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三日目

「……。」


 結局寝ないで魔力のコントロール、体内制御をやってたんですけど、全然うまくなりません。なんか嘘を言われたんじゃないかと、アリエルを疑いたくなるほど全然進展がありませんでした。


 なんていうんですかね、魔力の消費をしてるわけじゃないし体は吸血鬼なので肉体的にはまったく疲れてないんですけど、ただひたすらに精神的な疲労感が押し寄せてきます。まるで悪い風邪をひいたような気だるさが私の中で渦巻いています。


 そして今、冒険者ギルドで例のハーフヴァンパイアの兄妹を待っているわけなんですが……。こんな朝から負のオーラを纏っているのは私だけですよ。他の冒険者はこれから依頼に乗り出そうと元気いっぱいですからね。


 昨日はソロのBランク冒険者がやってきたってことで、それなりに注目を集めてたんですけどね。今日はそんな冒険者も私を避けているようです。……いや、避けていた、ようです。ついさっきまで。


「よう、朝っぱらからなかなかのオーラだな、魔女っ娘。」


「……だれが魔女っ娘ですか、だれが。」


 声がした方向に視線を向けるとそこには赤い髪のいかにも異性から人気がありそうな優男が立っていました。耳がピンと伸びているのでエルフなんでしょうね。


「そんな帽子に猫まで肩に乗せてんだ、しょうがないだろ。どんな格好をしようがあんたの勝手だがな、魔女っ娘。

 遅れたが、俺はセロ。Aランク冒険者“神眼”のセロ。よろしくな。」


「はあ、そうですか。Bランク冒険者のヨミです。……なぜ私の正面に座るんですか?」


 セロは私の座ってるテーブルの向かいに当然のように腰を下ろしました。……というか、Aランク冒険者なのに二つ名とかあるんですね。


「なんか困ってるようだからな、先輩として相談に乗ってやろうと思っただけだ。」


「……まあ困ってることがないわけじゃないですが、あなたに分かりますかね?」


 以前もいましたよ、こういう輩。私が冒険者ギルドに入ってすぐの時でしたか、魔法を教えてやるとか言って冒険者が近づいてきたんですよ。それも一人ではなく、何人も。


 その時の私はまだデュアルキャスターの試験に受かっていなくて、ただのEランク冒険者(駆け出し)だったんですが、それでも水と闇の属性の魔法はそれぞれそれなりに使えてたんですね。ただ、同時に二つの属性を扱うことは難しくてできなかったんです。だからそれについて聞きました。


 ――どうしたら二つの適性の魔法を同時に使えるようになりますか、と。


 そうしたら、決まって彼らはこのようなことを言いました。


 ――そんなのできたってしょうがないだろ。それよりも俺のパーティー入れよ。一人で女で魔法使いだと危険だろ?


 ようは私の相談なんてはなから乗るつもりなんてなかったんですよ、彼らは。ただそれを口実に私を勧誘したかっただけ。


 ……随分なことだと思いませんか?勧誘ならそれ単体で来ればいいものを、私が困ってるっていう現状を利用してきたんですよ。私はただ疑問に答えが欲しかっただけなのに。


「まあ言うだけ言ってみなって。」


「……はあ。じゃあさっきから外でなにやら騒いでますが、なんでだか知ってますか?」


 さっきまでかけらも興味はありませんでしたが、そういえば外から声が聞こえてくるんですよ。


 やれ、「海神様に感謝をー!!」とか、「リヴァ様の祝福だー!!」とか。


「あー、あれね。あれはうちの漁業組合のしきたりみたいんなもんでね。また明日もたくさんとれますようにと祈りをささげてるんだ。」


「誰にですか?」


「海神リヴァイアサンだ。誰も見たことはないが、それでもこの街では信じられてるらしい。」


「ふーん。珍しいことをするんですね。……それにしても信じられてる、ってことはあなたは信じてないんですね。」


「まあ俺はエルフの里の出身だからな。しかも一つの里長の息子だ。信じるのは森の精霊だけと決めている。」


「そうですか。それは随分ご立派なことで。……それでは連れが来たのでそこどいてもらってもいいですか?」


 視界の端にギルドに入ってきているジャイロとアイシャの二人の姿が見えました。Aランク冒険者なんかに近くにいられたら彼らもこっちに来づらくなるじゃないですか。


「そう邪険にしなさんなって。まあこっちも仲間が来たからこれで失礼するよ。じゃあな。」


 それだけ言うとセロは私の前からいなくなりました。


 ……はあ。まったく朝から変なのに会いましたよ。


「ヨミさん、おはようございます。」

「お待たせしたッス。」


「はいはい。おはようございます。」


 二人は昨日と同じような簡易的な装備でやってきました。急所を守る最低限の防具に腰には剣をさしています。あ、昨日渡した杖も一応持ってくれていますね。


「ヨミさん、今セロさんと話してませんでした?」


「ああ、話してましたよ。気になります?」


「いえ、ただあの人には厄介なスキルがあるのであまり関わらない方がいいかと思いますよ。」


「スキル、ですか?」


「そうッス。スキル“神眼”。なんでもあらゆる情報を目で見ることができるようになるとか。過去や未来は言うに及ばず、焦りや怒りとか相手の精神状態なども見ることができるらしいッス。」

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