意図せぬ闖入者 その3
「おお?なんですか、あれ?剣でしたよね?」
ギルマスの手にあったはずの剣がなくなってますよ?どうやら魔力の塊が光の粒になっていて、しかもそれを束ねて剣のような形にしているようですね。
「あれは風の微精霊だな。空気中に漂っている微精霊と簡易契約をしてその依り代として剣をつかったのだろう。だから刀身は消え、その代わりに微精霊がそこにいるんだ。」
「へぇー。そうなんですか。」
まじですか?あれが風の精霊っていうやつなんですか。でも夜の精霊以外見ることができないって言ってたような気がするんですが。
「空気中の精霊を感知することは出来ん。だが、依り代を得て実体を得た今はもうその限りではない。あのオーガもあの男にもおそらくは見えているだろう。」
あ、確かに。さっきまで戦い、というか鬼ごっこみたいなことをしてた二人の視線の先にはギルマスと例の剣がありそうです。
「ただでさえ魔力と親和性がそこまでよくない微精霊をあそこまで大量に呼び出すとはな。いや、違うか。あいつはそういうことなのか。」
「グエル!お前は下がれ!あとは僕がやる!」
「お、おお!!」
手に持った剣を構え、まっすぐにオーガへとまっすぐ跳躍した。スピリットアーマーのおかげで周囲の風をより細かく、より強く操れる。まるで空を泳ぐように、宙を蹴るように。
「グオオオ!!!」
そんな風に空をかける僕目掛け、オーガは短い叫びと共にその手に持った木を横なぎに振ってきた。……相変わらずよく軌道を読めるね。このままいったら絶対当たるじゃん。
「でも!もう関係ないけどね!!」
手に持った剣でそれを向かい打った。
僕の剣とオーガの持っていた木が正面からぶつかり、
――――木を真っ二つに斬り裂いた。
何かを斬ったという手ごたえはなく、たださっきまで以上な硬度を誇っていたオーガの武器を破壊したことは分かった。
なにせスピリットオブセイバーは絶対切断だし。これまで切れなかったものは何一つとしてなかったし、これからもない。
「これで、とどめだ!!」
勢いそのままにオーガへと空を駆ける。振り抜いた剣を構え直し、振りかぶる。
「グオオオオ!!」
武器を破壊されたオーガは動きを一瞬止めた。が、すぐに大きく叫び、僕めがけ拳を繰り出してきた。
……まずいな。もう避けられない。
腕を切ること自体はできる。それは間違いない。でもその衝撃は切れない。確実に吹っ飛ばされる。スピリットアーマーがあるとはいえ、大ダメージは免れない。
まったく恐ろしい、なんでこの一瞬で肉を切らせて骨を断つ戦法をとってくるとは。
ならしょうがない。僕も覚悟を決める。
「ジルッ!援護頼む!!」
直後、僕の剣とオーガの拳がぶつかった。
僕の剣がまっすぐ振り下ろされた。目の前でオーガの拳が左右に裂ける様がゆっくりと見えた。そしてそれは裂けきるまえに僕に衝突してきた。その込められた膂力の全てを吐き出すように。
「おお!?ちょっ、あれって流石にやばくないですか!?
直撃でしたよ!!」
オーガの拳に吹き飛ばされ、ギルマスは地面に叩きつけられました。何回も派手に地面を跳ねようやく止まりましたが、起き上がる気配はありません。
オーガも同じように満身創痍みたいですね。片手を裂かれ、自慢の武器も壊されています。でも良くないことにまだ動く元気はあるようです。それに止血も始まってますし。
好機と捉えたのか、来ていたDランクの冒険者がオーガに近づいていってますね。危ないからやめた方がいいと思いますけどね。
「……ふむ。驚いているところ悪いが、いい知らせと悪い知らせがあるぞ。」
「え?なんですか?」
「時間だ。」
「時間?」
聞き返したその時、水平線上に残っていた太陽が完全に沈みきった。
空から破邪の光が消え、代わりに月光と星の微かな明かりが優しく地を照らし始めました。それに呼応するようにキラキラと輝く光の結晶が宙を漂い始めました。
「我ら吸血鬼がこよなく愛する夜が。人々に恐怖を与える夜が。そして魔物を狂わせる夜が。
私とヨミは絶好調だが、それ以外のはいつも通り動けるわけじゃない。そして、あの魔物は凶暴化するぞ。」
「……なんだかんだ言って気をかけてくれてるんですね。ありがとうございます。あれは私一人でやります。」
「ふん、やりたいことがあるのだろう?しかもできれば人に見せたくないようなことを。ならさっさとするんだな。ちょうどあの男もちょうどよく吹っ飛ばされたぞ。」
オーガの動きもかなり速くなってましたね。自分の怪我を無視してますよ、あれ。さっきまでは斬られた方の足を守るように後ろに引かせていたのに、さっきはふつうにその足で蹴りを放ってましたよ。
そして今オーガはギルマスが倒れている方に向かっています。止めを刺すために。
「……はぁー。今ギルマスに死なれると困るんですよね。紹介状をもらえなくなります。だから、この子たちを任せましたよ。
―――あなたたちでしょう?そこにいるのは?」
私の後方からガサガサと私に近づいてくる三つの足音が聞こえてきます。
「……なんでわかったんだよ。」
「そりゃ私ですから。」
「……なんで怒らないの?私達はそれだけのことをしたのに。」
「知ってしまいましたから。」
「……なんで僕達なんかを頼ってくれるの?」
「信じてますから。あなたたちは優しい子たちだと。私の大切な友達を任せられるくらいには、ね。」
振り返るとそこにはコウセツ達が涙を滝のように流しながら立っていました。まったく、情けない顔ですね。
「あなたたちもよく見ておきなさい。これが、ボスモンスターとの戦い方というものです。」
それだけ言うと、私は抑えていた魔力を解放しました。




