Aランク冒険者の戦い
領都にいるAランク冒険者は合計8名いた。
神眼のセロをリーダーに据えた前衛の男女2名、中堅のセロ、後衛男女2名のバランスの取れた5人パーティー。あとはエルフ族の魔法使いのみで構成された女性3人パーティー。
この8人が同時に戦うことなどこれまでなかったが、それでもAランクである。土壇場の連携は得意なようで、セロのパーティーを前に魔法使いパーティーは後ろで待機している。
「風属性結界魔法 春風の庭園」
セロが発動した結界魔法によって戦場は再度覆われた。
男はただ発動した結界魔法に警戒していた。が、それも一瞬であった。わずかな警戒心を持ちながらも、その太い腕に大量の魔力を込めて思い切り振りぬいた。
「ぬううんっ!!」
彼はヨミを見て知っていたのだ。空を飛ぶ飛行魔法も便利なようでどうしようもない欠点があると。空に魔力だけを頼りに浮いている時点でお察しだが、物理的な強風に弱い。
だが、彼の剛腕から放たれた強風が届く前に彼ら冒険者は風が届かないほど後方に引いていた。直後、後ろに控えていた魔法使いから魔法が放たれ、彼の体が硬直した瞬間を的確に狙い打った。複数の属性による攻撃は爆発を起こし、煙を上げた。
「クックック!!この程度かぁ!?てめぇらAランクってのはよぉ!!」
その煙の中から無傷の男が出てきた。
「……固ったいねー。ミカン、リンゴ、手を貸して。アレやるから。」
エルフのパーティーリーダー、イチゴの声にこたえるように、3人のエルフが集まった。
それと同時に示し合わせたかのように、前衛二人が共に前に飛び出した。二人とも盾を持たず、剣のみを手にしている。唯一の違いとすれば、女性の方がスピード重視、男性が火力重視といった印象を持つ武器を持っていることだろうか。
男を挟み込むような形で両サイドから二人が迫る。
どちらかに意識を向ければそれだけで、意識の向かなかった方から攻撃を仕掛けられることは分りきっていた。が、男はあえて男性を正面から向かい打ち、女性の方に背を向けた。
「ッ!」
戦いの最中に背を向けられた。彼女はその無警戒にさらされた背目掛け、自身の出せるトップスピードで迫った。そしてそれと同時に剣をまっすぐ突き刺した。
だが、その瞬間まるで時間が圧縮したかのように彼女の視界がゆっくりになった。その時、彼女の視界に映ったのはこちらに手を伸ばすパーティーメンバーの男性の張り詰めた表情。そして彼女の剣を視線を送ることなく躱した男の歪んだ表情であった。
「バカかよ!」
誰もいないところに勢いがついた突きを放った彼女の体は無防備であった。男がその隙を見逃すことなく、素早く首を掴むと勢いよく男性めがけて投げつけた。
女性を何とか受け止めた男性であったが、それと同時に先ほどの女性と同様に動きが止まってしまった。
「食らいやがれ!酸魔圧縮砲!!」
そんな二人めがけて、先ほどとは比較にならないほどの魔力を込められた一撃が放たれた。
その一撃はただのパンチのはずであったが、実際に爆発を起こした。その爆発は二人を完全に飲み込んだ後も拡大を続けた。その勢いのまま5秒ほど爆発をしてからようやく爆発は収まった。
その爆煙の中から煤にまみれた二人が飛び出してきた。特に男性の方は女性を庇ったのか、体中ボロボロだ。外見だけでは体中から血を流しているだけのようにみえるが、おそらくいたるところの骨も折れているはずだ。
「クックック!!どうだ、これが俺の力だ!!」
ただの魔力を込めたパンチ一撃の威力にセロは冷や汗が止まらない。敵の強さを侮ったのではないかと、確信にも似た疑念が心の中に浮かぶ。
今発動している結界魔法の効果はほとんどない。結界内の味方の攻撃力を上げることもないし、なんなら自分自身を強化するということもない。
この結界の効果はただ一つ。セロの声を任意の相手に音を介さずに届けること。すなわち、念話である。
だが、この結界の効果は彼のスキルとよくかみ合っていた。結界魔法を使える時点で彼自身も実力者であることは違いないが、中でも卓越していたのは指揮能力である。未来を見てそこから戦略の構築、そしてそれを即座に味方に共有する。
「仕方ない。戦略を変えるか。」
早々に戦略を変えることを決定したセロは最後に全員に念話で次の作戦を伝えると結界魔法を解除した。そもそも今まで使っていた戦略はパーティーメンバーに120%の実力を出させる代わりにセロ自身はまったく戦えないという代物だったのだ。そのため、最も彼らが使っているものではあったものの、敵は自分たちよりも弱い魔物や盗賊を想定していたのだ。今回の敵がおそらく自分たちよりも強いとなった時点で切り替えるのはいたって当然のことある。
「ん?なんだ?諦めたのか?」
「まさか。我ながら恥ずかしいことに君の実力を見誤っていたみたいでな。これからは本気で行く。
風属性結界魔法 冬空駆ける木枯し」




