デュアルキャスターVSオーガ
……ふう。体全体の感覚が開いていくような錯覚とともに体の中心から隅々まで魔力が広がっていきます。
それにとどまらず、少しだけ体の外に漏れだしてしまっています。
それを感知したのか、ギルマスの方へ足を向けていたオーガの視線がこちらを向きます。
「アイスバレッド。」
私の目の前にアイスランスと見間違うほどの大きさの氷の弾丸がオーガめがけて大量に放たれました。そりゃ、込められてる魔力が多いので威力も速度も上がるのは当然なんですけどね。
その大きさからは考えられない速度で氷の雨が横なぎにオーガめがけて殺到しました。
「グオッ!!」
……へえ、驚きました。まさか回避するとは。しかも思いっきり飛び上がっての完全な回避。そんなに私の魔法が怖かったんですか?
もしそうだとすると、ここで戦うのは危ないですね。接近されたら後ろの5人にも危険ですし、ほぼ確実にあのオーガは距離を詰めてこようとするでしょう。多少の攻撃を受けたとしても。
「仕方ありませんね。ですが、それはわたしの望むところでもありますよ?」
即座にさっき作った移動魔法を発動させました。地面からせり上がった氷は私を持ち上げ、前方に真っ直ぐ進んでいきます。
「ふう……。やりますか。
インクルードダークネス。」
私の手のひらに闇の球塊、ダークネススフィアが出来上がりました。闇属性魔法の原点である闇の玉球です。
「クリエイトファイブランス。アディショナルエフェクト、ファントムビジョン」
私の声に合わせ、闇の塊が胎動を始めます。
この間5秒に満たず。ですが、戦場での5秒は計り知れないほど大きいです。現に私はオーガの間合いに入ってしまっています。
まあ、それでもメリットの方が大きいから5秒を捨てたんですけどね。
「完全詠唱 ダークランス」
魔法名の詠唱とともに闇の塊から拳を振り上げていたオーガめがけ5本の闇の槍が放たれました。
完全詠唱。魔法を発動させる上でその補助に当たるものを一切の省略をせずにすべての過程を踏むことを指す。補助する方法は大きく分けて詠唱、魔法陣の二種類がある。ヨミが使った詠唱も数ある詠唱句のうちの最も高い汎用性を持つという特徴をもつ一つに過ぎない。
魔法を習い始めた当初は誰もが完全詠唱をする。だが、魔法名のみの簡易詠唱はその速さとそこまで威力を落とさないためにほとんどの冒険者の魔法使いは簡易詠唱を使いこなす。逆に詠唱破棄まで行くと、実力者でないと魔法の威力がお粗末なものになってしまうため、たとえ技術面でできたとしてもする人はいない。
だが、そんな詠唱破棄の魔法でも魔物を余裕で蹴散らせるほどの実力者が完全詠唱をしたら果たしてどうなるのか。
「グオアッ!?!?」
当然、その魔法の速度も威力もすべてが段違いに上昇する。
さっきの魔法と同じ程度の攻撃だと考え、自傷覚悟で突っ込んできていたオーガの体にその魔法が突き刺さった。右目、左肩、右足もも、左ひざ、そして左わき腹に刺さった闇の槍はオーガの体を内側から蝕むように蠢いている。
「グオオオ!!」
だがそれも一瞬、咆哮と共にその魔法を吹き飛ばすと体から流れ出る大量の血にもお構いなしに立ち上がった。
当然ヨミもその場にとどまっているわけがなく、そのまま自分が乗った氷に乗ってオーガの背後に移動している。
「二人とも、よく見ておくんですよ。
白の大地、白む視界、銀の煌めき。
―――完全詠唱 氷属性結界魔法 白銀世界。」
直後、ヨミを中心として半径20メートル程の地面が凍り付いた。それだけでなく、いつの間にかその場だけ空から氷の欠片が降りだしている。その勢いはどんどん増していき、すぐに周囲からは中の様子が見えなくなった。
……見えるのだろうか?
「あともう一つだけ。
インクルードアイシクル。クリエイトインフィニットランス。
完全詠唱 アイスランス。」
結界魔法。私が掴んだ魔法の真理の一つです。魔力を魔法にするのではなく、空間に付与するイメージですかね。いや、感覚でしか分かっていないので説明が難しいんですが……。
例えばですね、杖や剣に魔力を付与するときって何となくわかるじゃないですか。体内の魔力を武器にまとわせるイメージです。
で、それは魔法でも同じだったんです。いつだったか、氷の魔法に闇の付与をしてみようと考えたことがあったんです。これをするためにはまず、体内の魔力を氷の魔法という形にするんです。その上でそこに違う属性の闇の魔力を付与します。とはいえ、この二つを同時にしないといけないので、めちゃくちゃ難しくていまだに成功率がそこまで高くないんですけどね。目に見えない何かに魔力を流し込むっていうのは、多分空に絵をかくようなそんな実現不可能な何かだったので。
それは結界魔法でも同じでした。空間そのものに魔力を付与するということです。私の周囲の地面に魔力を流し込み、氷の世界を上書きしたんです。やったことは単純ですが、地面を通じこの結界内は私の魔力で満ち満ちています。やろうと思えば、この空間内であればどこからでも魔法を発動させることができるでしょう。
「……さて、終わりましたね。」
なんて言ってるうちにこの結界内の魔力が私以外消えました。さすがにスタンピードのボスモンスターとはいえど、無限の氷の槍の雨を前には長くはなかったようですね。
……は?
一体、どういうことですか?
白銀の世界から地面を滑るような猛烈なスピードで私に何かが接近してきます。それは大量の氷の槍をものともせず接近してきます。
そして目の前で吹雪が剣のような何かで斜めに切り裂かれました。そこに立っていたのは、
―――ミノタウロスでした。
直後、さっきの一撃は吹雪だけでなく私にも当たっていたのか、私の体は袈裟に斬られそこから血が噴き出しました。
一話修正します。
ケルベロス⇒ミノタウロス
一話の冒頭だったのでお気づきの方はいたかと思います。大変申し訳ありませんでした。




