夜の精霊
あれ?私さっきまで何をしていましたっけ?ここはどこでしょう?真っ暗ですよ?あれ?もしかして死んじゃいました?
『死ぬわけないっしょ。君は吸血鬼なんだから。』
ほえ?誰ですか?なんか声だけが響いてくるんですけど。
『ん?ボク?ボクはねぇー、……なんだろうね?』
はあ?自分のことがわかってないんですか?いろいろ訳が分からないんですね。ただまあ、吸血鬼なので死んでいるというわけではないのでしょう。
『そうそう。気楽にいこうぜー。ちなみにボクは夜の精霊ってやつだね。よろしくー。』
ああ、そうなんですか。夜の精霊さんね。……ああ!!そういえばそうでしたよ。そんな話をしてましたよ!アリエルにも精霊王様にもそろそろ目覚めるって聞いてましたし。
『……おー、精霊王様!久しぶりに聞いたよ。まだ元気に嫌われてるんだろうなー。』
精霊王様のことを知ってるんですね。っていうか、アリエルもそうですけど精霊王様は嫌われてるんですか……?
『うん?あー、王様はねー、やってることがやばいからね。長く生きている吸血鬼からも嫌われてるけど、他の精霊王様からも嫌われてたよ。まあ今はどうか知らないけどねー。でも今は生きてる吸血鬼なんてほとんどいないし、滅多なことはしないと思うよー。』
はあ、そうなんですか。……ってそうじゃないです!今はどういう状況なんですか!?ようやく思い出しましたよ!今私ミノタウロスと戦ってたんですよ!それで不意打ちを食らって意識が飛んだんですよね、確か……。
『そのとーり!今はね、あの太古の吸血鬼が戦ってるよー。まあ、さすがに実力差が大きすぎるね。ただでさえ彼女と対等に戦えるのはほとんどいない。いたとしても王様か、同じ太古の吸血鬼くらいじゃないかなー。』
いやいや、そうじゃないです!アリエルが強いのは分ってますって!そうじゃなくて、あれは私が倒すって言ったんですよ!だから私がやらないと……!
『ふーん。まあいいんだけどねー。ここから出たければボクの質問に正直に答えることだね。それで僕達の契約は結ばれるから。』
契約……?
『そうさ。これまではいわば仮契約だったんだよー。まあ君の所持魔力量が多すぎるせいでこうして話せるまでに時間がたくさんかかったけどね。』
え、精霊さんに褒められるほど持っていたとは……。素直にうれしいですね。
『そうだよー。本当にびっくりしたんだから。まあびっくりしたのはそこだけじゃないんだけどね。……君、体はまだ20年と少ししかたってないけど、精神は異常に成熟してる。吸血鬼化の影響も多少はあるんだろうけどね。』
……はあ、そうですかね。私としては普通ですけど。
『うん、自覚はないよねー。大丈夫だよ。じゃあ質問をしようかねー。』
う、とうとうきますか。何を聞かれるんでしょうか。
『そう身構えないでいいよ。ボクの質問はただ一つ。君の死んでも叶えたい望みは、君の本当の願いは何だい?何に変えてもやりたいことは何かあるかな?』
望み、ですか。まあよくわからないですけど、困ってる人を全員助けること、ですかね。受け売りですけど、本心であることには変わりありません。
『……それでいいの?ボク達精霊は物事を本質でとらえるからねー。君が嘘をついていたりしたらすぐにわかるよ?もし偽っていたら二度とここから出れないよ?』
えー。嘘なんてつくはずがないじゃないですか。契約、っていうか約束をするときにそれを違えるほど堕ちてないですよ。
本心です。間違いありません。
『……うーん。』
どうですか?嘘なんて誓ってついていません。
『そっか。そうなんだね。やっぱりそこらへんかー。』
……何がですか?
『え?ああ、うん。なんというかねー。ようやく抱いていた違和感の正体にたどり着いたよ。
君は嘘をついていなかった。間違いない。』
そりゃそうでしょうとも。
『でも、それが本心とずれてるみたいだ。君の本質はそれを否定してる。』
……どういうことですか?
『わからない。こんなのは初めてだよ。異常事態だ。ボクの目は君が正直であることを示し、同時にそれを否定する本質も見えているんだ。』
……つまり、私は無意識のうちに嘘をついているということですか?
『……そう、なるね。困ったな、どうしよう。君が自身の本質を認識できていないのなら、まだ契約を結ぶことはできない。』
え!?っていうことは私はここから出られないっていうことですか!?
『でも正直に答えてくれていることは事実。……うーん、しょうがない。仮契約のまま続行だね。で、君がもし気づけたら、その時に契約を結ぼう。』
あ、そんなことができるんですね。よかったです。
『まあ本当はダメなんだろうけど。だから僕の名前を教えてあげることもできないし、空中の魔素を取り込んであげることとか、簡単な支援くらいしかできない。』
いえ、それだけでも十分ですよ。魔法使いである以上、魔力に余裕ができればこれ以上ないですし。
『そうなの?ならいっかー。まあボクも外出れるから君がいいならいいや。
じゃあヒントをあげようかな。さすがに答えをあげるわけにはいかないから、あくまでヒントだけどいる?』
いります!……なんのヒントなのかまだピンと来てないですけど、もらえるものはもらっておきます!
『うん。じゃあヒントね。君の適性は水と闇。だけどね、その本質は……収束と終焉。どっちも怖いくらい深いけど、その分強いよ。』
……ん?どういうことですか?なんか怖いんですけど。収束と終焉?
『えーと、簡単に言うと適性っていうのはね、一人一人その本質にあったものが形になるんだよ。だから、水と闇の適性を持っていたから収束と終焉になったんじゃなくて、君の心の奥底にある本質そのものがそれだったからそれに合った水と闇の適性を得たっていう感じかな。』
……なるほど?というと……、それって私の本質に直結して……
『うん、ヒントあげすぎちゃったね!!じゃあ、行ってらっしゃい!体は治しといたし、魔力も全部回復済みだから!サービスだから感謝したまえー!!』
え、ちょまっ!!
私はその話し相手の姿を見ることもなく、とてつもない勢いで上の方に引っ張られていきました。




