隔世スキル
「……そうだな。ヨミも真祖だ、知っていてもいいだろう。いずれは向き合わなばならなくなる。」
少しの溜めの後にティターニアさんは再度話し始めました。
「スキルにはいくつか種類がある。
一つは普遍スキル。生まれた環境や境遇で芽生えるスキルだ。双子などに芽生える共感、共鳴などがこれにあたる。
一つは超常スキル。体の一部や感覚を強化、または第六感と言われるような新たな感覚部位を獲得できるスキルだ。この街にいる冒険者が持っている神眼とかがそうだ。あれは目に光以上の情報を取り入れることができるようなスキルでも最高峰だと言ってもいいだろう。
一つは特殊スキル。超常スキルとは違い、身体機能の拡張では説明がつかない能力をさす。世界最高の鍛治師が持っているというこの世に存在しない金属を作り出す錬金術や、王国の大賢者が持っているという全てを無に帰す虚無円環がそうだ。どちらにせよこの世の理を平気な顔をして乱せるほどのスキルだ。
そして最後が隔世スキル。かつて神話で語られた伝説と呼ばれた者たちが持っていたスキルが時を隔てて今の冒険者に継がれたものだ。それは圧倒的能力の他に、最初のスキル覚醒者の記憶もともに受け継がれる。
普遍スキルから隔世スキルに行くにつれてその数は減っていき、隔世スキルに至っては5つしかない。つまりは今のSランク冒険者のことだ。」
……なるほど?スキルとは縁のない私が聞いても興味深い内容ですね。まあ、それは今は置いておいて、
「では勇者様は隔世スキルというもので初代勇者様の記憶を見たということですか?」
「まあそうだね。全部はまだ見れてないけど、それで吸血鬼のことは知っていたよ。歴史に隠された彼らの活躍も全て。」
「……そう、ですか。」
……おかしいですね。私はただアリエルから話を聞いただけなのに、味方がいるというただそれだけの事実に自分でも心配になるくらいにまるで自分のことのように嬉しく、安心してしまいました。
「一応別枠に深淵スキル、アビスがあるが、今は置いておこうか。
つまりはこの場にいる人は全員吸血鬼の本当に歴史を知っているということだ。納得できたか?」
「はい。とても。」
アリエルたちの世界を救うための孤独な戦争を知ってくれている。それは充分すぎる理由です。
「ならよし。
さて話を続けようか。私と叔母様、そしてヨミは皆真祖の吸血鬼だ。叔母様に至っては始祖の吸血鬼でもある。」
「っ!?」
「始祖!?ということは……!」
「ああ、私はアリエル。かつて邪神と戦って無様に負けた真祖にして始祖の吸血鬼だ。今はヨミの母をしている。」
……。またそんなことを言うんですか?話を聞いた限り確かにアリエルは勝てませんでしたけど、でも負けてもいません。もしアリエルが負けていたらもうこの世界は無くなっていたんですから。
「っ、違います!私は初代勇者のウーサーの記憶を見ました!あの戦争の責任はあなたにはない!そもそもの話、あの戦場にはウーサーと初代剣聖が行くはずでした!しかし彼らの力が及ばすアリエル様にご迷惑をかけた!」
「違うな。勇者よ、貴様も記憶を見たのなら知っているだろう?私は勝てたのだ。実際勝てていた。だが、最後のその瞬間にやつを殺せなかった。」
私の膝の上で小さく体を震わせるアリエルからは、たとえ幾千年経とうとも薄れることのない悔恨の念が感じられました。……ですが、その存在を"共感"で感知できたとしても、私にできることは何もありません。私がコウセツたちを見捨てられなかったように、アリエルも目を背けることができないのでしょう。
「……今その話はおいておこう。とにかく、始祖の叔母様が目覚めた。それだけで世界が動く。」
私は事前に話を聞いていましたが、お二人はどうでしょうか?私は腰を抜かしましたけど。
「世界が動く?」
「一体どう言うことよ?」
「邪神 アンリマユ。かつて世界を巻き込んだ大戦争を起こした張本人が目覚めるのだ。5人の犠牲の末にその力の大半を失ったはずだが、さすがに6000年以上の月日が流れれば回復するということだろう。」
神話で語られた悪神、アンリマユ。それが神話の時代を経てよみがえるという話です。でも私は逆だと思うんですよね。アリエルが目覚めたから邪神が復活するのではなく、邪神が復活するからアリエルが目覚めたのだと。
「……そうなんだね。」
「驚かないのか?」
私の予想と反して勇者様はそこまで驚いていません。隣のカレンさんもそこまで衝撃を受けたようには見えませんね。……え?どうしてでしょう?邪神が目覚めるんですよ?
「うん。だって歴代の勇者の力の伸び幅が少しづつ小さくなっているようなんだ。そしてとうとう先代の勇者と僕の力の差はほとんどない、らしい。
そして隔世スキルの特性上、このスキルは初代勇者ウーサーの力を再現する力のはずだよね。つまり今の僕はかつての最強勇者と同程度の段階までスキルの力を引き出せているということなんだ。」
「つまり?」
「昔からずっと、スキルの中から力と同時にウーサーに訴えかけられているような気がしててね。
―――曰く、決戦の時は近い、って。」




