それぞれの戦い ※ギルマス
精霊使い:ジョブ
精霊と契約し、その力を借りることができる。
精霊は空気中の魔力の残滓、マナを回収し魔力として契約者に還元してくれたり、精霊魔法という通常の魔法よりも威力が高い魔法も使えるようにしてくれる。
しかしそもそもとして精霊を感知できなければ契約することもできない。感知できる人間はほとんどいないが、精霊使いは大抵が高い実力を持っている。
「ふぅ……。しんどっ!!」
オーガの強力な攻撃を全力で躱す。少しでも攻撃を受けようものなら確実に吹っ飛ばされる。最初に軌道をずらそうとしたんだけど、少し攻撃が剣に掠っただけで腕が持って行かれそうになったよ。本当にとんでもないバカ力だよ!
しかも回避するってなってもしっかりと距離を取らないと攻撃の余波で体勢崩されるし。こうなると大振りな攻撃ゆえに生まれる隙に反撃を差し込むことができなくなるからジリ貧なんだよね。
「しかも!こっちの攻撃ほとんど入らないし!!」
そう何とか接近できて攻撃できたとしても固い皮膚と分厚い筋肉に阻まれてまったくと言っていいほど攻撃が効かない。一体どういうことなんだろうね?
……本当に考えている通りに事が進まないよ。
あの巨体を相手に考えることはみんな同じだと思うんだけど、まずは倒すには首の位置が高すぎるからそれを落とさないといけない。そうしないと弱点になりえる首や目とかの急所を攻撃することができないからね。
だからさっきから足の腱を切ろうと頑張ってたんだけど、そこですら信じられないくらい固いんだよね。なにあれ?普通そこって人体でも弱点なんだけど。多分何回もやればどうにかなるとかっていう次元じゃなさそう。一定の攻撃力以下の攻撃をすべて無効化する感じのあれだよ。まったく、竜種とか、そうじゃなくても超上位種の一部くらいしかそんなの持ってなかったのにね。
つまり、計画が頓挫。初手からね。
「しかもなんだかんだ目を見ちゃいけないっていうのもしんどいよね。」
目って本当にたくさんの情報をくれる。視線から攻撃の軌道を読むこともできるし、瞳孔を見れば感情だって読み取れる。それが封じられてるから攻撃を回避するのも一苦労なんだよ。
「くっそ!しかもなんであの木は壊れないんだ!?もう何回も地面にたたきつけてるじゃんか!!」
こいつの攻撃基本横なぎか、地面にたたきつけるかのどっちかなんだよね。でもスピードと威力がとんでもないことになってるからその単純な組み合わせでも成立してる。うざ。
「グオオオォォォォォォ!!」
「くおっ!?」
たたきつけるな、たたきつけるな!地震かと勘違いするくらいに揺れてるじゃんかよ!
まあ攻撃の間隔がしっかりあるから体勢を立て直すくらいの時間はある。それが幸いって言ったら幸いかな。
「……さて!じゃあそろそろ、本気で反撃に出ようかな!おいでジル!」
そう呼びかけると、僕の隣で風が凝縮されていく。小さな竜巻のように渦を巻きながら集まっていき、そしてそれが小さな少女の形になっていく。その風が収まった時、そこには透明な翼を背負った彼女が浮かんでいた。
「ようやくね!カセルド!空気中のマナありったけ集めといたから!!」
僕と契約している風精霊のジルだ。普段は精霊しか行けないという精霊界にいるけど、読んだらいつでもきてくれる。言い忘れてたけど、僕は精霊使いだ。この街で唯一の。
ジルが現れてすぐに僕に大量の魔力が流れ込んできた。さっきまで攻撃の回避のために周囲の風を魔力で操っていたせいで枯渇気味だった魔力が回復していく。そして僕の上限まで流れ込んできてから止まった。
「ありがとう!いくぞ!
風精霊魔法 スピリットアーマー!」
そう言ったカセルドの空いていた左手には風の盾が、右手の剣には大量の魔力が込められているのか内側から若草色の光を放っている。それたけでなく体中を風の魔力が覆っていく。そしてそれはところどころで防具の形を成した。左胸には胸当てが、手首には小手が、脛には脛あてが出来上がった。装備の中でもスピード重視の冒険者がするような装備だが、普通の装備とは違いカセルドが身に着けているそれは風の魔力そのものでできている。
「ふっ!」
小さい気合と共にオーガへと急接近しその左足の腱を切り裂いた。突然大量の魔力を持って現れた精霊を警戒していたのか動きを止めていたオーガは、突如さっきとは比べ物にならないスピードで接近してきたカセルドに反応することができなかった。
「グオッ!?」
腱を切られ、その巨体を支えきれなくなったオーガはゆっくりと片膝をついた。
「よし!」
確かな手ごたえとその振動を感じたカセルドは自らを鼓舞するように小さく声をあげ、血を流しながらも立ち上がりこちらを睨んできているオーガに剣を向けた。
さっきまで意味のある攻撃をしてこなかった、ただ素早いだけの小さい人間に足を切られた。その目には怒り以外にも驚きとそれ以上の殺意が込められていた。カセルドはその目を直接見たわけではなかったが、体中の筋肉が無意識に緊張してしまうほどには向けられたものは強烈だった。
「ギルマス。加勢するぜ。」
「そうだ!俺たちが来たからにはもう安心だぜ!!」
「おうよ!ヘボ魔法使いもろくに体力もねえガキも役に立たなかったな!!」
そこには謹慎処分にしたはずのDランクの冒険者3人が立っていた。




