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初陣

「うわっ!!」


 意識が急浮上したのと同時に私は勢いよく飛び起きました。

 ふむ、体は確かに治ってますね。夜の精霊の言う通りに先の戦いでほとんど使い切った魔力も全快しています。


「お姉ちゃん……?」


 私のそばから気遣うような声が聞こえてきました。声がした方を見ると、私をミノタウロスから隠すようにエリザが立っていました。


 お姉ちゃん、か……。久しぶりにそう呼ばれましたね。


「エリザ、あなたが私を守っていてくれたんですね?ありがとうございます。」


 私の声を聞いたエリザは透き通った蒼い目の端に雫を作ると思い切り抱きついてきました。


「そんな、お姉ちゃん、私こそごめんなさい!あれだけお世話になっておきながら、裏切った!酷いことを言った!」


「……そうですね。確かにあなたたちは間違ったことをしました。普通なら絶縁ものでしょう。」


「ッ!?」


「ですが、私はあなたたちの仲間であり師でした。そうならぬように導かないといけなかったのもまた事実です。あなたたちにどんな考えがあったかは知りませんが、謝っておきましょう。すいませんでした。」


「お姉ちゃん……。」


「ふふっ。そんな顔しないでください。詳しい話はこの戦いが終わってから聞きます。少し離れておいてください。」


 戦いに目を向けると、アリエルがミノタウロスをボコボコにしているところでした。攻撃は全く見えませんが、アリエルは空間属性の適正を持っていたはずなので、おそらくその攻撃でしょう。少しずつミノタウロスの体に傷が増えていっています。このままでは時間の問題でしょう。


「急がないと間に合わなさそうですね。」


「お姉ちゃん?どこに……?」


「あの魔物は私の獲物なんですよ。アリエルでも流石に渡せません。」


 それだけ言い残すと、私はアリエルの立っている場所めがけ移動を開始しました。当然もう慣れてしまった氷の移動魔法を使っています。


 その間にもアリエルの攻撃は止まず、ミノタウロスを確実に追い詰めています。そして、あと一撃でトドメを刺されるというところで、私はアリエルの元に辿り着きました。


「……アリエル、待ってください。私がやります。」


「目が覚めたか。精霊と契約はできたようだな。」


 アリエルの後ろから声をかけたのにも関わらず、驚く様子も見せずに聞いてきます。……見た目は少女なんですけど。妖艶な美女みたいな姿からはかけ離れていますが、でもこの魔力のは覚えがあります。恐ろしいくらいに強烈ですが、でもやさしさがこもっているこの魔力にはあの時に助けてもらいました。


「あはは、それはどうでしょう?それよりも随分かわいらしくなったんですね。」


「ふん。こんなの本意じゃないわ。まだ体が治ってないのに無理やり戻ったからだ。……で?あとはヨミがやるのか?」


「はい。私がやると言ったので。」


 さすがに自分がやると言っておきながら誰かに押し付けちゃうのは話が違いますよね。


「……まったく頑固なやつだ。仕方ない。あの死にかけをなぶったところで楽しくは無いだろう、少しだけ治しておいてやる。」


 私の方をちらりと振り返ると苦笑いをしながらそういうと手をまっすぐに伸ばし、強く握りこみました。同時にミノタウロスの斬り落とされた腕の傷口あたりに空間の歪みが生じ、次の瞬間には腕が再生していました。


 ……何やったんですか?まさかここまで離れていながら四肢欠損を回復させたんですか?回復やらバフやらは術者から離れればなれるほど効果が薄くなるはずなんですが。


「あれの腕を空間ごとくっつけてやった。人間なら完全に治るのに少なくとも数日はかかるが、あれほどの生命力を持つ魔物ならすぐに治せるだろう。」


「空間ごと、ですか?」


「そうだ。断面そのものを空間で一度この世界から切り離し、再度元の場所にあうように繋げた。だからそもそも斬られた方もないとこの方法では治すことはできない。」


 ……ほお。何となく分かったような、分からないような。


 まあでも空間魔法は何でもありと覚えておけばいいでしょう。さっき見てた感じ攻撃も防御も完璧でしたし、その上条件付きとはいえ回復までできるなんて。


「……あと少しで治りそうだな。じゃああとは任せた。とはいっても私も肩の上で見てるがな。」


 それだけ言うとアリエルの姿が消え、同時に肩に重みが加わりました。ちらりとみると黒猫がふすー、と鼻息を立てています。


「おおお、君は愉快だねー。肩に猫を載せて戦うのかい?」


 アリエルが乗っている方とは逆の方から声が聞こえてきました。この人懐っこい間延びした声はさっきまで聞いていましたね。


「……あなたですか。本当に出てこれたんですね。」


「そりゃねー。仮とは言え契約は成立したんだ。これまでと同じことしかしてあげられないけど、ボクは外の世界とつながれるんだよねー。」


 ほう?つまりはあなたはやりたい放題できるけど、その見返りは私に帰ってこないと?


