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それぞれの戦い ※アリス視点

魔力感知


空気中の魔力を感知できる第六感のような能力。魔力を頭に回し、そこで消費することで普段は眠っているその感覚を呼び起こせる。


魔力の塊である魔法の感知や身体強化魔法を使っている存在を感知できる。ただ、精霊が取り込むような魔力の残滓は感知できない。

 私の視線の先には一体の魔物。まるで威嚇しているかのように全身の毛を逆立たせている。私を敵として見てくれているからありがたい。私を無視して街の方に行かれたらそれこそおしまいだったけど、これなら私は勝つだけでいい。逃げられたら困る。幸いここまでヨミさんのおかげで体力を温存できたけど、魔物相手に追いかけっこをできるほどではないから。


「グルル……」


 でもここで戦うのはちょっとしんどい。もう少しだけ場所を変えたい。ここじゃイリスと近すぎる。反対側に行くように誘導するか。


 ウインドウルフはたとえ私の一挙手だとしても見逃さんと言わんばかりに注視してきている。……先制を取るつもりはなさそう。なら先制はもらう。


「ファイヤーボール。」


 こぶし大の揺らめく赤い火の玉を放つと同時に前に出る。まずは情報を集めないと。こいつのスピードは?反射速度は?そして隙ができるタイミングは?攻撃はいい。この手の上位種の攻撃を私がまともに食らったらそれだけでおしまいだ。


「グルル……ルアッ!!」


 私が動き出したと同時にウインドウルフも飛び出してきた。自身に迫るファイヤーボールに恐れもせずにただただ突っ込んでくる。……となると。


 ……やはり効かないか。私の放った魔法はウインドウルフが体にまとう風によって軌道を変えられ、明後日の方向に飛んでいってしまった。


 となると物理か、……。


 腰に差していた短剣を抜きウインドウルフと向かい合う。


「ぐっ!!」


 勢いそのままにとびかかってきたウインドウルフをどうにか短剣で受け流し、再度距離を取る。


 ファイヤーボールだとだめ。きっとそれ以外の魔法でもあれは軌道を変えられる。それに風の適正を持っているのならば風を使った物理的な加速だってできるはず。イリスはそれが得意だったから前衛をやってくれてた。


「グルッ!!」


 私が受け止めきれないと分かったからか、ウインドウルフは再度突進をしてくる。その体重が乗った鋭い爪が私に迫る。


 それを再度短剣で受け流す。


「くっ!!」


 今度も何とかしのげた。でもさっきよりも攻撃が重くなってる。腕に若干痺れが残ってるのがその証拠。多分完全に受け流せるのはあと数回が限度。


 でも、まだ……。もうちょっとだけ、耐えないと。


「バウッ!!」


 ウインドウルフが今度は小さく吼え、その前足をまるで空中を引っかくように私めがけて振りぬいてきた。


 ……嫌な予感がした。当たるはずのない場所にいる私に前足を振るなどという無駄なことをするだろうか?……いや!


「はぁっ!」


 咄嗟に短剣に魔力を込め、何もないはずの空中に真横に振りぬいた。三日月の形をした炎の斬撃が剣先から放たれる。


 直後、その斬撃が空中で姿を消した。


「やっぱりそうか。」


 こいつ、風の魔法も使えるのか。ただ風を纏うだけでなく、それを攻撃に転嫁できるとは。しかもそれなりの威力だ。


 さっきのは私の攻撃と相殺できたけど、咄嗟っていうこともあってそれなりに魔力を込めていた。それこそ、普通の魔物だったら一撃で倒せる程度の魔力を。それと同程度か……。普通に強敵だ。特に風の魔法攻撃は今の時間帯だと視認がしづらいから魔力感知にも魔力を回しておかないと危ない。


「グルル……。グルッ!」


 自身の攻撃を無効化されたことに怒っているのか、不機嫌そうにうなってから再度とびかかってきた。それを同じように短剣で受け流そうと構えたその瞬間、私は自らの失態に気づいた。


 とびかかってきているウインドウルフの足から感じる確かな魔力の気配に。


「くっ!うぅ!!」


 私の短剣とウインドウルフの前足が触れた瞬間、先ほどと同じ重さを感じた。そしてその直後、受け流すまでの本当に僅かな間に二つ目の大きな衝撃が私の体を襲った。


 耐えきれず大きく後ろに吹っ飛ばされ、地面を何回も転がりようやく止まった。


 転がっている途中で頭でも打ったのか、少し視界が揺れている。……下手を打った。まさか、自身の体に属性の魔力を纏わせるなんて。そんなこと人体でやったら間違いなくその部位は壊れる。適正はあってもその耐性はないから。火であれば焼きただれるし、風だったら腕ごと吹っ飛んでしまう。


 それなのにあの魔物は、そんなリスキーな攻撃をしてきたくせにピンピンとしてる。しかも今度は思い通りいったか、尻尾まで振ってる。


「はぁ、はぁ……。うっ!」


 まだ立ち上がれない。膝立ちがせいぜい。次あれが突進してきたら


 ――その瞬間、私の勝ちだ。


 勝利を確信したように、あるいは次で勝負を決めるように前足にさっきと同じように魔力を集めながら私に迫ってくる。


 それを見つめながら私は魔法の準備をする。これまで温存できていた魔力を惜しみなく使う覚悟で。


 そしてあと一歩でウインドウルフの体が私にぶつかってくる、その寸前で魔法を発動させた。


「……ピラーオブフレイム」


 私の前にいるウインドウルフの全身を包むように地面から蒼い炎の柱が空目掛け立ち昇った。まるで渦を巻くように空に伸びたその炎はその込められた魔力の多さを裏打ちするかのように、たっぷり5秒間空気を焦がしてから静かに消えた。

 その後にはウインドウルフの姿はなく、その魔石が地面にコロンと転がった。

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