ほえー、なんか見覚えがあるような、ないような
勇者様に連れられて領都にやってきましたよ。
入る時に検問でBランクの冒険者カードを兵士さんに見せたら特に驚くことなく通されました。……ちょっとだけ驚かれるのを期待してたんですけどね。ここじゃBランクなのは普通なんですね。間違いなくウリオールだったら軽い騒ぎになってます。
ですが、私の後に並んでいた勇者様がカードを見せた途端、「少々お待ちを!」とだけ言うと奥に走っていってしまいました。ちなみに勇者様のカードは紫色でした。Sランクだと紫なんですね。
どうしたんだろうね、と勇者様都話していたわけですが、1分もしないで兵士さんがメイド服を着た女性と一緒に戻ってきました。
「大変お待たせいたしました。主がお待ちです。馬車を用意していますので、案内させていただきます。従者の方もご一緒にどうぞ。」
「え?私従者じゃ――」
「ありがとう。さあ、行くよ。」
勇者様は私の言葉を遮ると私の肩を押しながら歩き始めました。
ええ?いや、私従者なんてやったことないんですけど?頭の中で大量の疑問符がダンスパーティーをしているんですけど?
「大丈夫だよ。」
「何がですか!?私従者なんてやったことないですよ!?」
「まあまあ。会うのは僕の友達だからね。心配しない心配しない。」
いや、だから根本的な問題が解決していないんですけどーー!!?
心の中で絶叫しながらも体は用意されていた馬車に吸い込まれていきましたとさ。
ガラガラと領都の大通りを馬車で進んでいるわけですが、現状を棚に上げてしまえば街並みは素晴らしいですね。雑然としていたウリオールとは大違いです。
街の構造は空から見た時に把握しています。中央に小高い丘とお屋敷があって、それを囲うように街が広がっています。小高い丘の周囲には広場が広がっていて、そこから四方に石畳の大通りが外壁まで走っています。大通りは十分な面積が取られていて、中央方面への道と外壁方面への道がそれぞれ二本走っています。その間に一本露店を置くための通りが挟まれています。おそらく商売のためだけでなく、逆走を防止する目的もあるのでしょう。
その大通り同士をつなぐ円状の道が等間隔で結ばれています。その道は馬車が二台すれ違うことができる程度の幅を持っています。
そしてその道によって区画されている場所に様々な大きさの店や宿、家が並んでいます。複数の種族が住んでいるというのは本当だったんですね。てっきり噂の産物だと思ってました。
「すごいよね。芸術的な街並みだよ。王都でもここまでうまくはいってないよ。まあそもそも王都はほとんど人間しかいないんだけどね。」
多くの種族を抱えているのにここまで統制されているのはすさまじいことだよ。と、私の隣に座る勇者様は続けました。いや、本当にその通りですね。
しかもそれぞれの街で売られているものもウリオールでは見たことがないものばかりです。あったのは大抵が肉か野菜しかなかったんですけど、この街では魚が多いです。しかも見たこともないくらいの大きさの魚です。あんなの本当に川に泳いでるんですか?
「ここはね外洋とも面してるんだよ。そこから豊富な海鮮食材だったかな、が取れるんだって。そうだったよね?」
向かいに座っているメイド服姿の女性に勇者様は尋ねました。
年のころは私と同じくらいでしょうか。緑の黒髪を肩あたりまで伸ばした彼女は背筋をピンと伸ばしたまま口を開きました。
「おっしゃる通りです。この街には海の幸があふれています。特に巨人の方たちは海の深い方へと潜ることができるので多くの海産物を取ってきてくれます。それを小人の方が方が解体しますね。
ここが他の街と違う所はそれくらいでしょうか。それ以外は他の街と同じく冒険者として活動している方が多いですね。当然こちらでも種族の垣根を越えて活動されている方が多いですが。」
ほえー。すごいですね。他種族とも仲良くやるですか……。となると、同じ人間同士でもうまくできなかった私はどうなるんでしょう?
あ、そんなこと考えたら涙が出てきそうです。
「……そういえば従者殿はここに来るのは初めてですか?」
「あ、はい。そうですね。これまでは同じ街で冒険者をしていたので。」
従者殿というのが私を指しているとは気づかず一瞬返事が遅れました。これから従者って呼ばれるんですもんね。気をつけておかないと。
「では、一応この街でしてはいけないことをあらかじめご説明させていただきます。」
「してはいけないこと、ですか。」
「そうです。種族間の公平と自由を謳い、長い年月と多くの失敗を重ねた末に多種族の交流を実現したこの街ですが、だからこそ守り抜かねばならないものがあります。
それはすなわち、それを脅かすことです。種族を理由に見下したり、差別することを全面的に禁じています。もし万が一、その動きが見られた場合は即刻退去、またはこちらの通告を無視した場合死んでいただくことになっています。」
――もっとも、私達の警告を無視できるようなものはそんなことをしませんが。
と、メイドさんは小さく続けました。彼女の強い言葉とは裏腹にその声にはこの街への底のない愛情がこもっているように感じました。




