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真夜中の会談

「ふわぁーあ。ようやくあの小僧がいなくなったか。」

「小僧じゃなくて勇者様ですよ、アリエル。それよりも空飛んでる間もずっと肩の上で寝てませんでしたか?」

「当然。私の体とヨミの肩を空間で繋げておいたから落ちる心配もなかったからな。」

「そんなことまでできるんですか……。というか、たかが昼寝のためにそんな高度なことしないでくださいよ。」

「高度でも何でもないがな……。だが、あれが勇者か。私が知ってる勇者よりも随分弱いな。」

「ええ?そうなんですか?」

「ああ。Sランク冒険者は私の時代から生まれたものだし、その名も変わってない。勇者、精霊王、剣神、魔王、それに神威。といっても神威は私のことで死んでないからいまだに空席だろうがな。」

「そうですよ。5名が上限のSランクですが、そのうち存在しているのは4名だけです。

 それでアリエルの知り合いの勇者様は強かったんですか?」

「今の勇者に比べるとな。正直、比べることがおこがましいくらいだ。アイツとはよく本気で模擬戦をしたものだが、今の勇者だと半分でももたないだろうな。」

「それは……。戦った事はもちろん、戦ってるところを見たことがなくてもわかるものなんですか?」

「それはな。長年の勘というものだ。

 だが、不可思議ではある。弱いは弱いが未熟というわけではない。だが、これ以上成長の余地がないかと言われたらそれも違う。なんというべきか、表現しずらいな。」

「力を隠してる、とかですか?」

「そんな簡単なものではないが、それに近い。あの様子だと封印でもない。自ら制限をかけているわけでもない。」

「自ら制限って……。そんなことできるんですか?できたとしてもする人いないと思うですけど。」

「そうか?探せば案外いるものだ。修行のためとか、力を隠すためとか、それこそスキルの発動のためとかな。」

「スキル、ですか。」

「そうだ。なんでも結構長い間能力を制限して修行をすると制限した分だけそれ以外が強くなる“等価交換”というスキルに目覚めるそうだ。例えば剣を封じたら魔法の威力が増えた、みたいな感じだ。」

「それは、随分使い勝手がよさそうですね。」

「とんでもない。スキル名通り、失ったものしか得られない。だから、たとえヨミこのスキルを持っていて剣を封じたところで、大して魔法は上がらんだろうさ。一方で魔法を封じたところで今の魔法ほどの実力を剣で発揮できるわけでもない。」

「ええ……?じゃあやっぱり使えないじゃないですか。」

「まだまだ考えが甘いな。例えば剣と魔法両方とも使える魔法剣士とかいうジョブだったら?」

「あ……。魔法使い、剣士、魔法剣士として戦えますね。しかもそのスキルを使えば、魔法と剣は突然強くなるんでしょう?となると、かなり有用ですか……。」

「そういうことだ。ものは考えようだ。少し考えてみるといい。きっと、そう遠くないうちにスキルが芽生える。」

「スキルは芽生えませんよー。覚醒するだけです。」








「……まったく。一体だれが新しい吸血鬼についたと思ったらお前だったんかい、兄弟。」

「ん?ああー、王様じゃん。久しぶりー。」

「うん、久しぶり。でも契約はできていないようだね?なにやってんの。」

「いやー、それがきいてよ、王様ー。この子、全然嘘ついてないのに、嘘ついてるんだよ。」

「?何言ってんの、お前?たった一文で矛盾するんじゃないよ。」

「いや、本当だって。僕の精霊目は間違いなく嘘じゃないって言ってる。でも契約術式は嘘だって言ってるんだよ。そんなことこれまであったっけ?」

「……ないよ。そんなことはこれまで一度も。僕の知っている限りだとない。」

「だよねー。だから一応仮契約って感じにしてるんだけど。」

「仕方ないね。一応この契約って吸血鬼が増えすぎないようにしてたんだけどなー。あの吸血鬼には意味無いだろうし。」

「あれ?そんな理由だったっけ?」

「そうだよ?平均的に高いステータスを持つ吸血鬼が増えすぎると問題だからね。自分に向き合って、正直になれたものしか存在を許さないつもりで作ったんだよ。普通の吸血鬼だと精霊なしじゃこの世にとどまれないからね。」

「へー。でも確か一回裏をかかれたような……。」

「うるさい。あれは用意していた裏道に気づかれただけだって言ったじゃんか。

 まあそれはともかくとして、あの吸血鬼はほとんど始祖みたいなものだ。精霊がいなくともこの世に一人で降り立てるほどの器を獲得してるんだよ。」

「あー、あの太古の吸血鬼に血を分けてもらったんだもんね。」

「そう。まあだからせっかくならお前にこの子の中にはいてほしいと思ってるよ。」

「ふーん?まだあの癖は抜けてないんだね。」

「癖じゃないさ。ただの自己満足だよ。」








「……さっきぶりじゃないか、勇者。レディーの寝室に入ってくるなんて紳士じゃないな。」

「……もう君はレディーなんて言える精神年齢じゃないでしょ?精霊王がかなり解凍してるみたいだし。」

「そういうお前はどうなんだ、アーサー=ペンドラゴン?」

「その名前はやめよう。」

「まだふさわしくないか。かの天地開闢の戦争を戦い抜いた大英雄の名を冠するには。」

「……まだ、というより永久にね。僕はそんなできた人間じゃない。」

「はー、よくもまあそこまで自罰的になれるものだ。善人の鏡だな。」

「そうだといいね。」

「皮肉だ、たわけ。何を思い悩んでいるかは知らんが、お前は世界諸共入水するつもりか?」

「……僕の犯した罪はそれくらい大きいよ。」

「はぁ……。ノア=スプリングフィールか。あの者に起こった不幸はお前の責では無いだろうに。それに生きていたではないか。」

「生きてはいないよ。もう、彼女は死んだんだ。僕のくだらない、歪んだ正義と身に余った力のせいで。」

「……お前は私をバカにしているのか?私の精霊目があの従者はノア=スプリングフィールだと言っているのだ。それは間違いではあるまい。」

「体はね。」

「体は、だと?」

「今日はこの話をするために来たんだ。」



「……なるほどな。確かに私の知るあの聖剣の権能を使えばそれも可能か。となると、あの従者の前で名前を出してはいけなかったな。すまない。」

「いや、いいよ。予測できたはずのことをできなかった僕が悪い。」

「……はぁ。それで?だとしたらお前は彼女に接触するべきではなかっただろう?なぜ共に行動している?」

「……どうしてだろうね。彼女には幸せになってほしかった。それだけなのに、ただそれだけなのに、どうしてそれは叶わないんだろう?」

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