冒険者ギルドに行ってみました。
「……………。朝、ですか。」
「ようやく起きたか、愚か者め。立派に昼間だ。」
翌朝(昼?まさか)目が覚めたときに真っ先に感じたのはとてつもない倦怠感でした。体中に重りを吊り下げられたような、地面に体を縫い付けられているかのような怠さ。
風邪でもひきましたかねぇ?
頭に手を当てて熱を測っている私に部屋の奥から黒猫がのそりのそりと歩み寄ってきます。
……ん?なんで口の周りが白くなってるんでしょうか?そんなものおいてましたっけ?
「吸血鬼が風邪などひくか。その倦怠感はただ強烈な浄化の光が地を照らしているからだ。太陽が沈むまではそれから解放されぬぞ。
ただ、さすが白銀というべきか、成り立てのくせしてもう昼間に起き上がれるのか……。」
「……白銀?ってなんですか?」
「吸血鬼の種類のようなものだ。黒銅、白銀、朱金の3つしかないがな。夜にしか動けない代わりに月に完全に魅了された生粋のナイトウォーカーである黒銅、慣れれば昼間も普通に動けるがその分月の加護をそこまで得られない朱金、そしてその両方の良い面だけを継いだ白銀。
まあ、今生きている吸血鬼はもう私とお前だけだから知っている必要もないがな。」
「……。え?」
私とアリエル以外の吸血鬼がいない?どう言うことでしょうか?
「少し話しすぎた。忘れてくれ。とにかく貴様は浄化の光をレジストできるだけでなく、月の加護も得ることができる珍しいタイプの吸血鬼なのだ。」
「へぇー。そうなんですか。っていうことは今から外を出歩いても大丈夫でしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。準備ができたらギルドに向かうぞ。」
「そうしましょう。そうとなれば早速朝ごはんです!!」
ミルクを探していた黒猫に荒らされたキッチンに飛び込んだヨミの悲鳴が家中に響いたのはまた別の話。どこの世界でも部屋を荒らす元気な猫がいるということなのだろう。
ふへー。この町も変わりませんね。いえ、おそらくそんなに離れていたわけではないと思うので変わるはずもないんですが。
変わったのは周囲の視線ですかね。なんでそんな視線を向けてくるんでしょうか?私ここに住んでる冒険者なんですけど。そんな好奇心を掻き立てるような存在ではないし、特に同業者にはバカにしてくる人が多かったと記憶してますが。
はあ、まあ早く冒険者ギルドに向かうとしましょう。彼らと話さないといけないこともありますし。……いますよね?
好奇の視線にさらされながら道を歩いてようやく中心にあるギルドにたどり着きました。ふう、予想以上に疲れました。これは吸血鬼の弊害だけではないと思います。確かに浄化の効果を持つ日光はこれまで感じたことがないほどのまぶしさを伴って私を突き刺してきました。でもそれ以上に謎の視線の方が突き刺さってたような気がします。
よし、一息つけました。行きますか。
ギルドの4つある入り口のうち魔法使い向けの窓口が近い一番右端の扉を開けると、そこには何度も見た光景が広がっていました。
このギルド一階の半分近くを占める自由スペース。そこには大量の丸机といすが配置されていて、冒険者達の待ち合わせや話し合いの場になっています。当然飲食もできるので夜になればほぼ毎日のように宴会が開かれています。私は参加したことありませんが。
何が言いたいかと言えば、昼過ぎに来たというのにまだ依頼も受けずにだらだらしている冒険者がたくさんいるということです。そしてまた向けられる視線。大半はこちらを確認しただけですぐに視線を戻しますが、ちらほらと私から視線を放さない人もいます。その中に―――。
「おお?なんだ、誰かと思ったらコネ魔法使いじゃねえか。一週間くらい見ねえからくたばったもんだと思ってたら髪の毛とか染めてたのかよ。」
……やっぱりまだいましたか。私と同じCランク冒険者のゴリルです。剣と盾を使うオーソドックスな剣士タイプなんですが、なぜか私に当たってきます。いや、まあ分かりますけど。私は水と闇の系統をギルドに認めれたため入ってすぐにCランクでしたけど、彼はFランクからコツコツ頑張ってきたようですし。そりゃ、ズルしたと思ってるでしょうし気にも食わないでしょう。
「髪の毛を染めたわけではないですよ。ただ色は変わってしまいましたが。それよりもゴリル、コウセツ達を知りませんか?」
「ああ?あの生意気なクソガキか……。あいつらは朝から依頼で街を出たはずだ。っていうかお前のパーティーメンバーだろうが、なんでリーダーのてめえが把握してないんだ?」
「いやあ、お恥ずかしいことにさっき起きたばかりなんですよね。仕方ありません。今日はここで待っているとしましょうか。」
「そうかよ。勝手にしろ。」
私の目の前から仲間の方へと歩いていきます。当然ですが彼もこの街のギルドでパーティーを組んでいて、その実力は唯一Bランクに手が届くとか言われています。
その途中でゴリルは足を止めて私の方を振り返りました。何かまだ言いたいことがあるんでしょうか?
「……一応てめえもCランクだ。教えておいてやる。近くの樹海にどうやら怪しい動きがあるそうだ。気は進まねえがその時が来たら手を貸せ。」
―――あのクソガキどもの面倒を見てたくらいだ、この街に愛着があるんだろ?
それだけ言い残すともう振り返ることはありませんでした。




