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まあ仕方ありませんね

冒険者:スキル


魔法や剣以外の特殊な物。生まれ持った固有スキルと後天的に得られる深淵アビスに分かれる。


固有スキル:基本的にスキルと言えばこれのことを指す。生まれた時から所有自体はしているが、初めから自覚があるわけではない。だが自覚はないもののその効果を得ていることが多く、そしてその存在に気付いたその瞬間にそのスキルを習得できる。この時初めてスキルの全容をまるで忘れていたものを思い出すかのように自然と把握し、使いこなせるようになる。


深淵アビス:後天的に得られるスキル。これを習得したものは今も昔も数が少なく、前例が少ないために具体的なことは誰も知らない。ただ、アビスの使い手とそうでないものの差は絶大で、使い手には不意打ちであったとしても大抵勝つことはできない。

 うぉー、怒ってる!誰が見てもあれは怒ってるって!怖いですねー。


「あ、あれ?2人ともなんでここに?依頼を出していたはずなんだけど。」


 おや、ギルマスも想定外なんですか。……まあ、そうでしょうけど。扉壊されてますし。


 それにしても綺麗な太刀筋ですね。扉の破片が少し飛んできましたが表面が驚くほど滑らかです。


「そんなのもう終わったからに決まってる。」

「それよりもどういうことなのか、話を聞かせてもらうよ?なんであの筋肉バカとか、百歩譲って私たちじゃなくてヨミさんにそんなこと言ってるのか。」


 アリスはともかくイリスの声もとても冷ややかで私が怒られているわけでもないのに背筋が伸びますね。どっちも怖いんですが、顔が少し緩んでいる分イリスの方が怖いですね。怖いんですが、……2人ともやっぱり可愛いですね。油断していると顔が緩んでしまいそうです。 


「そ、そうですか。それは何よりです。」


 なんかギルマスの口調がおかしいですね。心なしか声も震えています。……なんでこっち見るんですか。私には何もできませんし、何かできてもギルマスが反感を買うことになりますよ。


「質問に答えて。」

「私たちは答えたよ?」


 そんなギルマスの背後から二つの冷ややかな声が刺さります。うひゃー、怖いでしょうねー。


「えっとね、二人とも落ち着こう?」


「十分落ち着いてる。」

「答えられない理由でもあるの?」


 あちゃー、もう逃げられないでしょうね。おや、さっきの私と同じですね。……でもそもそも隠す理由なんてあるんですか?ただのスタンピードですよね?普通に話したらいいじゃないですか。


「いや、まああとで二人にも話そうと思ってたことだからいいんだけど。とりあえずガン飛ばすのはやめようか。

 まあ簡単に言うと、近々スタンピードが起こるんだよ。そのための協力要請って感じかな。」


 スタンピード。その言葉に二人も現状の深刻さを実感したようで、ギルマスに向けていた剣呑な視線を引っ込めました。


「スタンピード……?もうそんな時期か。」

「なるほど、確かにスタンピードとなるとヨミさんの力を借りた方がよさそう。」


「でしょ?二人もそう思うよね。君たちにも協力してもらうんだけどいいよね?」


 顎に指先を当てて二人とも何か考え始めてしまいました。……本当に鏡に写したように仕草もそっくりですね。かわいい。


「確かに私たちがいた方が安全だろう。」

「そりゃ、これでもCランクの冒険者なんだし。」


「だよね。当然僕も出るつもりだけど、でもやっぱりそれでも人手が足りてないんだよ。Dランク冒険者もそれなりにはいるんだけど、それでも不安が残るんだ。それに一番実力があるパーティーが今謹慎中で動けなくてね。」


 へえ、一番実力のあるパーティーが謹慎中なんですか。……ああ、そういえばいつか私関連の喧嘩があったとか言ってましたっけ。その時に二つのパーティーを謹慎にしたとか。片方はコウセツ達のパーティーですが、もう一つはそこだったんですか。まあ顔も名前も知りませんけど。


