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決着

 闇属性魔法。私は最初、この属性に適性があることが分かった時に困惑した覚えがあります。なにせ想像ができなかったんですから。


 炎も、水も、風もすべてが想像つきました。マグマも氷河も大嵐も、全てが人の命を奪う力を内包しています。


 でもそれなら闇は?光もそうですが、これらが攻撃に転用される理由がわかりませんでした。バフ、デバフはまだしも、一体どうすれば攻撃に使われるのか感覚でもわかりませんでした。


 きっとそうだからでしょう。水の中でも攻撃力を持つ氷属性の上達は速かったんですが、それに対して闇属性魔法は呪詛系も闇鈍系もまったく習得できませんでした。そうだった記憶が今でもあります。


 ですが、ある時に私は闇属性魔法のイメージをつかみ取りました。奇しくも私が一度死んだときに。……まあ実際には死んではいないんですが。


 数多の魔物に囲まれ、死を覚悟した戦いの後に私は勇者様に助けられました。思いがけず死の淵を経験した

んです。


 底のない暗闇に永遠に落ち続ける感覚。そして五感は当然、ただ落下しているという感覚すらも摩耗し、だんだんと薄れていきました。

 確かな絶望を感じていたはずが、自我が埋もれていき、それすらも認識できなくなる果てのない虚無感。私が感じた死の感覚です。


 そしてそんな私に光という刺激が突き刺さりました。薄れゆく感覚を刺激し、自我が沈みきっていたその闇を切り裂き私を見つけた光。

 私の中に広がっていた絶望を浄化し、生への希望を示した光。そして死の淵から這い上がるいいようのない高揚感を私に与えました。


 光と闇。生と死。希望と絶望。浄化と不浄。高揚と虚無。


 つまり闇と光は間に何も緩衝材を置かずに相手の生と死に直接干渉する魔法なのだと、私は気づきました。炎で焼き殺すのではなく、氷で凍てつかせるのでもなく、風で切り裂くのでもない。ただ生や死の概念のようなものを攻撃にのせているんです。


 それに気づいてからは速かったと思います。すぐに先に行っていたはずの氷属性をあっという間に追い抜き、闇属性魔法は私の中で最強の魔法になりました。氷属性はまだ結界魔法までしかできませんが、闇属性ではオリジナルの魔法を創り出せてしまうほどです。ただ、威力が高いので普段使いはあまりしませんが。


 その上で創った私のオリジナル。黄泉平坂より(メメント・モリ)


 この魔法は私が感じた死のイメージを抽出し、魔法にひたすら込めたことで出来上がった文字通りの即死魔法です。誰にも真似できない、私だけの魔法。


 詠唱と同時に右手をミノタウロスの魔力を感じる方へと向けると、右手が真っ黒に変色しました。そしてそこから私の背丈ほどの大きさがある半透明の闇の手が伸びました。


 その巨大な闇の手はまっすぐにミノタウロス目掛け伸びていきます。


 そして、掴みました。


「食らいつくしなさい、黄泉軍(ヨモツイクサ)!」


 魔法発動の詠唱を終えると、ミノタウロスの声になりきっていない悲鳴が聞こえてきます。この世の苦しみすべてを煮詰めたかのような苦しい声でしたが、それは次第に小さくなっていき、聞こえなくなりました。


 右手から伸びていた闇の手は消え、右手自体も元の白い肌色に戻っています。魔法が完璧に発動し、対象を死に至らしめた証拠です。


「……終わりましたね、ようやく。」


 声に出してようやく実感も伴ってきました。張り詰めていた意識が緩んだのか、体からも力が抜けていきます。


 そんな地面に倒れていく私の体を何かが支えました。視界の端には小さく微笑んでいる金髪の少女の姿がありました。


―――よく頑張ったな。あとは任せてゆっくり休め。


 慈愛のこもった、そんな声が聞こえた気がしました。





「……さて、あとはどうしてくれようか。」


 全力も全力。ヨミは持てる力すべてを振り絞り、ミノタウロスを完全に倒しきった。被害をここにいる人間以外に広げることもなく。


 正直ただ単純に倒すだけだったら、倒れるまで消耗することはなかっただろう。ここら一帯で倒れてる冒険者を見捨てることが彼女にできていたら、それこそ確実に勝てていた。……最もそれはギルマスにも言えたことであったが。


「……できれば何も手を出してほしくはないんだけど。それはダメかな。」


 そこに立っていたのはギルマスだった。オーガの攻撃を受けて吹っ飛ばされて意識を失っていたはずの彼は飄々としている。


「……貴様か。てっきり死んだものだと思ってたぞ。」


「あはは。まさか、僕が死ぬわけなんてないよ。」


 彼の隣には風の精霊が眠そうに目をこすりながらふわふわと浮遊している。


「これでも僕はハイエルフなんだし。……だからあなたのことも知ってる。どうやら永い眠りから目覚めたみたいですね。永久欠番であるSランク冒険者筆頭の“神威”、朱金のアリエル様。いや、救世の真祖様。」


「……ハイエルフか。貴様の名前は?」


「挨拶が遅れましたね。()()()()()()、私はカセルド。今はそう名乗っています。」


 ギルマス――カセルドは、そう社交用の小さい笑みを浮かべ自らの名をそう名乗った。だが、アリエル本人は不服そうにカセルドを睨みつける。


「たわけ。下らん嘘をつくな。私が聞いてるのは王名の方だ。エルフの王なのだろう、貴様は?」


「そうですね。長らく名乗っていなかったのですっかり忘れていました。


 改めまして、私の王としての名前はオベロン=シルフィード、です。」


 その答えを聞いたアリエルは一度不可解そうな目でそのハイエルフを睨んだが、すぐにどこか納得したように小さく笑った。


「なるほどな。オベロン=シルフィードか。……いずれはヨミともども世話になるかもしれん。覚えておくとしよう。」


「ありがたいことです。」


「……ああ、一応聞いておきたいことがある。」


「なんでしょうか?」


「私が封印されてから一体どれだけの時間がたった?ちなみに私の体感だと、500年程度だ。」


「そうなんですか?ああ、ノエル様のお力のおかげですか。」


「やはりずれているのだな?」


「はい。あなた様が封印されてから、この世界は既に6500年経過しております。」

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