そろそろ寝ますか。
魔法使い:系統
水:霧水系、氷雪系
霧水系:使える魔法は水と性質変化である霧の魔法。広範囲の攻撃と幻惑ができるが効果は薄い。
氷雪系:使える魔法は水の性質変化である氷と雪の魔法。狭い範囲にしか魔法の効果は及ばないが、その分効果は強い。
「ふわーぁ。体が軽いです。早く帰って寝たいですね。」
ギルマスから逃げるようにして魔物の死体を押し付けてギルドから出てきたわけですが、……朝日がまぶしいですね!いやー、良い朝です。昼寝日和ですね。
『で、アリエル。聞きたいんですが、昨日の段階で強い気配とかありました?』
少なくとも私はそんな気配を感じませんでした。大抵は私一人で囲まれてもどうにかなる程度の魔物だったかと思います。
『いいや、昨日の段階でそんな気配はなかった。これから現れるとしても少なくとも私と貴様にとっての脅威にはなりえないだろう。』
『ですよねぇ。なら無視でいいでしょう。それよりもこれからでもできる精霊の感知のためのトレーニングってありませんか?』
『これから寝るんじゃなかったのか?まあいいが。……とはいってもまだできることはないな。今は魔力を全快させることを考えろ。』
『そうですか……。』
『そうだ。休むこともトレーニングといったところか。それにお前の中にいる精霊も朝の到来と共に眠ってしまっているから何も出来んよ。夜までおとなしく待て。』
そうですかー。となると残念ですが、寝るしかありませんか。適当にごはんを買って帰りましょう。
で、商店街に行ってごはんを買って帰ってきたわけですが……。
おかしいです。食欲がまったくわきません。サラダにオーク肉で作ったローストビーフにパンをテーブルに並べたんですが、食指が動きません。
うーん、睡眠不足でしょうか?確かに夜寝なかったらそんなに食欲はわきませんけど、でもまったくわかないなんてあるんでしょうか?
ごはんを前に手に持ったフォークをさまよわせていた私をテーブルの隅でミルクを飲みながら見ていたアリエルがポツンとつぶやきました。
「ヨミ、ごはんなんて買ってどうしたんだ?吸血鬼だから何も食べなくても大丈夫なんだが……。」
「はあ!?今なんて言いました!?」
「いや、だから吸血鬼なんだから食べる必要がないと。しかも貴様は誰よりも純血に近いのだから余程のことがなければ血も飲む必要がない。」
「だったら、それを早く言ってくださいよ!!ごはんを買ってるときに言ってくれてもいいじゃないですか!?」
「……うん?ああ、すまない。吸血鬼初心者だったことを忘れてた。」
はー、どうしましょうか?あの子たちにあげましょうか……って何を言ってるんですか、私は。もうそんな人などいないじゃないですか。
……はー、捨てるわけにもいかないのでアイテム袋に入れて寝ますか。中に入れても混ざらないですし。
……それにしても私何かしましたかね?買い物しただけなのにすごい睨まれたんですけど。
「あれ、ギルマスどうしたんですか?今日は休みだとか言ってたじゃないですか。」
「うん?ああ、ちょっとね。やり残した仕事があったんだ。それが終わったらもう帰るよ。」
「そうですか。昨日の今日なのでいてほしいのが正直なところですが……。」
「ははは、出張帰りだから勘弁してくれ。」
受付嬢と軽くやり取りをしながら解体場に向かう。まあやり残した仕事もあったんだけど、それはさっき2階のギルマスの執務室で終えてきたから、あとはこれだけだよね。
解体場で今朝ヨミが大量に狩ってきた魔物の解体をお願いしてたんだけど、そろそろ終わったかな。
「おーい、ジョンさんいる?」
「おお、来たか!ちょっと奥まで来い!」
解体場の中に声をかけると、奥からジョンさんの声が聞こえてきた。奥まで来いってことはやっぱり何かあったのか。
他の解体場にいる職員に軽く挨拶をしながら奥に向かって歩いていく。ヨミが大量に狩ってきたせいでみんな忙しそうだよ。かわいそう。
で、その一番奥に見慣れた筋骨隆々のおじさんが立っていた。
「で、ジョンさん。何があったの?」
「ああ、ちょっとこれを見てみろ。」
そういってジョンさんが指さした先には中型の獣型の魔物の死体があった。おそらくワイルドウルフ。特にこれと言っておかしいところのない、しいて言えば負傷をしている箇所が一つしかないから一撃でかつとてもきれいに討ち取られたというところくらいか。
「……なるほどね。そういうことか。」
「ああ、こいつには魔石がある。」
魔石。魔法使いが使う杖の先につけられ、魔法の威力上昇や消費魔力の低減などの手助けをしてくれる。それか剣の柄あたりにつけることで剣そのものの重さを軽減させたり、一撃の威力を上げることができる。大きい魔石であればあるほど強い効果がある。
だが、それほどの効果を持つためなのか、その魔石は一部の強い魔物の体内からかダンジョンでのドロップ品からしか得ることができない。それこそボスモンスターと呼ばれるほどの強い個体からしか。
「つまり、スタンピードの前兆とみて間違いなさそうかな。」
「ああ、そうだな。ワイルドウルフが魔石を持ったとなるとあと一週間以内には確実に起こる。」
そしてその魔石を持つボスモンスターは自らの邪気を放っていて、その邪気に長時間触れた魔物はその体内に魔石を作り出す。そして当然だが、素が強い魔物ほど魔石を作る時間が短い。
ワイルドウルフはあの樹海で一番かその次に強い魔物だ。そのモンスターが魔石を持ち出したということは一週間もあれば樹海にいるそれなりに強い魔物の体内に魔石が出来上がるだろう。
……これは思ったよりも余裕がないな。きっと襲ってくる魔物も半分は魔石持ちになるから負傷者も増える。一体ならDランクでもどうにかなるだろうけど、連戦となるとCランクじゃないと厳しいか……。
「だがそれにしても魔石持ちの魔物をここまできれいに倒すとは、相変わらず魔法の腕は図抜けているな。」
「それに倒している量も量だよ。一晩中戦っていたとはいえ、とんでもないね。」
「……昨日の喧嘩はまずかった。あれのせいでヨミの敵が冒険者以外にも増えたかもしれない。カセルド、十分気をつけろよ。いくらCランクとはいえ、一人の人間だ。心はそこまで強くはなってくれない。」
「もちろん。それが僕のギルマスとして彼女にしてあげられる唯一のことさ。」
登場人物紹介
ヨミ(吸血鬼・白銀)
体力:ーー
魔力:A
物理:C
魔法:A
総合:ーー
吸血鬼になった後のヨミ。黒髪黒目から吸血鬼特有の白銀の髪、夜の精霊を捉える朱色の瞳へと変化を遂げた。不老不死の強靭な肉体は得たものの、仲間に裏切られ心に大きな傷を負った彼女はそれでも魔法が大好きなのには変わりはなく、その大きな穴をアリエルと共に魔法に打ち込むことで埋めようとしている。
「うぐえぇぇ……。頭がガンガンします……。」
だが、そのトレーニングは常人では乗り越えることはできないほどの想像を絶する苦痛を伴うものだった。果たしてその先に何を見るのか、それは誰にもわからない。




