情報交換(一方的)
「……とまあ、ここの冒険者の二人と仲良くなれたものの、それ以上は特に何も収穫はなかったです。
ただ、一つ気になることがあるとしたら、彼らが居候になっている家の主人さんが怪我をして帰ってきたことくらいですかね。」
「ふむ?というと?」
「その主人さんは結構なベテランな漁師さんらしくて、ここ最近はほとんど怪我をしてきたことがなかったそうなんです。ただ今日は結構重い怪我をしてきてしまったそうで、短くても1週間は自宅療養になってしまったらしいんです。」
「なるほど?つまり、海の方で異変が起きてるかもしれないということだね?」
「そうですね。偶然かもしれませんけど。」
ただ、偶然にしては少し引っかかるんですよね。ベテランになれば想定外の出来事なんて慣れっこになるでしょうし、そうすればそんな全治1週間みたいな大怪我を負うこともないと思うんですよ。まあ、当然未熟な部下を被って、とかはあるかもしれませんけど。
「……なるほどね。確かにそれは盲点だった。僕達異人からしたら海は良くも悪くも目立つもんね。目をつけててもおかしくない。
でももし、海で何かをやるってなったら一体何が目的なんだ?動機がさっぱりわからない。」
「状況から考えると、何かを狂暴化させることができる、と予想ができますけど。」
「そうだね。でもそれだけじゃここの街は変わらない。これまでも稀に海獣と呼ばれる異常個体が港を襲うことがあったみたいだけど、精霊王がそのすべてを撃退してるっていう話だよ。本人が言ってたから間違いない。」
「そうですか。……本人、ですか?」
「そう。僕は最初に精霊王に会いに行ってたんだ。なにせここに結界を張っていたのは彼女だから少しでも情報が得られないかとね。
そうしたらね。おそらく性別は男。背格好は筋肉質で身長は180cmくらい。そして結界を無理やり押しとおったから大怪我をしてるかもしれないらしいよ。」
なるほど。男で180cmくらいの細身、それでいて大怪我をしてるかもしれない……。
……あれ?何か覚えがありますよ、そんな男に。
「ヨミも覚えがあるよね。」
「……初日に会ったあの男ですか。」
路地裏で倒れていたあの男。確かにあの爛れた右腕は簡単な回復魔法では治せないほどの重傷でした。地面に座り込んでいたので身長は分りませんが、どちらかというと腕とかも太かったように思います。
それに今考えれば、あんな深手の傷を負っておきながら人目のつかない路地裏で倒れてるなんておかしな話ですよね。まるで何か都合が悪いことを隠しているようじゃないですか。
……うわー。声をかけるどころか回復魔法までかけてしまいましたよ、私。何やってるんでしょうね。
「……おかしいと気づくべきでした。あの話を聞いた後だったのに。」
「いや、ヨミだけが悪いわけじゃない。その場に僕もいたのにそのまま素通りしたんだ。
それにほら、物はいいようだよ。僕達はまったくなかった手掛かりをつかんだんだから、前進だよ。」
「……そう、ですかね。」
「そうだよ。反省することも重要だけど、それに捕らわれると動きが強張るからね。それよりも誰の目にもそれが向かないような活躍をしよう。あー、そういえばそんなこともあったな、って失敗をどうでもいいと思ってもらえるような実績を積むんだ。
それに後悔は全部終わった後にしたほうが、客観的に見れるからいいと思うよ?」
……経験則でしょうか。その顔からは一瞬笑みが消え、沈痛な表情に染められました。とはいっても一瞬です。すぐに穏やかな笑みに支配されましたが。
失敗を肯定し、受け入れる。それを成長につなげるためとはいえ、自分の弱さと向き合うことが強さにつながるのだと。でもそれは勇者様にとってもきっと簡単なことではなくて、多くの失敗と後悔、反省の果てで行きついた答えなんでしょう。
「そうですよね。……あの男は私が捕まえます。この街にかけらの被害も出させずに。」
ならその後ろを歩むものとして、私はそれを証明するんです。間違ってなどいない、正しかったのだと。
困ってる人を助けたい、なんていう高尚な生きる指針をもらっておいて、その導きを無視するなどという礼の欠いたことをすることはできません。
「そうだね。僕達であの男を捕まえよう。」
「お熱いな。私も混ぜてもらおうか、勇者にその従者。」
不意に部屋の中からいないはずの人の声が聞こえてきました。
「いい夜だな。精霊たちもよくはしゃいでる。」
声がした方を向くとティターニアさんとカレンさんが立っていました。なぜかその頬は赤くはれてましたけど。まあ十中八九何かやらかしたんでしょうけど。
隣のカレンさんがやりきったみたいな顔してますよ。




