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SランクとAランクの違い

 ―――なんでこの空間で普通に立ってられるんだ?


 セロの胸中にはそれがあった。男の魔力が満ちたこの空間はすべてが狂っていた。重力、時間、空間そのすべてがランダムに切り替わり続け、セロを除く冒険者の全員がノックアウトした。神眼があるセロは何とか活動できたものの、セロの体内の魔力も体力も同時に狂っていた。そのため、突然増えたり減ったりを繰り返していた。いうなれば乱数の如く変動する自身の状態を常にモニタリングしつつ戦わなければならなかったのだ。


 だが、1分も持たずに彼は消耗しきってしまった。これまで扱った事のないほどの大量の情報を処理させたせいか、神眼からは血が噴き出しこれ以上のスキルの使用が難しいことを自分に敵にも示していた。それでも今空間に立っていられるのは、Aランクとしての意地、エルフの里の里長の子としてのプライドが故だった。もっともただ立っているだけで精いっぱいではあるのだが。


「君は下で休んでおくといい。お仲間もいる。それに僕の仲間が一緒にいてくれているから安心だよ。」


 視線は向けられていないが、それが自分に言われているのは明らかだった。場違い、その言葉が彼の頭を支配する。


 今ここで引いてしまってもいいのか。もう二度と近づけなくなってしまうのではないか。いや、そもそももう一度立ち上がることができるのだろうか。と。だが、不運なことにそれと同時に自分に何もできないのも分かってしまっていた。


 頭の中が焼き付きそうなほどの激しい葛藤の末、セロはゆっくりと地上へと下がっていった。ただ、視線は男へと強く向けたままに。




「クックック!とうとう邪魔者がいなくなったな、勇者!」


「そうだね。僕にとっても好都合だ。これで全力を出せる。


 聖剣召喚――混沌満ちる裁定の剣(シャスティフォル)。」


 アーサーが小さく呟いたのち、彼の手に光が集まり剣の形を象った。しかしそれは剣と呼ぶには少し歪であった。柄がなく剣刃のみであり、ゆえに彼の手に握られているのは刃の部分である。当然のようにアーサーの手にも食い込んでいる。剣刃がキラキラと輝く、両刃の長剣である。


「シャスティフォル……!悪を捌き、善を敷くという裁きの剣か!


 クックック!俺にはおあつらえ向きだなぁ、おい!」


「そうだね、僕もそう思うよ。ああ、あとついでにこれも邪魔だね。


 正義の名のもとに悪を裁く。悪晴らす正義の呼び声コールオブジャスティス!」


 瞬間、彼の剣から強烈な光が放たれた。


「ぐッ!?おおおおッ!!」


 それは視界を灼くほどの輝きであった。5秒ほど世界を照らした後、光が収まった。


「……へぇ?随分深い(強い)んだね、君。」


 アーサーの手に収まっていた聖剣から光が失われてただの剣となっていた。


「はぁ、はぁ。……クックック!俺のと完全に相殺されたか。Sランクともあろうものがその程度とはなぁ!期待外れも甚だしいぞ!!」


 二人が使っていたスキルはただのスキルではない。心身共に死に極限まで近づき、その淵から帰ってきたものだけが獲得することができる深淵(アビス)と呼ばれるものだ。持たざる者は天地がひっくり返っても持つ者には勝てないと断言されるほど、それは強者と弱者の分水嶺として上位者の中では定着していた。


 そのスキルは生物が死という深淵から逃れるためにカウンターとしてその身に後天的に宿る。ゆえにただ与えられただけのスキルよりもその強度ははるかに高い。


 だが、スキル獲得の過程からして深淵(アビス)の効果には一定の規則が見られる。それは本人が心の底に刻みついた、いわば魂の咆哮である。


 例えば、男の場合。男は終わりの見えない最強という道を狂気を持って歩み続けた。折れた足を引きちぎり、霞んだ目を握りつぶし、それでも絶えず歩み続けた。そうして死の淵に自らを叩き落とした男はその果てに狂暴化(バーサクラッシュ)を獲得したのだ。自らを含め、周囲のものから規則、理性、秩序を奪い、狂気の嵌に落とすという、最低限の秩序を持つ人間や魔物に対し圧倒的優位を取れるという凶悪のスキルを。


「クックック!!所詮は俺の狂気とあんたの正義は同程度だったということだ!」


 そんな強者の象徴たる深淵(アビス)同士がぶつかったらどうなるのか。それはスキルの相性、開眼したものの力量などによっても決まるが、一番の要因はどれだけ淵に近づいたかである。たとえ相性が悪かろうが、相手の方が強かろうが、結局は心身共に死にどれだけ近づけたかによって決まるのだ。


「そうかな?そうだといいね。


 聖剣召喚――未来を閉ざす排斥の剣(カルンウェナン)。」


 アーサーは光を失った聖剣(シャスティフォル)を光に戻すと、即座に新たな剣を召喚した。


 アーサーの手には怪しく紫に輝く細剣が握られていた。よく見ないとわからないが細剣の中は空洞になっているため、ただの細剣として使うことは難しいだろう。だが、その剣から発せられている怪しい輝きが異様な威圧感を放っている。


「なっ!?二本目、だと……!?」


「じゃあ、仕切り直そうか。」

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