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死滅呪

「うっ……。ここは……。」


 しばらくすると、ドン=バンキが目を覚ました。さっきほどまで朦朧としていた意識も覚醒したようで、目には理性が宿っている。しかし、依然苦しそうな様子は見て取れる。


「あんた!目が覚めたのかい!?」


 ジャイカがベッドの側に駆け寄っていく。


「あ、ああ。一体、何が……?」


「昨日の朝、漁から帰ってきたと思ったらぶっ倒れたんだよ!回復魔法もポーションも効かなくて、もうだめかと思った……!」


「……ああ、そうだった。あのバケモンに食われかけたんだったな……。」


 その時の光景を思い出したのだろうか、体が少し震えている。体全体から闇が漏れ出ていることから想像はできたが、やはり全身に攻撃を受けていたようだ。


 それでも無理やりバンキは起き上がろうとした。しかし、それをできないほどバンキの体は衰弱しきっている。一目見ただけでも体は病的にやせ細り、力も十分に入っていないことがうかがえる。


「まだ起き上がらないでください。状態は良くなっているかもしれませんが、治せたわけではありません。」


 ヨミはそれを分かっていたかのようにすぐに制止した。


「それにあなたは長い時間呪いに侵されていたんです。それも3大禍死呪の一つ、死滅呪に。」


「ッ!?」

「なんだって!?」


「今はただこの結界魔法で呪いを薄めているだけです。なので結界からは出ないでください。


 そしてこの呪いを解く方法ですが、それはかけたものを殺すこと以外にありません。つらいとは思いますが、怪我をした時の詳しいことを教えてください。」


「あ、ああ、分かった。」




 思えばあの朝は漁に出る前から妙な胸騒ぎがした。空の様子も風の気配からも時化の前兆は見られない。ただ、漠然とした暗雲が俺の心の中に立ち込めていた。今思えばこの直感を信じるべきだった。これまでも感覚で危険を回避してきたのにも関わらず、それを無視した罰なのだろう。


 いつも通り海に出てもこの不気味な胸騒ぎは収まることもなかった。それどころか胸の中では現実とは裏腹に嵐の兆候がいくつも見えてしまっていた。


 漁自体もつつがなく終わり、昨日以上の成果だった。周囲の部下たちはみんな想像以上の成果に浮足立っていた。部下といってもまだまだ新入りで教えることしかない。そんな部下たちに叱責の声を飛ばし続けたからだろう、この時も気づけたはずだったことに気づけなかった。ほんの少し魚たちが水面付近を泳いでいたような気がする。ほんの少し慌ただしかったような気がする。俺たちに対する警戒感がほんの少し緩かったような気がする。


 その時だった。海の中から突然鞭のような何かが勢いよく飛び出してきた。それにはぞっとするほど鋭い鱗がびっしりと生えていて、そしてそれと同時にありえないほどの殺意を孕んでいた。


 俺は即座に部下たちに帰還命令を出した。俺が乗っている船のほかに3隻も漁に出ていたから、そこにも緊急信号を送らせた。


 だが、俺でさえ想定外かつ初見の事態だ、部下たちがすぐに動き出せるわけもなかった。特に俺の側で()()を見ちまった一人は殺意にあてられて腰を抜かしちまいやがった。


 その気配を敏感に察した()()はこれまたすさまじい勢いで身動きがとれねぇ俺の部下に襲い掛かった。


 咄嗟に部下を突き飛ばした。何やってんだって思うかもしれねぇが、これが年長者の責務ってやつだ。それに俺はこれでもそれなりに強いんだぜ?昔冒険者してた時はCランクまで上げられてたしよ。


 その結果部下は助かり、俺はそれにつかまった。万力で締め付けるように強力に巻き付かれたと同時にそれは海に引きづりこもうとしてくる。巻き付かれた強さが正直想像以上だった。それに鋭い鱗が体に突き刺さって体中から意識が飛びそうなほどの激痛が走る。


 自分の状況とかは置いといて、これを食らったのが部下じゃなくて本当によかったと思った。部下だったら確実に死んでいた。


 意識を繋げ止めながら体中に魔力を巡らして全力で身体強化をした。久しぶりだったがどうにかうまくいって、力ずくではあるが()()から逃れることができた。





「こんな感じだな。あとは大急ぎで港まで戻って家までついてから倒れたって感じだ。」


「なるほど。となると、呪いをかけたのは間違いなくバンキさんに攻撃をしてきた魚?なんでしょう。」


「ああ、そうだろう。それ以外に見当がつかない。」


 魚ですか。そんな強力な呪いを使う生物なんているんですかね?これを使える術者も私は私以外知りませんよ。


「……遅れたがありがとうな、師匠様。」


「お気になさらず。別に善意からやっているわけではありません。ただ情報が欲しいだけです。」


 実際そうです。私は私が気まぐれで助けた敵を見つけるために少しでもいいから情報が欲しいだけなんです。ただその魚は少し気になります。さすがにその魚があの男ではないでしょうけど、バンキさんからしても初めて遭遇するそれが無関係とは思えません。多少は関係があるでしょう。


「そうかよ。ならどんなことを知りたいんだ?俺はここで長く暮らしてるし、それなりに地位も高い。知ってることは多いぜ。」


「そうですね……。」


 正直にある男を探しているといってもいいんですが、それはそれで危険です。混乱につながるかもしれません。なら仕方ありません。


「バンキさんは攻撃をしてきた魚について何か知りませんか?予想でも何でもいいです。」


「そうだなぁ……。少なくともここで100年近く海に出てるがこれまで見たことはなかった。だからおそらく魚ではないだろう。


 ……もしあるとしたら、誰も見たことがないっていう海神様くらいだな。いや、それ以外思いつかないといった方が正しいが。」

3大禍死呪の説明はこの章の中でするつもりです。

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