なんだかんだあって私は吸血鬼になりました。
伝説の吸血鬼、アリエル。彼女の名前は冒険者の中では特に有名であった。なにせ冒険者ギルドが出来上がって初めてロストランクという名誉を与えられたのが彼女であった。受けた依頼の達成率は常に100パーセント。失敗や力不足とは無縁の存在であった彼女に敬意を払い、与えられたそのロストランクという称号はAランクを超えた存在と皆に認められたためなのだ。
そしてなんの因果か、彼女と同様に他の追随を許さないほどの実力者が同時代に彼女の他に4人現れた。彼らは魔王、勇者、精霊王、剣神と呼ばれた。そして、彼女は神威と呼ばれた。この5人は後にSランクと呼ばれ、現代まで語り継がれている。その縁あって、Aランクを超えたSランクに認定される冒険者の上限は5名となっている。
「で、なんでそんな伝説のあなたがこんな姿になってるんですか!?!?」
「なんだ、うるさいぞ。私は貴様を治したせいでくたくたなんだ。ゆっくりさせてくれ。」
私の膝の上で黒い猫が金色の瞳を細めながら大きく伸びをしています。
いや、名前を聞いた瞬間に思い出しましたよ!この広い世界でもたった一人しかいない純血の吸血鬼で、習得がめちゃくちゃ難しい空間魔法を極めた最強の魔法使い。それだけでなく、通常なら火、水、風、光、闇、無の系統の中から1個しか適正が得られないのに、なぜかなぜかそのすべてに適正を持っているとか。ちなみに私の適正は水と闇です。……闇はほとんど使えませんけど。
で、なぜかそんな伝説の存在がなぜか今私の膝の上でうたたねしているんですよ。……いや、本当になぜ?名前を告げられたのとほぼ同時に意識を失った私ですが、気が付いたらアリエルはいなくなってて代わりにこの黒い猫が話しかけてきたんです。
「……ふう、そうですか。なら今はそれは置いておきましょう。質問を変えます。どうやって私を治したんですか?」
「分からないか?まあ成功はしている。初めてとはいえ、さすが私だな。」
「はあ?どういう意味です?」
アリエルだった黒猫はその私の質問には答えることはなく再度瞳をつぶり眠り始めました。……ほお?この状況でもそんな真似をするんですか?なんでも好き放題できそうですねぇ?ゆっくり休んだせいか、今の私は絶好調ですよ?
何をしてやろうかと手をわきわきさせていた私ですが、その拍子に頭から白い何かが落ちてきました。
「ん?……え!?どうなっているんですか?!なんで私の髪の毛が真っ白に!?」
その白いものは私の髪の毛でした。これまで黒髪黒目だったのに!!この落ち着いた感じをあの人にきれいだって言ってもらってたのに!!
「なんでこうなってるんですか!?ほらアリエル!起きて答えてください!!でないと全力で高い高いしますよ!!!」
「貴様には人の気持ちがないのか!?こんなに小さくなってしまった私を高い高いだと!?気絶してしまうわ!!」
「だったら早く答えてください!知ってるんでしょ!!!」
「わ、分かった、分かったから地面におろせ!!!」
はっ!しまった、また忘れてました。この人(猫?)は本当にすごい人だったんでした!慌てて地面にゆっくりとおろしてぺこぺこ頭を下げました。
「まったく、貴様は臆病なのか豪胆なのかわからんな……。で、貴様に何をしたかだったか。まあ簡単に言えば貴様を吸血鬼にしたっていうだけだ。それ以上でも以下でもない。」
「吸血鬼にした……?」
「ああ、そうだ。さすがにあそこまで死に近づいていたら私でも治せん。苦肉の策で貴様を私の眷属に迎え入れたということだ。……白銀か、良いのを引いたな。」
私が、吸血鬼……?吸血鬼になってしまったんですか?吸血鬼っていったらあれですよね。昼間に行動できなくなったり、人の血を吸わないと生きていけなくなったりするんですよね?
……っていうことはあのパーティーに戻ることはできないのでは?面倒を見てやれってあの人に頼まれてたんですけど。
「おいヨミ、貴様は吸血鬼に関してわかってないだろうがな、吸血鬼はすごいんだぞ。
まず死なない。正直今の貴様が瀕死のダメージを負ったとしても死ぬことはない。時間はかかるが修復する。」
「……ならなんであなたは人の姿に戻っていないんですか?私程度でも治るなら、あなたならもっと簡単ですよね?」
「私のは特殊な状況なんだよ。これは怪我じゃない。さっきも言ったが、眷属を作るのは初めてなんだ。だから貴様に少し多めに血を分けてしまった。いや、だいぶ?……まあとにかく、貴様に血を分けすぎて人の姿に戻れなくなったんだ。」
……間抜けですか?
「そのせいで私は元の姿に戻れなくなったし、貴様はかなり純血に近い吸血鬼になれたんだがな。」
黒猫はふすっ、と鼻で息をしながら不貞腐れたように丸くなるとすぐにその体が上下にゆっくりと動き始めた。
……そんなところですぐに眠り始めるなんて本当に疲れてたんですね。
そっと黒猫の近くに座ると、起こさないようにゆっくりとその背を撫でます。ピクッと身じろぎをすると私の足に寄り添うようにピタッと引っ付いてきました。
「……それにしても吸血鬼ですかー。人生何があるかわからないものですねぇ、勇者様。」
あなたに命を救われた後に、私は吸血鬼になりましたよ。