「ギルマスが出るのは当然。あなたはこの街の冒険者ギルドのトップなんだ。」

「でも私達は出てもいいの?例年であれば私達はこの街にいないはずなんだけど。」


「え?」


「だから、私達が手伝ってしまっては今のDランクの冒険者達の成長の機会を奪ってしまうのでは?と。」

「ただでさえ今の冒険者たちは腑抜けているというのに、それに拍車をかけてしまうよ?」


 ……確かに!!そうですよ、後進育成ですよ。そりゃ私達が出れば、それこそ私達だけで話が済んでしまいますからね。今の冒険者はそこらへんに突っ立っているだけでスタンピードはおしまいです。私がボスモンスターを倒し、それ以外のはアリスとイリスだけで十分でしょう。


「……あー、そっか。そういえばそうだったね。Cランクに上がったパーティーの中で一番下のパーティーが次のスタンピードまで残って、新人の面倒を見るっていう形式だったもんね。」


「そう、だからあの筋肉バカのパーティーだけでいい。本来、私達はいなかったんだから。」

「もし心配なら背中を守ってあげるくらいならしてあげてもいいけどね。もし、本当に街が心配ならね。」


 ……?まるで街以外の何かの方が心配とでも言いたげですね。


「……はあ。まったく、君たちには敵わないな。そうだね、言うとおりだ。確かに僕はこの街以上に冒険者の死者を出したくなかったんだよ。今回こそね。」


 今回こそ、か。前回は大変でしたよ。戦線が崩壊してからずっと死に物狂いで魔法を撃ち続けていましたから。途中から記憶がありませんよ。


「今回こそ、ね。確かに前回のスタンピードはひどかった。全部が全部ギリギリだった。というか、限界を超えていた。魔石持ちのモンスターが放つ瘴気でステータスダウンさせられたうえで、例年以上の大量のモンスターが出てきたからもうみんなパニックになった。」

「ボスモンスターの討伐に向かったCランクパーティーを含めた4つのパーティーからの討伐パーティーが敗走してからは戦線が崩壊して大変だったもんね。毒の攻撃をしてくるモンスターなんてこれまで誰も戦った事がなかったし。状態異常回復ポーションとかの備蓄もなくて歴代最多の死者が出たんだよね……。」


 ……二人からしても前のスタンピードはトラウマものだったんですね。確かにあれを表現するには壮絶や悲惨などという言葉では明らかに足りません。


 魔物だけでなく冒険者の死体をも足蹴に魔物と戦って、敵味方の血を雨のように浴びながら戦いました。生きていても体力切れや魔力切れで動けなくなってる人も多く、本当に多くに人を見捨てました。ただひたすらに目の前の敵を倒すことだけを考えていました。


 その結果スタンピードで一番の成果を上げたんですが、まあ私がこの街で嫌われている原因にきっとそれもあるんでしょうね。そんな余力があるならなんで他の冒険者を助けなかったんだと。……そこまでの余力は残っていなかったっていうだけなんですがね。それに一番過酷な場所で戦ってた人はみんなCランクに上がってこの街からいなくなってしまったので、私のことを知ってる人がほとんどいなくなったっていうのもあるんですが。


「うん。そうだったよね。僕も本当に大変だった。あの時、スタンピードの規模を完全に見誤ってた。敵の数とその質、そしてそのボスすべてが僕達の想定を超えてきた。明らかに個体が強く、多く、そしてボスモンスターは獰猛で狡猾で、そしてなにより知性的だった。自分の毒攻撃の有用性に気づくとすぐにヒット&アウェイの方式を取ってきた。そのせいで毒で命を落とした冒険者が一番多いっていう結果になった。


 ……でも、そんな前回のスタンピードよりも、もしかした今回は大きくなるかもしれないんだ。少なくとも予兆では前回と同じかそれ以上の規模だって予想されてる。」


 全快と同じか、それ以上ですか。……うーん、ちょっとしんどいですかね。でもまあ私達がいればどうにかなるんじゃないですかね。


「……え?前回よりも、大きい?嘘……。ありえない。そんなのこの初心者の街にいる冒険者程度にどうにかなるようなもんじゃない。前回だって、それで王都か領都かのギルドから調査隊が来た。あれって、要は起こるスタンピードの規模があまりに大きすぎて、もしかしたら初心者の街として機能しなくなるんじゃないかってことだろう?」

