アリスとイリス
魔法使い:シングルキャスター、デュアルキャスター、マルチキャスター
ギルドに複数の属性をよどみなく使えることを認められたものにだけ与えられる称号。デュアルキャスターはCランク、マルチキャスターはBランクがギルドから与えられる。
認められるためにはギルドが設定している試験に合格する必要がある。
・指定された魔法を2秒以内に発動させることができる。
・指定された的に魔法を命中させることができる。
この二つを同時にできることが合格条件である。合格するためには無詠唱魔法を反射的に発動させることができて、かつ命中させることができなければならない。
これが出来たら、たとえソロでも奇襲に対応できる能力があるという証明になるのだ。すなわち、魔法使いにもかかわらず近接戦でも十分に戦えるということだ。この試験に一系統合格するだけでもかなり困難である。長い時間を訓練に費やさねばたどり着けない一種の境地である。
その境地に勝手の違う複数の系統で至ったものは魔法を第六感とでもいえるような感覚で理解できる。魔法の発動にかかる無駄が省かれ、また近くであれば他者の魔法の存在にも気づける。中には他者の魔法の制御を奪えるほどの実力者もいる。
ゆえに最低でもCランク相当の実力があると判断される。
「はあ、相変わらず突然やってきて突然いなくなるやつだ。いつになっても変わらんな。」
「知り合いなんですか?」
いやまあ知り合いなんでしょうけども。あれだけ親し気に話していればそんなの分かりますが、一体何だったんでしょう?
「ああ、言っていた通りだが、奴は夜の精霊王だ。まあこの夜を支配しているといっても過言ではないな。」
「はあ!?そんなすごい人だったんですか!?」
夜を支配!?想像できませんがとにかくとんでもない人ですよね?っていうかそんな友達みたいな感じで話してていいんですか!?
「だな。やろうと思えばこの世界を壊せるんじゃないか?だから最初は私もそれなりの対応をしてた。だがやつと付き合っていると疲れるぞ。下らんいたずらをしてくるからな。まあそれが精霊というもので親愛の証らしいが。」
「そ、そうなんですか。それで精霊の加護でしたっけ、あれって何なんですか?」
本当に疲れるんでしょう、アリエルが途中からうんざりしたように精霊王のことを愚痴ってきます。
「ああ、祝福だな。なんでもその持ち主がどこにいるか、どんな状態かが精霊王からは把握できるようになるそうだ。」
「はあ?つまり、どういうことですか?」
「本当にピンチになったら助けに来てくれるかもしれない、らしい。そもそも吸血鬼がピンチになるとあるのかわからんがな。それどころか位置を知られている分、ことあるごとに遊びに来られるぞ。」
……あー、それはそれは。っていうことはただのマーキングとしてつけられたっていうことなんですかね?だとしたら少し見方が変わってきますけど。
「ただ、腐っても精霊王の祝福だ。あったら精霊に好かれるし、精霊に好かれたら全体的にステータスが上がる。だから悪いもんじゃない。よかったな。」
「へー。そうなんですか。」
ならまあなら良しとしましょうか。それに精霊王の言う通りだと精霊には意識があるみたいですよね。もし話せたりしたら面白そうです。
「さて、じゃあそろそろ行きましょうか。少し休めたおかげで魔力も十分回復したようですし。回収を考えればまだまだ時間はかかりますよ。」
「……あー、忘れてた。しょうがない、私も手伝おう。」
ふう、終わりました。昨日とは違って私も回収できたので本当に早く終わりましたね。まだ空が明るくなってないですよ。
「……ヨミ。昨日より魔物の数が少なくないか?」
「……そう言えば。確かに回収しているときはほとんど襲われませんでしたね。」
「となるとあのギルマスが言ってたことは間違いじゃなかったっていうことになるな。」
「怪しい動き……スタンピードですか。」
