だと思うんですけどね……。


 まあ、大丈夫じゃなくても吸血鬼なら死にませんかね。一夜ありましたし、回復しているでしょう。」

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