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意図せぬ闖入者 その2

「さーて、あれはどうなるでしょうね?」


 先頭が終わり倒れているアリスとイリスを氷の移動魔法で回収しながらそう呟きました。

 この魔法すごいんですよね、遠隔操作もできます。なので私は動かずとも二人を私のいる場所に運ぶことができるんですよ。その分魔力を消費しますが、私の中にいる精霊さんが回復させてくれているので関係ありません。


 そういえば私の中にいるのに話したことないんですよね、その精霊さんと。アリエルの話だとすぐに話せるようになるっていう話なんですが……。


 まあそれはそれとして今はボスモンスターです。あの3人は誰なんでしょうね?とりあえず、ゴリルのパーティーメンバーではなかったのでDランク以下は確定でしょう。……まったくゴリルは何をやっているんですか?冒険者の統率くらいしっかりやってくださいよ。


「グオオオォォォォォォ!!!!」


 始まりましたか。太陽が沈むまでにどうにかなるといいですけど。……二人もまだお休みみたいですし、私もさぼるとしますか。それにまだ姿を現さない3人も気になりますし。




 オーガが再度大きな咆哮をあげ、その手に持った巨木を地面に叩きつけた。しっかりと地面に足をつけていても思わず座り込んでしまうほど地面が大きく揺れた。


 それは知っていたのだ。30分に満たないカセルドとの戦闘で気づいてしまった。攻撃とはただひたすらに敵を追いかけてその力をそのまま振るうだけではないのだと。相手のバランスを崩すこと。その呼吸を乱すこと。それらもまた攻撃なのだと。


 カセルドの高い機動力を相手にまったく手が出せなかった。それどころか手痛い反撃まで食らってしまった。そのことをその巨体を駆り立てる強烈な狂気の中で冷静に受け止めてしまった。その不自然なまでに相反する感情を内包する精神状態は人間では維持できない。モンスターゆえにできてしまった芸当である。



 その一撃で盾持ち2人はそのあまりに強大な威力を肌で感じてしまった。そして同時に受け止めたらどうなるかもわかってしまった。


 ―――叩き潰される。


 地面の揺れが収まるころには既に二人の体は恐怖で震えてしまっていた。そしてそれにとどまらず、それの目も見てしまった。


「あ、あああ……!!」

「か、体が動かねぇ……!!」


 震えが大きくなる。手足が凍り付く。視界が狭くなる。呼吸が浅くなる。思考が鈍る。


「おい!カイル!ダリル!てめえら何寝てやがる!?さっさと起きろ!!」


 グエルが地面に膝をついて動かなくなってしまったパーティーメンバーに大声を上げた。が、彼らは体の芯まで恐怖に染まってしまっていた。もう彼らの耳に声は届かない。ただ地面に膝をついたままいずれ来る死を待つのみである。



 クソッ!!何やってやがる、あのゴミ共が!拾ってやったのを忘れたのか!?


「ッ!ギルマス!あいつらが使えなくなっちまった!!俺がやつの注意を引く!その隙に頼んだ!!」


「分かった!ただ、知ってるだろうけどやつの目を見るなよ!見たらほぼ確実に死ぬ!」


 目、だと!?そうか、あのゴミ共が動けなくなったのはそういうことか!なんの能力なのか、スキルなのかさえわからんが、とにかく見たら動けなくなるんだな!?


 先読みでまだ攻撃の軌道を読めているが、それでも時間の問題だぞ!今でさえギリギリなんだから、スキルを解けば攻撃をよけきれないだろう。魔力が切れてスキルによる先読みができなくなった瞬間、俺は死ぬ。


 それまでにギルマス、頼んだ!




 はあ、まったく言いたいことだけ言って勝手に自滅しやがって。そもそもなんでオーガの魔眼のことを知らないんだよ?この街の冒険者だったらわりと有名だろ。ここまで狂暴じゃないけど、ウリオールの巣窟のボスにたまに出てくるし。


 ……まあいいや。


「カセルド。どうするの?あれ、放っといたらすぐに死んじゃいそうだけど。」


 彼女の視線の先ではオーガを相手になんとか攻撃をしのいでいるグエルの姿があった。……本当にギリギリだね。っていうかどこか動きが不自然だな。見えてないはずなのにその攻撃をよけてる。


「別に構わないよ。彼だって覚悟の上だろう。だからジル、次の一撃で決めるよ。魔力をくれ。めいいっぱいに。」


「おっけー!!」


 ジルから再度大量の魔力が流れ込んでくる。僕の体の許容量を超えて入ってきたその魔力は右手に持っていた剣へと流れ込んでいく。


 若草色に輝いていた剣の輝きが増していく。あまりに多くの魔力を込められたせいか、次第に強くなっていく光の中に小さな放電が混ざる。そしてとうとう直視できないまでの光の繭となって周囲を照らし始めた。


 当然オーガも僕の気配に気づいているが、そこはさすがDランク、しっかりと注意を引いてくれてるね。まあそれくらいはしてもらわないと。


 その間に繭の中で大量の魔力が飽和し、剣の形に収まっていく。そしてその繭にとうとうぴしりと小さなヒビが入った。


 そのヒビは急速に広がっていき、繭は決壊した。


 ふう、久しぶりにやるね。


「スピリットオブセイバー!」


 手に持った剣はもはやその性質を失っている。大量の魔力によって剣としての物性は歪められ、その見た目はただ大量の光の粒子が剣の形を成しているに過ぎない。だがその脅威度は明らかに増し、その場に居合わせたものが思わず息をのみ、動きを止めてしまうほどにそれは肥大化していた。


 例えばそれは傍観していたヨミ。例えばそれは魔力ぎれや体力切れで倒れていたアリスとイリス。例えばそれは遠くからその様子をうかがう3人。そして例えば、戦っている最中のはずのグエルとオーガも。


 その圧倒的な威力を内包した精霊の剣が、今この場を間違いなく支配していた。

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