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"勇者"と”朱金”

「じゃあ、やろうか。」


 そう呟いたアーサーの全身から黄金色のオーラが立ち昇った。


7つの聖なる剣(ラウンドオブラウンズ)


 聖剣召喚――希望を齎す贖罪の剣(セクエンス)――」


 そのオーラが彼の手に集まり、剣の形へと収束していく。その剣は普通の見た目をしているが、その実、剣としての機能はほとんど持っていない。セクエンスはその特性上、物理攻撃能力を使い手のアーサーを含め封じてしまう。ゆえにたとえその剣で攻撃したところで何ものも傷つけることはできない。


 だが、その代わりにセクエンスには強力な特殊能力を持っている。一言でいえば超強力な範囲バフである。この聖剣の周囲にいる人間は例外なく全ステータス上昇、体力自動回復、魔力自動回復の3つのバフを受け取れる。そしてその効果範囲はこの戦場を軽く覆い被せる程だ。


 規格外のバフに規格外の効果範囲。ただでさえ現実離れした効果を持っているが、恐ろしいことにこれは彼の持つ7つの聖剣のうちの1つ。彼の実力はそこが知れない。


 彼はその蒼く仄かに輝く刀身を持つ短剣とも言えるほどの長さの剣を右手に持つと地面を軽く蹴った。次の瞬間、彼の体はただのジャンプとは思えないほど飛び上がり、剣士たちが戦っている戦場にまっすぐに飛んでいった。


 アーサーが戦場にたどり着いたときにはもうその戦場の大勢は決していた。半分近くの冒険者は地面に倒れ、残っている冒険者も防御に徹することでどうにか生き延びているといったところであった。


 その惨状を前にした彼は―――軽く腰を折ると、手に持った聖剣を地面に突き立てた。


「立て、冒険者達!!」


 彼の声が絶望満ちる戦場に響いた。その声に冒険者はもちろん、敵であるはずの魔物ですら動きを止めた。


「君たちのこれまでの戦いは長く、つらいものだっただろう。友が倒れる度にその心は恐怖が覆われ、減らない魔物にその眼は絶望に曇っているのだろう。


 だが、それでもまだ立てる者がいるのなら!まだ戦う気概があるのなら!そのものは立て!


 我が名はアーサー!このSランク冒険者“勇者”のアーサーが君たちと共にある!ゆえに絶対に勝つ!


 ―――だから、立って武器を取れ、冒険者達!!この街も、君たちの仲間も!君たちの手で守るんだ!!」


 アーサーの声に感化されたのか、それとも聖剣セクエンスの効果により体力が回復したのか、倒れた冒険者達がゆっくりと起き上がりその手に武器を持った。魔物たちも起き上がる冒険者に驚き、すぐに臨戦態勢に入った。


 その様子を満足気な表情でアーサーが見つめていた。


 ―――さあ、第二ラウンドの始まりだ。




「朱金のアリエルの名の元に、貴様に終わりをくれてやる。」


 そのセリフが終わると同時にアリエルは攻撃を開始した。手をミノタウロスにかざす。彼女がしたことはそれだけであった。だが、それだけで彼女の攻撃は終わっていたのだ。


 彼女の権能である空間は空間の連続性に干渉するということが基本の能力だ。空間のつながりを絶ち、繋げ、また広げ、縮ませる。


 つまり、彼女の攻撃は空間自体の連続性を断ち切る。空間の中にいる物をまとめて断つ。その一撃の前に如何なる防御も意味を成さず、最大のダメージをたかに与える。


 不可視の斬撃がミノタウロスの左腕を斬り飛ばした。


「ッ!!??」


「はぁ。一撃で半分に分けてやるつもりだったんだかな。魔力の制御も出力も安定しない。無理矢理戻った弊害だな。……それにまだだもんな。」


 ヨミですら反撃覚悟で放ったたった一回の攻撃しか有効打にならなかったのに、それ以上の成果をもたらしたアリエルは不満気だ。


「まあいい。その分嬲れるというものだ。無限に思える苦痛の時間で我が娘に手を上げたことを後悔するがいい。」


 アリエルは再度手をミノタウロスに向けた。


「グアアッ!」


 直後、ミノタウロスが叫び声を上げ、真横に飛んだ。アリエルの放った斬撃を回避したのか、ミノタウロスの体に傷は増えていない。


「まだ動けるか。ははっ、精々足掻くんだな。」


 その様子を嗤いながらアリエルはその瞳に怒りをにじませながら攻撃を開始した。


 もし、アリエルがやろうと思えばここら辺一帯を細切れにすることだってできる。だがそれをせずにあえて逃げ道を残すようにして放たれたその攻撃はミノタウロスの体中に小さい切り傷を次々に作り出した。


 アリエルが攻撃を始めてすぐは動き回り攻撃を避けようとしながらアリエルに迫ろうとしたが、アリエルがそれを許すはずがなかった。なぜかミノタウロスが距離を縮めようとしたら透明の障壁のようなものが出来上がり、その接近を阻んだ。そしていかなる手段を使ってか、すぐに距離を放された。まるで超高速移動を相手にさせているように。


 大小さまざまな傷を大量に体中に追っていたミノタウロスは動き回るたびにその精彩を欠いていった。


 そして決着はもう着く。


「もう動けないか。どうだ?苦しめたか?あのダンジョンの中で貴様に追い回された我が娘の恐怖を少しでも知れたか?なら用済みだ。疾く去ね。」


 アリエルが止めを刺さんと魔力を集中させた。


「……アリエル、待ってください。私がやります。」

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