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幾千年

 これはアリエルの話とジャイロらから聞いた伝承を組み合わせた私なりの解釈です。正しいとは限らないので悪しからず。


 伝説以降の吸血鬼の歴史は血濡れていました。他者の血ではなく、彼ら吸血鬼自身の血で。


 伝説で語られるのはこの星をめぐる大戦争です。この大地を支配せんと降臨した悪神と5人の英雄の物語。の後、彼らは守っていたはずの人間から迫害を受けました。この世界を救ったのはアリエルを含んだ5人であるというのに。


 ここには二つの理由があるようです。一つは当時アリエルが吸血鬼として認識されていなかったこと。5人の中でもアリエルと当時の魔王は別格でこの二人だけは神と対等に戦うことができたそうです。そのため、二人は天がこの星を救うために遣わした天使、またはそれに類するもの。つまり吸血鬼としては見られていなかったんです。


 そしてもう一つが決定的でした。原因は分かりませんが、戦争の途中で一人の吸血鬼が悪神側についたそうです。そしてその吸血鬼はこの星の民の血を啜り、吸血鬼を増やしどんどん勢力を増していきました。頑強な敵を従順な配下に変えるという強力な手段を前に勢力図は優勢から拮抗に、拮抗から劣勢へと変わっていきました。


 結果は、5人の犠牲の果てに悪神は追い返され、この星は救われました。多くの命が失われた血で血を洗う戦いは終わり、ようやく平和が訪れました。


 しかし、戦争の興奮が冷めやらぬうちに戦犯の処罰を求める声が上がったのです。悪神に心酔し従った配下の一族はまだしも、被害者であるはずの悪辣な支配に屈服し従ったものまで。そこには今はいないとされている魔人族やエルフ、ドワーフなどの亜人族、そして吸血鬼が含まれていました。


 魔人族と吸血鬼は追討され、その数が極端に減ってからでもその存在が忌み嫌われるようになりました。そして亜人族は人族からの排斥にうんざりし、人とは関係のない国を彼らの手で作り上げました。それが今の多種族連合です。


 ……さて、なんでこんな話を突然したかというと……。


「叔母様!本当に叔母様だ!!お久しぶりです!!」


「あ、ああ、そうだな。何年振りかはもう分らんが久しぶりだな、ニア。」


「叔母様も趣味が悪いですね!せっかく目が覚めたのにそれを隠してるなんて!」


「隠してるつもりはないんだが。さすがに力が落ちていてな、お前達が感知できるほど回復できてないんだ。」


「そうだったんですね!それは仕方ありませんね!!」


 ……一体何事ですか?アリエルにくねくねしてるこの人がティターニアさんですか?信じられないんですけど。アリエルの目も心なしか虚ろになってます。


 ですが、彼女の態度からアリエルが吸血鬼であることを知っていることは間違いなさそうです。まあ吸血鬼だとバレたとしても今のアリエルと私ならどうにかなりそうですが……。


 でもアリエルを叔母様?どういうことでしょう?


「……ねえヨミ。やっぱりついていけないんだけど。あんなティターニアもそうだし、あの女の子もさっきまで猫だったよね?しかもヨミの肩の上で寝てたよね?」


「……勇者様。私もついていけないです。アリエルのことは知ってましたけど、それ以上に目の前の光景が異常すぎて……。」


「僕はどちらかというと猫が少女になった方に驚きが隠せないんだけど。しかもあの時突然現れていなくなっちゃった子だし。カレンは?」


「……そうね。ニアは猫が好きだったのかしら?」


「え?そういう話じゃなくない?」


 確かにそんな話じゃなかったですね。……もうもはや話題が散らばりすぎててよくわからなくなってきましたけど。


「心配はしてなかったが元気そうで何よりだ。それで、サーシャはどこにいるんだ?お前達は仲良かっただろ?」


 私達が混乱している内に二人の話も進んでいたようです。しかし、アリエルの問いを聞いたティターニアさんはその瞬間動きをピタリと止めました。きゃぴきゃぴしていたのが嘘の様です。


「……お姉さまは、ここにはいません。今はお母さまの代わりに魔王をしてます。」


 魔王?ということは兄妹か姉妹かは分かりませんが、二人でSランクの枠を二つも埋めているということになりますけど。


「そうか。……サーシャにも会いに行かないとな。そこにノエルの棺があるんだろ?」


「はい。そうです。私はここに行けと言われたのでそれに従いましたが、おそらくお姉さまは今でもあそこにいると思います。


 ―――ところで、あの子はもしかして娘さんですか?」


 さっきまでアリエルから視線を一切外さなかった精霊王の顔がグリンと音が聞こえそうな速度で私の方を向きました。


 ……こっわ。怖すぎます。突然の挙動もそうですけど、それ以上になんか目がイっちゃってるんですけど。鳥肌が止まらないんですけど。


「ニア、歪んだ欲望を私の娘に向けるな。怖がってるだろうが。」


「っていうことはやっぱり娘さんなんじゃないですか!!」


 それだけ言うとティターニアさんは踊るように私の前に近づきました。不思議なことに動きはゆっくりだったはずなのに、身動き一つとることができませんでした。


「ひっ!?」


 そのままティターニアさんは流れるような動きで私の頭を撫で始めました。

 ……なんで私は頭をなでられてるんでしょうか??


「昨日はごめんね、あんなひどいこと言っちゃって。今日からお姉ちゃんが守ってあげるからね。もう大丈夫だよ。」


 ……はい?お姉ちゃん?

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