「いやいや、それにもしそんな規模出来たら私達が出たとしても無理でしょ。そりゃ、前回の時とは明らかに成長しているとは思うけどさ、それでも周りがそこまで強くない。前回はまだ信用できるDランクがいたけど、今はほとんどいない。当時の私達程度の実力者なんてそれこそ数えるほどしかいない。すぐにどこでもいいから最低でもCランクの冒険者を緊急で招集するべきだよ。じゃないと冗談じゃなく、この街が滅びる。」


 ……え?二人とも結構焦ってるんですね。まあ余計なことは口走らないようにしましょう。もし前線を任せられたら本当に逃げ出したくなります。できるできないではなく、あの経験はもうしたくないです。


「当然、緊急招集はもうしてる。でも間に合うかわからない。本当にいつ始まってもおかしくないんだ。だから、頼む。前線とは言はないけど、スタンピードの鎮圧に協力してくれ。打てる手は全部売っておきたいんだ。」


 部屋の中で頭を下げたギルマスを前に二人は何も言えなくなってしまいました。その声は悲痛そのもので、それに加え命令すればいいはずのギルマスが頭を下げているという現実を前に彼女たちも混乱しているのでしょう。


 ……仕方ありません。ここは私が大人になってあげましょう。それに少しだけまだ気がかりなことがありますし。


「ギルマス、頭を上げて下さい。そんなの頭を下げるまでもありません。そもそも私達は断るつもりなんてありませんからね。使いたいように私達を使えばいいです。ただ、今のD、Eランクの冒険者達のことも考えてあげてくださいね。二人とも、それでいいでしょう?」


「は、はい……。」

「ヨミさんがそういうなら、やぶさかではないよ……。」


 ほらね?ただ、ギルマスはいつになってもギルマスですからねぇ。


「……そうか。ありがとう!いやー、よかったよ!これで何とかなりそうだ!」


 ほら、頭を下げてて顔が見えませんでしたけど、やっぱり笑顔じゃないですか。しかも満面の。のってあげたんだから感謝してくださいね。


 ……まあ私は許してあげますが、二人はそんなことないでしょうからしっかり絞められてくださいね。ほら、顔が怖いですよぉ。二人とも怒りからか少し表情が緩んでいますし、でも目の奥には不気味な闇が広がってます。


 ふふ、あとはご自由に。最低限の仕事はしました。なので私は帰って寝ます。あ、でも魔石はどうやら私のものらしいので回収しておきますね。……あ、帰る前に解体場にもよらないと。……やることが多いですね。

登場人物


イリス(双子・妹)


体力:F

魔力:C

物理:B

魔法:C

総合:C


ウリオールの街で数少ないCランクの冒険者。姉のアリスとタッグを組んでいる。容姿はアリスと瓜二つだが、アリスとは正反対な性格をしている。真面目な姉と適当な妹、正義感の強い姉と自由な妹、実力主義な姉と割と感情を優先してしまう妹。そのためか、ふわふわした印象を与える。喋り方も間延びしていて、割りと人付き合いもいい。ただ、その腕前は姉のアリスと同等かそれ以上の実力を誇る。だが、残念なことにアリスよりも体力は残念なことになっている。


「うぐうう……。も、もう、動けないよぉ……。助けて、お姉ちゃん。」


アリスとタッグを組んでいる彼女は同様にヨミにスタンピードで助けられた経験を持つ。その時にヨミの実力を知り、誰よりも尊敬する対象として見ている。そのため、アリス以上にこの街の冒険者のことを嫌っている。人付き合いが良いためか、ヨミの悪口を言ってくる輩とも話すことが多く、影で何度も折檻している。そう、友人等も優先する彼女だが、何よりも優先するのは姉と唯一手放しで尊敬できる一人の魔法使いなのだ。

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