いざ領都
「あそこが領都だよ。王都と同じくらい繁栄している都市だね。」
勇者様が指差す先には青白い外壁がありました。時間は正午はまだ回っていないくらいでしょうか。街に賑わいが私の目から見えてきます。中央には高台のような場所があって、そこには立派なお屋敷が建っています。そして出入り口からはちらほらと冒険者のような人たちが出てきています。これから依頼にでも行くんでしょうね。
……さて、それでは現実に目を向けるとしましょうか。
私は今勇者様と一緒に空を飛んで領都に向かっているんですよ。
そうです。勇者様と一緒に行動をして真っ先に向かったのは王都ではなく、ここ領都でした。なんでも、ここに来るついでにウリオールに寄ってくれたみたいなんですよね。
確かに地図的に言えば、王都と領都のちょうど中間くらいにはあるんで納得ですね!
記憶が間違っていなければウリオールと王都に間には山脈が出っ張っている所が多々あるので、回り込まないといけないんですが空を飛べればまったく関係ないですよね!
…………なんで空を飛べるんですかーー!?
「大丈夫、ヨミ?もしかしてまた酔っちゃった?」
「ち、違います!ちょっと魔力の制御が難しくて、返事をする余裕がないだけです!」
そう、しかも運んでもらってるわけでもなく私にその魔法を教えてくれたんですよ。そして今それで私も飛んでいます。
馬車に乗らないで街を出た時に気づくべきでした。のんびり歩いて向かうのかと思ってましたが、そんなはずもなく。
氷魔法の移動魔法と似ていたので勘はつかめましたが、それでもめちゃくちゃですよ。この飛行魔法は系統関係なく使えるらしいですが、その分難易度がとんでもないことになっています。
空間の把握、っていうんですか?横と縦はまだしも上下は分らんですよ。イメージができな過ぎて高度を変えるのがとても大変です。同じ高度で飛ぶのは割りと簡単ですけどね。
「……いやいや、飛べてるだけで充分なんだけどね。」
「何か言いました!?」
「何でもないよ。そろそろ近いから降りていこうか。」
それだけ言うと勇者様はゆっくりと地面に降りていきました。
えっ!?着地成功したことないんですけど!?手伝ってくれないんですか!?
……ええい、ままよ!!
ちゅどーん。
しっかり着地には失敗して思いっきり膝と顔を地面にぶつけましたとさ。
「ヨミ、大丈夫?治そうか?」
「……大丈夫です。これくらいなら自分でも治せます。」
水魔法で顔と膝を洗いながら傷を治します。水魔法って実は回復に使えるんですよね。当然光魔法に比べたら全然効果は弱いですけど。
せめて視線と声音で非難の意思を伝えようとしましたがにこやかな笑みでスルーされました。
「よかった。じゃあ行こっか。」
「……はい!」
私の着弾を見た近くにいた冒険者からは変な物を見る目で見られましたが、これは仕方ありません。勇者様の身バレを防ぐために私達は変装をしているので。
勇者様は黒髪のかつらをかぶって赤いコンタクトを入れています。普段の姿とは正反対な見た目をしています。
そして私は頭にとても大きな帽子をかぶっています。勇者様にもらったものですが、どうしてこんなものを持ってたんでしょうか?まあそのおかげでいろいろ助かったんですけど。身バレ的な意味でも吸血鬼的な意味でも。太陽の位置にもよるんですけど。今くらいだとちょうど帽子の影で全身が隠れるんですよね。
「そういえば領都にどんな用事があったんですか?」
「会いたい人がいるんだよね。その相手を知ったらヨミも驚くと思うよ?」
「そうだったんですね。それなのにわざわざあんな辺鄙な街まで来てもらって申し訳ないですね……。」
「いいこともあったんだから気にしないでね。そんなに時間も取られなかったし、ヨミとも再開できたんだし。」
「そ、それはそれは……。」
そんなに直接言われてしまうと照れてしまいますね。再会できてうれしかったのは私の方なんですから。
勇者様の後ろでもじもじしていると、おもむろに勇者様が腰のつけているアイテム袋から何か封筒のようなものを取り出しました。
「あ、そういえばこれ。ウリオールのギルマスから預かってたやつなんだけど。街に入るのに必要だから今のうちに渡しておくね。」
「ありがとうございます。何かもらうようなものありましたっけ。」
「まあまあ。見てみてよ。きっと驚くと思うからさ。」
はあ。まあ勇者様がそう言うなら見てみますか。
どれどれ。……って、ああ!忘れてましたよ!紹介状ですよ、紹介状。このためにスタンピードを戦ったといっても過言ではないはずなんですけどね。勇者様に誘ってもらえたことがあまりに嬉しすぎてすっかり忘れてました。
紹介状は余程のことがなければギルマスからもらうことができます。ですが、問題を起こしたり、素行が悪い冒険者はそれが直るまでは発行してもらえません。要は信用がないからですね。
なので、信頼できる冒険者かどうかを紹介状という形でギルドは見極めているということです。専用の魔道具を使えばギルド間で連絡を取ることもできるんですが、それは結構高価なものなのでスタンピードなどの緊急回線のみ使われます。
ということで私も無事紹介状を手にすることができましたっと。……ん?まだ中に何か入ってるようですね。何でしょうか?
封筒を裏返して中のものを取り出すと、それは赤い冒険者カードでした。
「ややっ!?」
「どうしたの?」
面白いものを見るような顔で勇者様が聞いてきます。
「いや、赤はBランクのカードですよね。私まだCランクなんですけど?それにまだ私Cランクのカード持ってますよ?」
混乱しまくりです。
Aランクは青、Bランクは赤、Cランクは黄色、Dランクは白、Eランクは黒のカードが与えられます。私はCランクなので、今も黄色の冒険者カードを持っていますが、……はたしてこれは?
確かに私の名前が記されていますが。
「ふふふ。あれだけの活躍をしておいてCランクのままなわけないよ。Bランクの実力は確かにあるよ。僕が保証する。」
「え。そ、そうですか?」
「うん。スタンピードのボスモンスターを単独で倒したんだから当然だね。」
あー、あれは途中までアリエルがやっててくれたんですが……。
……肩からの視線が痛いですね。口外するなということでしょうか。まあそんなことできるはずがないんですが。
「そうですか……。それよりも今私はCランクのカードを持ったままなんですが、どうしたらいいでしょうか?」
「それは紹介状にCランクの方を回収するように書いてあったはずだから、領都の中の冒険者ギルドで渡しておいて。」
「……あ、本当ですね。最後の方に書いてあります。」
……最後まで迷惑を掛けましたね。いつか近いうちに顔を見せに行ってみますか。




