くぅ…… 後
「ん……?あれ?ここは……?」
おっとそんなことを話している内に目を覚ましたようですね。私の膝の上で目をしばしばしています。
「大丈夫ですか?」
前かがみになって覗き込むように視線を合わせながら聞きました。……これがよくなかったんでしょうね。
一体何が起こっているのかよくわかっていないように目をこすりながら私の目を見つめ返してきます。不思議そうな顔をしていましたが、瞬きを数回すると目を大きく見開きました。
「!?すいません!?」
自分の置かれている現状に気づいたのか、ジャイロは勢いよく起き上がろうとしました。
さて、何度も言うようですが、この時の私は前かがみになっていました。要は頭が前に出てたんですね。次の瞬間には、視界が一瞬彼の髪色である緑色に染まってそれを追うように鈍い音と衝撃がやってきました。
たまらず後ろに倒れてしまった私ですが、ジャイロも同じく倒れてしまっています。
「くー……。」
「ヨミ、大丈夫か?なかなか鋭い頭突きだったな。」
「言ってる場合ですか……。」
まだちょっと視界が揺れてる感じがしますが、私は吸血鬼。どうせすぐに治ります。普段ならそれを隠すために回復魔法を使ったりしますが、別に今はそれもする必要はないでしょう。
「ちょっ!?大丈夫っすか!?兄貴!?」
どうにか立ち上がったところでアイシャの焦った声が私達に届きました。
視線を向けると、そこには頭から血を流して倒れてるジャイロの姿がありました。
「ええええ!?一体何があったんですか!?え?まさか、私!?私そんなに石頭じゃないですよ!?」
ジャイロが頭から血を流している原因はもう何を見るよりも明らか過ぎました。百パーセント、私の頭とぶつかったことが原因でしょう。
でもなんで彼は事故現場みたいなことになってるのに私はほぼ無傷なんでしょうか?
「当然だ。吸血鬼は再生能力が異常に高いだけで、その実防御力は人間以下だ。太陽の破邪の光のせいでその再生能力が制限されるからあんなことになる。
私達は昼間でも最低限の再生能力を維持できてるが、あの二人は血がそこまで濃くないからおそらく今は防御は紙よりも薄いだろうな。」
はあ?つまり、いくらでも再生できる紙みたいなものっていうことですか?……ってことはちょっと待ってくださいよ?
「え?っていうことはつまり、このまま放置してても治らないってことですか?」
「そういうことだな。」
「そういうことだな、じゃないですよ!すぐに治してあげないと!!」
やれやれ、だいたいあんな姿勢をしてたヨミが悪いだろう、とでも言いたげなアリエルを置いてまた私はジャイロに回復魔法を当てることになりました。……今度はアイテム袋から出した毛布を畳んで枕にしてあげました。私は悪くないはずですが、さすがに申し訳なくなりましたからね。
「……すいませんでした。」
起き上がったジャイロを私は謝罪で迎えることになりました。アリエルにも怒られましたが、そもそも悪いのは私ですもんね。
だって無意識のうちに威圧をしてしまっているのに、わざわざ寝起きに近づいてたら誰でも同じことをしますもんね。……それに油断してなければ躱せてましたし。
「え!?いえいえ、あんまり覚えてないんですが、僕がぶつかりましたよね!?頭をあげてください!」
「そうっスよ!うちの兄貴がボーっとしてるから悪かったんスよ!いっつも言ってるじゃないスか!だからヨミさんが誤るようなことじゃないッス!!」
「なっ!?ボーっとなんてしてないぞ!ただずっと気を張ってるのは疲れるじゃんか!だから適度に気を緩めてるんだって!」
「その結果がこれじゃないッスか!ほらほら、兄貴の方こそ頭を地面にこすりつけて謝るッス!」
「アイシャに言われなくてもするつもりだったね!残念だったな!!」
「はぁー!?なんっすか、その言い方ぁ!妹として見過ごせないッスよ!」
あはは。突然にぎやかになったなぁ。
……そういえば最初の頃は、あの子たちもこんな感じだったなぁ。懐かしい。やれ剣が強い、二刀流はカッコいい、魔法の方がすごい、見た目がかわいい。とかだったなぁ。
「ふふっ。」
思い出していたら不意に笑いが漏れてしまいました。答えなんてないのに、それを必死で相手に認めさせようとしてるあの姿が重なって見えます。
「すいません、笑ってしまって。随分仲がいいんですね。」
「……へへっ。そうなんですよ。アイシャがいない人生なんて考えられないくらいです。
……改めて、すいませんでした。あと回復魔法ありがとうございます。」
「気にしないでください。私も大丈夫ですから。」
照れたように笑うとジャイロはそう言ってきました。その間アイシャは顔を赤く染めてそっぽを向いてましたが、あれはきっと照れ隠しなんでしょうね。
「よし、話は終わったな。まずはお前達が知ってる吸血鬼のことを教えてくれないか?」
そのタイミングでアリエルが話に入ってきました。……そういえば何か話したいことがあったんですもんね。忘れてましたよ。