「まあ話相手くらいにはなれるからさ、それとか偵察とか。……ほら、あのおっかないのが来るよー。」


 いつの間に拾ったのか、大剣を持ったミノタウロスが私めがけ突進をしてくるのが視界に映りました。


 さっきまで死にかけてたのに元気ですね。いや、胸の傷は治ってないようなので今も死に向けてまっしぐらだとは思いますけど。


 杖を再度構えてミノタウロスに向けます。……今度こそ仕留めます。


「白の大地、白む視界、銀の煌めき、凍てつく肢体、閉じる世界。


 ―――完全詠唱 氷属性結界魔法白銀世界(ホワイトアウト)。」




 最上位の魔石を使用した杖の存在がオーガ戦時の結界魔法よりもより多くの効果を盛り込んだ結界魔法の発動を可能にした。

 そもそも結界魔法は空間に属性の効果を載せるという性質上、時間と魔力にさえ許せばいくらでも強化することができる。今ヨミはオーガ戦の時に使っていた敵の視界阻害と自身へのバフ以外にも敵の全ステータスに対する弱体化と結界から容易に脱出できないよう強度を与えている。


 そして単純にその結界の範囲も半径20メートルから30メートルへと広がっている。結界の範囲が広がれば、結界の中からその端を目指すのも、ましてやヨミがいる中心を目指すのも難しくなる。


 が、しかし。その分ヨミの負担はとても大きくなっている。範囲の拡大と効果の追加だけでなく、魔力を大量に消費する杖を使ってしまっている今、彼女の残されているのは短期決戦のみである。結界は発動さえしてしまえば維持に魔力を必要しないとはいえ、結界だけでは攻撃にならない。




「うわうわー。こんな大胆な魔法使っちゃって大丈夫?せっかく回復してあげた魔力の大半はもうないよ?それになぜか残滓がここら辺刈り取られてるからこれ以上の回復はあんまり期待できないよ。」


「……はあ、はあ。大丈夫、です。ミノタウロスを確実に倒すにはこれが必要でした。絶対に逃がさない結界が。スタンピードのボスの目的はより多くの人を殺すこと。

 もし私がミノタウロスよりも力があったとしても、その時にミノタウロスは私から逃げ、街に向かうでしょう。それを防ぐためにも、これは絶対にないとだめだったんです。」


「そんなもんなんだねー。ボク達からしたらよくわからない考えだよ。あ、来るよ。」


「言われなくても、分かってますよ!」


 結界内のことはすべて手に取るようにわかるんですから。油断さえしていなければ不意を突かれることもありません。


 ですが、想像よりも早く近づいてきていますね。……ちょっとだけ足を止めますか。


「インクルードアイシクル。クリエイトインフィニットランス。


 完全詠唱 アイスランス。」


 ミノタウロスの周囲から無数のアイスランスをミノタウロスめがけ四方八方から放ち続けます。それらは決定打になりえませんが、でも確実にその足は遅くなっています。ところどころに金属が放つ鋭い音も聞こえてきます。


「……ぶっ飛んでる魔法だねー。あれだけの威力を持つ魔法をありえない量出してるし。


 でも、それでも足止め程度にしかなってなさそうだよ?あ、でも結界の弱体効果を考えれば十分っぽい?……あと5分くらいかかりそーだけど。」


「……そうですね。それくらいかかるでしょう。ですが残念なことにそれほど余裕はもうありません。


 なので最後は私のオリジナルを使います。」


 これまで私が使った魔法で結界魔法以外はすべてが汎用魔法と言われるものです。「インクルード」から始まる詠唱が既に確立しており、言ってしまえばだれでも使える程度の魔法です。


 ですが、これから私が使うのは私にしか使えない魔法です。当然詠唱も結界魔法の時と似たような感じになります。つまり、


闇淀(あんどん)の煌めき、黄泉路の果てより、今ここに死の形を示す。


 闇属性魔法 黄泉平坂より(メメント・モリ)!!」

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