スタンピード。数年に一度起こる魔物の災害ですね。冒険者の街、ウリオールの中ではこのスタンピードを生き抜いたら一人前と言われます。そのタイミングで大抵の生き残りはCランクに上がり、この街からほとんどいなくなります。
「ああ、それも結構近いぞ。この魔物の引き様はもしかしたら明日にでも始まってもおかしくない。」
「……ですか。」
しんどいですねー……。あと少しでこの街を出れるっていうのに、その前に来るんですか。
はあ、なんとか私がいなくなるまで持ち堪えてくれませんかね。
「ようやく終わった。なんで私達がこんなことをしなきゃいけないんだか。ねえイリス。」
「そうだね。ダンジョンの地図なんて、そんなものに頼っているようじゃ先が思いやられるよねー。」
場所は変わって初心者ダンジョン、ウリオールの巣窟の出入り口。そこには瓜二つの見た目をした二人の少女が立っていた。
淡々と話す少女は心底価値を感じていなさそうに。間延びした口調で話す少女はどこまでも興味がなさそうに。
何を隠そう、彼女たちがまだこの街に滞在している理由はただ一つに絞られる。後進育成?それとも愛着があるから?いいや、ただ一人の冒険者がまだこの街にいるからである。
「はあ、それにしてもなんでヨミさんはこの街に居続けてるんだろう。こんな田舎町にいていいような人じゃないのに。」
「しょうがないよ。だって約束なんだって言ってたでしょ?あの3人を守るって。」
「あのクソガキどもか。できるものなら代わりに私達が一緒にパーティーを組みたいのに。」
「それは無理じゃないかな。多分Cランク冒険者の私達がヨミさんと組むのはギルドが認めてくれないと思うよ。だってこの街にCランクの冒険者って数えるほどしかいないし、パーティー単位で見たらたったの4つしかないし。」
ヨミ、双子、ゴリルのパーティー、そしてギルマス。この四つだけが、現段階でCランク以上の実力があるとされているのだ。Dランクの中にも当然Cランクに近い実力を持つものはいるが、実力だけでは足りないのだ。その場での判断力、先を見据えた持久戦、周囲との連携など、戦場で求められる力は多岐にわたる。ゆえにスタンピードを生き抜いたという実績があって初めて彼らはCランクに認められるのだ。
「はあ、ヨミさんと一緒に世界を旅してみたいなぁ。何とかならないかな。」
「だから諦めなって。ヨミさんの決心の固さをアリスも知ってるでしょ?」
「でもほら、あのクソガキたちから解散することを提案させれば……!?」
「だからないってー。Cランクと組めることの意味を知らないほど馬鹿じゃないでしょ?」
そんな二人はまだヨミに起こったことを知らない。彼女がソロに戻ったこと、謎の黒猫を連れていること、そして吸血鬼になったこと。
……どうやら朝からひと悶着ありそうだ。
登場人物紹介
カセルド(ギルマス)
体力:C
魔力:B
物理:A
魔法:B
総合:B
冒険者の街ウリオールのギルドマスター。冒険者にしては温和な性格をしていて頭脳派の印象を受けるが、中身はなかなかに天然である。なにせこの街でヨミがこの街で冷遇されていることの元凶は彼の考えなしの一言だったのだ。
「いやー、あれは本当に申し訳なかったと思っているよ。あそこまで反感があることに気づけていなかった。」
そして頭が少し残念なのに、見た目はそれなりに整ってしまっているのもよくない。冒険者ギルドの中でも美形と言われる彼は女性冒険者のファンが多いそうな。
とまあ反感を買う要素が多い彼だが、冒険者としての腕は随一である。ランクが上がれば上がるほどソロの割合が下がるのにBランクにソロで至っていることからもわかるように彼の実力はかなり高い。剣を振るいながら魔法でも攻撃をする、いわゆる魔法剣士である。デュアルキャスター、マルチキャスターと並び、ソロでもどうにかなることが多いと言われているジョブであるが、それでもBランクに上がるのは至難の業である。




