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決着

 男は今度こそ心の底から驚愕した。


 ―――因果干渉の能力ではないのか?いや、本人がそれは認めていた。だとしたらカウンターをそもそも狙っていなかったのか?そうだとすれば攻撃の無効化だけにスキルが働いたと納得できる。だが、そんなに状況に応じて干渉する内容を変えられるほど融通が利くようなものではない。一体、何をしたというんだ?!


 実際、因果掌握の下位に属する因果干渉系のスキルは反射神経に近い形をしている。攻撃を受けたらそれを回避し、反撃するといった一種のプログラムに似た動きをする。ゆえに融通は利かず、動きを予測されやすい。


 当然、その動きを予測できたとしても反応するのは至難の業であるし、男がしようとしたように相手の反撃に攻撃を合わせるには反撃を最低限のダメージに抑えるための超人的なスピードと覚悟が求められる。それこそ怪我を一切負うことなく対応できるのはほとんどいないだろう。


「……クックック!面白いじゃねぇか!」


 敵の強さも未知数、そもそもスキルの内容すらもわからない。勝てる可能性なんてないかもしれない。それにそもそも倒せたとしてもその敵を倒せたとしても終わりじゃない。まだアーサーの後に本命の精霊王が待っている。最終的に待っているのは確定した敗北だけ。


 だが男はそれでも殊勝に笑う。


「何が面白いの?殺さないとはいえ、絶体絶命なのには変わりないのに。」


「バカか、お前は!逆境上等、その先に俺の求める強さがあるなら猶更だ!」


「ぷっ、……あははは!なにそれ。君は強くなりたいんだ?」


「そうだ!ここには精霊王がいるんだろう?最初はこの街を人質にあれと戦うつもりだった!」


「そのためだけにここに喧嘩売るなんて、命知らずにもほどがあるよ。君みたいなのはあんまり見たことがない。


 分かった。いいよ。もし万が一、君がここから生きて帰ることができた時に少しでも君の望みに近づけるように今出せる全力を出してあげるよ。」


 アーサーはそれだけ言うと、剣を光に戻した。そして目を閉じ、手を前に突き出した。


「示すは絶対の正義、我が殉じるただ一つの道標。

 それは過去を明かし、現在を照らし、未来へ繋ぐ架け橋。

 他が為への勇気に芽吹くその剣を今我が手に。


 聖剣召喚――勇気を示す正義の剣(エクスカリバー)。」


 耳をつんざく高音が勇者の手元から放たれる。とてつもない圧力を持って光を帯状に伸ばし、それを編み込むように剣が象られていく。持ち手に龍が巻き付くような精緻なデザインが施され柄にその頭があしらわれる。そしてそこからまっすぐに剣刃が伸び、そこから白光が漏れる。


 エクスカリバーを持つアーサーの姿はまるで神話に描かれる初代勇者ウーサーの生き写しの様な神々しさを持っていた。初代のSランク冒険者が悪神アンリマユを倒し、世界を救うという実話を物語調に記された神話であるが、それは大陸全土に広まり愛されている。


 そしてその姿に魅せられたのはアーサーと対面している男も例外ではなかった。たとえ敵であったとしても神話に出るSランク冒険者に憧れた人間の一人である。


 だが、男はすぐさまその恍惚とした表情を引っ込め、獰猛な笑みで上書きした。


「それがとっておきか、勇者!!」


 アーサーはゆっくりと瞼を開くとその蒼く輝く瞳でまっすぐに男を見据える。


「……そうだよ。これがエクスカリバー。神話に語られる最強の勇者剣だ。」


「クックック!!その言葉を待っていたぜ!


 お前の最強を!!俺様の最強で叩き潰す!!全力でかかってこいや!!」


 男は次で最後だと言わんばかりの鎧となっていた超濃密な魔力を自身の体に集中させた。自然と魔力でできた鎧は消え、体は無防備になる。が、その鎧がなくなったことで男の狂暴性があらわになった。近づくものすべてを拳一つで破壊しかねないと錯覚させるほどのものだった。


 その濃密な魔力は男の左腕に集まり、先の一撃の時を超えて凝縮されていく。魔力という目に見えないものがその放つ力場によってその存在を目視できるほどである。


 対してアーサーはこれまで落ち着かせていた魔力を始めて励起させた。だが、男とは違いそれは攻撃性ではない。見る者すべてに勇気と希望を与えるような別の意味で圧倒的なオーラを放つ。そのオーラに感化されたようにエクスカリバーの柄で龍の目が怪しく青く光り始めた。


「行くぜッ!!


 極限膨張爆拳ビックバン・インパクト!!!」


聖なる光を纏いし光龍(聖剣 エクスカリバー)。」


 男の拳の一撃は街一つを塵一つ残さずに破壊しつくすことができるほどの威力を内包している。爆発が爆発を呼ぶような形ではなく透明な拳撃がまっすぐに放たれる。


 それに向かい打つようにアーサーの聖剣から光龍が放たれ、その攻撃をすべて飲み込むようにその大きく顎を開いている。


 そして空中でその二人の攻撃が衝突した。


 男の攻撃はそこを起点にすべてを飲み込むように透明な結界のようなものが広がっていく。通常であればその結界は男の魔力の限り広がり、広がりきった直後その内側には絶え間ない爆発の嵐が吹き荒れる。


 が、今はアーサーがそれを向かい打っている。光龍はその結界の膨張に抗うようにその大きさを増していく。そして結界の膨張に追いつき、それに大きな口で膨張を妨げるように噛みついた。


「おおおおおあああああ!!!」


 男は限界を超えてさらなる魔力を攻撃につぎ込む。光龍の口内で結界が膨張しようと暴れ始めるが、光龍は静かにそれに耐え続ける。


「終わりだよ。」


 が、その拮抗もアーサーの一言で終わりを告げることになった。結界を咥える巨大な光龍を、それをまた飲み込む形でより大きな光龍が現れた。あたかもマトリョーシカのように聖剣から放たれたその光龍は男の攻撃を先に放たれていた光龍ごと飲み込んだ。


 直後、光龍の中から聞いたこともない悲鳴のような爆発の音がした。光龍はそれに構わずリヴァイアサンの上でへばっている男にまっすぐ突き進み、そしてそのまま飲み込んだ。


「うおわああぁぁあぁああ……!」


 男の悲鳴が戦場に寂しく響いた。

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