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心の空いた穴は魔法で埋めましょう

「……。…………。」


 ギルドから飛び出して街の中をふらふらと歩いています。私が一体何をしたというんでしょうかね。彼らの成長のためにこの2年くらいずっと考えて行動していたんですが。


 コウセツが剣を使うというから剣の使い方を学んで、それを教えました。実際私の筋力では剣を握れても振ることはできなかったので基本的なことしか教えられませんでしたが。


 ジュンには盾の使い方をしっかり見せて教えてました。まだ成長しきっていないジュンは私と同じような体型をしていたので盾で攻撃を受け止めるよりも受け流す方が向いていました。なので震える足を奮い立たせて私自身がモンスターの前に立って盾の使い方を実践して見せました。


 エリザにはしっかりと私の持つ魔法の上達方法を教えてあげました。この街で唯一のデュアルキャスターである私が一番それに詳しいですからね。なにせただ魔法を使えればいいというわけではないですし。ギルドの厳しい試験に受かって証明が得られて初めてデュアルキャスターに認められてCランクを与えれるんですから。


「ヨミ、これからどうするのだ?貴様の教え子たちは明らかに貴様を裏切っていたが、それでもまだあれらの面倒を見るつもりなのか?」


 肩にいるアリエルが心なしか心配気な声を上げます。


「……さすがにもう面倒を見ようとは思いません。きっと彼らとは決定的に何かが合わなかったのでしょう。彼らのためにももう何も手出しはしませんよ。


 ……ああ、でも不思議ですね。困っている人がいたら助けるのが当然で、それに善も悪もないと思ってましたし、その結果自分がどうなっても構わないと本気で思ってました。なのに大切に育ててきた彼らに裏切られた、たったそれだけ。自分が死んだわけでもないのに、心の中にぽっかりと穴が開いたような、それなのにその穴から怒りが際限なく沸き上がってくるようです。」


「そうか。……よかったな。」


「え?」


「まだ理不尽に怒れる確かな心がある。別れに対し悲しめる感性がある。それは他者のために自分を使い潰すことに対する抵抗であり、他者のことだけでなく自分のことも考えることができる人間性だ。

 つまり、まだその心は人間だったのだ。」


「……人間?」


「そうだ。もっとも体はそうじゃないがな。もう立派な吸血鬼だ。ほら、月明かりが心地いいだろう?」


 アリエルに言われるままに空を見上げるとそこにはきれいな満月が浮かんでいました。闇夜を照らすその光はこれまで見たものとはまったく違うものでした。光の結晶が空中を揺らめき、それはまるで夜の精霊が踊っているかのような美しさでした。


「きれい……。」


「覚めぬ悪夢はない、昇らぬ月はないと私は教わった。どれほど深い絶望もどれだけ強い憤怒も時が解決するという意味の言葉だ。

 大丈夫だ。いつかはきっと、笑いながら話せる時が来る。」


 ……時間が解決する、ですか。なら私もいつかこんなことがあったんだよって自分の失敗談を笑いながら話せる時が来るんでしょうか?

 この底知れない怒りも、虚しさも、いつかは忘れられるんでしょうか。


「そうさ。きっとくる。ヨミ、貴様が考えているよりももっと早くにな。」


「なんですか、それ。そんな無責任な。」


「ははは。まあそんなもんさ。

 しょうがないからその手伝いをしてやろう。傷心中の娘のケアと思えばそう悪いものでもない。時にヨミ、貴様は魔法が好きだったな?」


「え、まあ好きですけど。」


「よし、私が魔法について教えてやろう。吸血鬼に、しかも白銀ともなればこれまでと魔法を使う時の勝手が違うだろうからな。」




 そう言ってアリエルが指定したのは周りに人がいない、でも魔物がいる場所でした。そんな場所、街の近くにあるわけないでしょうが!と思いましたが、どうやらそうでもないようです。なにせもう時間帯的には夜ですからね。みんな寝ていますよ。


 なのでせっかくなので樹海に来ました。ゴリルが怪しい動きがあるとか言ってたのでその調査もかねてここに来ました。人がいない、魔物はいる。絶好の立地ですね。


 ちなみにこの樹海の向こう側は多種族連合の領地です。多種族連合とは文字通りエルフやドワーフなど亜人と呼ばれる複数の種族が生活している国です。遠い昔に人とその亜人との間で戦争があったそうです。なんでもエルフやドワーフが迫害されたからとか、人間を劣等種として扱ってきたからだとか理由はあるそうですが真実は知りません。


 まあそれは置いておいて、向かい側はその中でもエルフが住む領域です。魔法と弓に優れた彼らはごく少数ですが冒険者として活動している人もいて、その人達はみんなBランク以上の実力者でした。きっとみんな優秀なのでしょうね。


「ここでどうでしょう。この樹海になら少し入るだけで魔物がいると思いますよ。」


「いいだろう。早速入るぞ。まずは魔物を見つけたら普段通り魔法を放ってみろ。」


「りょーかいです。」


 アリエルに言われた通りに森の中に足を踏み入れました。


 ~~5分後~~


「ちょ、マジですか!?数が多すぎですよ!!しかもなんか強いですし!!」


 森の木々の上から石を投げつけてくるサルの魔物、クレイジーモンキーの群れがとんでもないです。やつらめ、数で有利を取ったからといって調子に乗りおってからに!!しかも厄介なことに全員同じ距離を保ってやがります。


「もう、全力で行きますよ!!」


 無詠唱でアイスバレットとダークバレットを周囲に全力で放ちました。氷と闇の結晶が放射状に放たれ、周囲のクレイジーモンキーに襲い掛かります。時間稼ぎ程度にしかならないでしょうけど、それで十分です。詠唱の時間は稼げました。


「これでおしまい!アイシクルスフィア!!」


 私の手のひらの上に氷で出来た青い球体が浮かび上がりました。この魔法は氷系統の魔法全ての素となっているものです。ここから形が変わり他の攻撃魔法や防御魔法になります。

 この魔法の利点を上げればたくさん出てきますが今はいいでしょう。


 さあ、かかってきなさい!!見つけ次第全員返り討ちにしてやります!!


「……おい。よく見ろ、もう生きてるのはいないぞ。」


「……えっ!?私初級魔法しか使ってませんよ?それで倒せるほどクレイジーモンキーって弱かったでしたっけ?」


「そりゃ違うだろうよ。勝手が違うと言ったろう?今の貴様は白銀の吸血鬼だ。人間の頃と比べている方がおかしい。」


 ほえー。そんな強くなってるんですか、私。全然気づきませんでした。


「さて、違いに気づけたところで講義といこうか。伝説の吸血鬼による講義だ、しっかり聞けよ?」


 肩からすたっと地面に降り立った黒猫の姿をしたアリエルが目を細めながらそう宣いました。

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