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真祖の姫VS伝説の神龍

 ピシッと小さな音が静まり返った戦場に響いた。その発生源はヨミの足元からだったが、音は連鎖的に響いていく。


 数秒の後に凍り付いていた大波は海水の中に消え、ほぼ同時に海水面の凍結も解けていった。ヨミの体は再度宙に浮き、手に持った杖を握り直した。


 両者は向き合い、互いに魔力を高め合った。双方の魔力は際限なく高まっていく。


 リヴァイアサンも今目の前に立っている一人の少女が伝説の存在である自分自身に限りなく近い存在であると感じていた。


 その魔力の衝突はその場に居合わせたものからしたら無限に思えるほど長く続いた。ありえないほど強大な魔力が両者からあふれる。


 最初に動いたのはリヴァイアサンだった。


 喉の奥に大量の魔力を集め、それを圧縮する。すぐに飽和し、それ以上圧縮できない状態になり抵抗も大きくなっているが、それでも構わず魔力を圧縮していく。その結果生じた超高密度の魔力はもはや、小さなブラックホールとでも言えるような代物になっていた。そしてそれに指向性を与えてブレスとして発射する。それは伝説では海を割り、地を焦がすと形容されたものであるが、実際は大地も海もすべてを飲み込み破壊しつくすものである。


 瞬時にその状態まで圧縮したリヴァイアサンは口を開くのみという最低限の動作でそれを目の前に立つヨミに放とうとした。


「ッ!」


 それを察したヨミは同時に魔法を無詠唱で発動させた。


 リヴァイアサンの口からその破壊の攻撃を放たれる前に、その顎を真下からヨミの放った魔法である氷のハンマーが迫る。ヨミの魔法は最速、最短距離で標的めがけ放たれ、その結果リヴァイアサンが攻撃を放つ直前にギリギリ間に合わせることができた。


「ゴッ!?」


 物理的に顔を真上に向けさせられたリヴァイアサンはたまらずその破壊の攻撃を上空へと打ち上げた。その攻撃は透明な波動となって放たれ、空に浮かんでいた雲を散らして遥か彼方へと消え去った。


 リヴァイアサンはすぐさま視線をまっすぐに戻したが、その時に目に映ったのは自らへとまっすぐ突っ込んでくる敵の姿だった。


「……白の大地、白む視界、銀の煌めき、定まる針、閉じる世界。


 氷属性結界魔法 白銀世界(ホワイトアウト)。」


 彼女の現在地を中心として発動した結界魔法はリヴァイアサンの全身を飲み込んでなお拡大していく、そしてその拡大は街へと到達する直前になってようやく止まった。


 すなわち、これまでしたことがない規模まで結界の範囲を広げたのだ。そしてそれだけではない。結界魔法の中心をさっきまでヨミがいた場所に固定し、結界の外に出られないように一定の強度を与えた。


 結界内部が一瞬で吹雪に包まれ、その中の様子を把握できるのはヨミを除いて一人としていない。伝説の存在であるリヴァアサンでさえ、光も魔力も的確に感知することができなかった。


 だが、結界魔法の性質をリヴァイアサンは知っていた。結界の内側に敵の存在があることを。


 結界魔法の発動とともに始まった猛攻をその強固な鱗で受けながら、リヴァイアサンは冷静に敵の所在を把握するために自身の魔力を目に回した。


 リヴァイアサンが視線を向けた先は吹雪が晴れ、その様子を目でも見ることができるようになった。だが、それも視線を向けている間だけのことで、少しでも視線をずらしてしまうと再度吹雪によって先ほどまで見ていた部分は覆われてしまう。


 リヴァイアサンの心境は複雑であった。


 リヴァイアサンは神龍である。そのため、リヴァイアサンの持つすべては人の道理から外れたものである。目や翼は当然として鱗一枚をとってもそうなのだ。


 リヴァイアサンの目は破壊の神眼である。ほぼすべてのものを一睨むするだけで破壊できた。それを遮る魔法に対して、そしてそれを発動した魔法使いに対して感じたのは、


 ―――思い通りにいかないことに対する微かな苛立ちと喜びである。


 海神からそんな感情を向けられているヨミの状態は限界に近かった。体の中がぐちゃぐちゃにされている不快感と戦いながら立っている。


 まず、ヨミの想定外が二点あった。


 一つは消費魔力についてである。


 ヨミの想定以上に結界魔法と少しの攻撃魔法で魔力を消費していた。


 結界魔法は発動さえしてしまえば維持に魔力が必要ない。それはヨミが経験上理解したことで、実際それは間違ってはいない。


 だが、それは通常の運用をした時に限るのだ。今ヨミが使っている結界魔法の規模は前回使った2倍以上とそれは通常からはかけ離れている。


 その無理を通した結果、結界を維持するためにも魔力を消費することになり、かなりの速度で魔力を消費してしまっている。


 二つ目はその魔力についてである。


 体の内側からあふれ出てくる力が魔力であり、それをためられる量が魔力量である。このあふれ出てくる量は体が壊れないように無意識のうちで制御されている。しかし無意識で制御されている以上、また無意識でこの制御が一瞬外れてしまうことがある。


 このことを知っていたヨミは今、()()()()その制御を取り払っているのである。つまり、体の内側から大量に魔力があふれてくる状態を意図的に作り出しているのだ。


 加えて言うと、今のヨミは魔力をためるという過程を飛ばし、あふれ出てくる魔力をそのまま魔法に転用している。


 当然この二つのことを普通の人間が一秒でもやったら一瞬で体の中の魔力を制御しためる機能が壊れ、魔力を絶えず垂れ流しにしてしまう。これは絶えず魔法を撃ち続けているのと同じ状態であり、もう普通の生活に戻ることなどできなくなる。


 そんな無理を通せているのは一重に彼女が真祖の姫であるからだ。真祖の再生能力は体の一部が残っていれば数秒で全身を治せるほどのものであり、体の内側の機能を治す等容易であったのだ。


 だが、それはそれだ。今のヨミはそんな厳しい状態の中で魔法を維持しつつリヴァイアサンと戦っているのだ。

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