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近衛騎士団第12席 パーシィ

「私の深淵(アビス)と相殺した、だと……?一体何者なんだ、貴様。」


 驚愕を警戒へと即座に変えたエレナが細剣を片手に問いかける。


「おじさんか?おじさんはな、これでも最強の魔術師なんよ。」


「魔術師?何を言っている?そんなものはもういないだろう。」


「チッチッチ。まだいるんやなぁ、それが。」


 パーシィの指先から紫電が走り、エレナへと襲い掛かる。咄嗟に細剣で振り払おうとしたエレナであるが、その直前に紫電は爆炎へと姿を変えて彼女を飲み込んだ。


「ぐッ!?貴様!」


 その爆炎の中をまっすぐに突っ切り、エレナはパーシィへと細剣を突き立てようとした。ギャラハッドがパーシィの前に立とうとしたが、その心配はいらなかった。


「おっとっと。危ない危ない。」


 おどけたような声が聞こえた直後、エレナとパーシィの位置が入れ替わった。一瞬理解が遅れたエレナにパーシィの魔術が襲い掛かる。爆炎が巨大な手を形どり、エレナを捕えんと迫る。その気配を敏感に感じとったエレナが大きく距離を取った。


「どうよどうよ。これができる魔法使いがいるんやろかなぁ?」


「……認めよう。この型が定まっているとは言えぬ奇怪な攻撃。確かに貴様は魔術と言えるものを操るらしい。」


「そうやろう、そうやろう。」


「だが、それだけだ。なぜ魔術が廃れたか、なぜ体系的な魔法というものに落ち着いたのかを知らぬらしい。」


「なんやそれは?」


「あまりに高い自由度に使いこなせる人間があまりに少なく、そしてそれ以上に魔法が発展したからだ。」


 その言葉と同時に細剣を大きく振るった。


 直後、大量の氷の大槍がパーシィとギャラハッドへと迫るように地面から波のように押し寄せた。氷槍の波にのまれかけた二人であるが、その直前にパーシィが炎を魔術で呼び出し、自身とギャラハッドに迫る氷槍を溶かした。


「そして魔術は融通が利かないのだ。」


 魔法が阻害された感覚から逆算したのだろう、二人が立つ場所へと氷の波を細剣の突きで吹き飛ばしながら最短距離で突っ込んでいく。


「魔法は剣と併用ができても、魔術はできない。ゆえに戦闘の手段が魔術のみに限られるのだ。」


 炎で氷を凌いでいたパーシィはいつの間にかエレナの間合いに入ってしまっていた。


 驚愕で目を見開いたパーシィへとエレナは細剣を振るった。




 目の前にはいつでも余裕を失うことなく、おどけることを忘れないパーシィが敵に袈裟に斬られていた。


「婆さん!」


 ギャラハッドはその想像できなかった現実を突きつけられたものの、自分に倒れ掛かってくる彼女の姿にそれを受け入れざるを得なかった。


「……今回は殺すつもりはなかったんだがな。だが魔術師は別だ。ここで死ね。」


 自分が戦っていた時とはまるで違う、突き刺すような強烈な殺意を目の前の女騎士が放っている。さっきまでは本当にただの遊びだったと自覚させられた。


「……させる訳、ねぇだろ。俺は全てを守る騎士、ギャラハッドだ。」


「貴様に興味はないが、邪魔をするというなら仕方ない。殺すだけだ。」


 足が竦むほどの殺意、それが自分にまっすぐに向けられる。震える体を大楯キャメロットに縋るようにして奮い立たせる。


「……来いッ!」


 パーシィを大盾の内側に守るように隠し、その上で大楯を構えた。


「愚かだな。これだから人間は嫌いだ。」


 エレナが動いた。


 直後、凄まじい音と共に大楯から衝撃が伝播した。


「ッ!?」


 すべてを受け止める大楯キャメロット。それをもってしても受け止めきることは能わず、それほどまでにエレナの攻撃は絶対的だった。


「そうか、それは守ることしかできない盾だったな。貴様のような半端者に受け止められるとは思わなかったが、そうか、そういうことか。」


 自分の感覚を確かめるように細剣を軽く振ったエレナは再度構えた。


「これで終わりだ。」


 目にもとまらぬスピードで細剣を突いた。


 細剣自体はキャメロットが受け止めることができた。だが、その刺突に付与されていた何かがキャメロットを貫通し、ギャラハッドの胸の中心を穿った。


「がはっ……。」


(何が起こった?確かに攻撃を受け止めたはずだ、なのになぜ攻撃が俺の体に届いた?)


「それが受け止めるのはお前の理解の範疇にあるものだけだ。お前にとっての理外の攻撃は素通りする。少しは自分のことについて考えるべきだったな。」


「確かにその通りやな。もっと頑張んな。ここはおじさんがどうにかしておこうやないか。」


 大楯の内側からもぞもぞと這い出てきたパーシィはギャラハッドの肩をポンポンと叩いた。


「婆さん、動けんのか?」


「当然や。最強の魔術師やからな。帰ったら魔術について勉強しとき。……じゃあの。」


 ギャラハッドの返事を待つことなく魔術で自陣へと強制送還した。


 不敵な笑みを浮かべながらふわりと空中に浮かび上がった。その体には一切の攻撃の跡がなく、完全に回復したということが見て取れる。


「さて、あれだけ魔術がダメだとか言っておきながらあんたも使うんやないか。」


「……まあいい。貴様を殺せるのだ、今日の所はよしとしておいてやろう。」


「先輩やぞ、敬意を持たんかい。」

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