帝国軍第一部隊長 ガート=ダイヤモンド
「王国騎士団!全兵、突撃ーー!!何があろうと守り切れ!!」
「全部隊突撃!敵を殺せ!全てを壊せ!勝利以外は死と心得よ!」
戦いは苛烈を極めていた。
帝国と王国の国境部分にある大きな平原、ベーリング平原。その平原以外の国境は深い森によって自然の防壁となっているために、主戦場は常にここである。
衝突した両軍は対照的な色合いの装備をしている。
白と青を基調とした近衛騎士団が率いる王国騎士団は白色の装備をしている。一方で帝国騎士団、その指揮官である部隊長は黒と赤。その部隊は黒で染まっており、異様な迫力を持っている。
金属の衝突による甲高い音が戦場を支配し、その陰に隠れるようにうっすらと兵の悲鳴がこだまする。双方の放つ魔法が空中で衝突し、爆発を起こす。そして運よく敵軍に到達した魔法もあらかじめ張られていた結界に阻まれる。
拮抗。その戦場の様相はこの一言に尽きる。数が多い王国騎士団と質が高い帝国騎士団。倒れる騎士はいても、それは戦況を大きく変えるほどにはならない。
やはり戦況を変えるには実力者が必要である。それも他の追随を許さぬほどの図抜けた強者が。
「ヨミ!行くぞ!」
「分かったからその名で呼ぶな!」
先に動き出したのは近衛騎士団であった。近衛騎士団第一席、アーサー=ペンドラゴンと第四席、ヨミ=ブラッディフォールである。
王国最強が戦場を駆ける。敵を吹き飛ばし、光属性魔法特有のスピードで敵陣にまっすぐに迫る。
だが、その二人に一つの黒い影が迫る。空間が歪むと錯覚するほどの魔力をもって接近したその影に二人は思わずスピードを止めた。周囲の兵士たちは吹き飛ばされ、戦場に空白が生まれた。
そしてその空白の地に降り立つ魔力を持つ男が一人。
「はっはぁ!待っていたぞ、近衛騎士団!俺は第一部隊長、ガート=ダイヤモンドだ!」
「申し訳ないけど君の相手をするほど暇ではないんだ。先に行かせてもらうよ。」
再度二人の姿を光が包み、空高く飛び上がった。
「行かせる訳ねぇだろ!!」
二人に追いすがるように地面を強く踏みしめた。
「待てや。」
だが、ガートが飛び上がる寸前に彼の足を穿つ一筋の光があった。そしてその声の主がガートに斬りかかった。
「ぬぅ……!」
「近衛騎士団第三席、太陽の騎士ガウェインだ。団長は忙しいんだ。相手は俺で我慢しな。」
地面に荒々しく着地をしたガウェインは武器を構えた。
「あとトリスタンもいるよ。」
その背後に立つ少女は長弓を手に持っている。その弓には弦がなく、矢すらも彼女の手にはない。だが、確かに彼女の一矢がガートの足を貫いた。
「ほう。近衛が二人か。……悪くないな。」
「はっ、言ってろ。焼き殺してやるわ。トリスタン、援護しろ。」
「はいはい。任せなさいな。」
ガウェインから世界を焼き尽くさんばかりの強力な熱が放たれ、そしてそれを飲み込まんとするほどの闇の魔力がガートから放たれる。
「行くぞ、魔剣・デュランダル。炎を飲み込め。」
「起きろ、聖剣・ガラティーン。全てを焼き尽くせ。」
戦場の中心地で太陽の如く燃え盛る炎と全てを飲み込むブラックホールの如き闇の柱が立ち昇った。
「うらああああああ!!」
「うおおおおおおお!!」
炎と闇がぶつかり、大きく爆ぜた。
生じた爆煙の中から鋭い剣戟の音が響く。戦いの衝撃からか、煙が少しづつ晴れていき、中の様子が少しづつ周囲から見えるようになってきた。
だが、その動きは目で追えるほどのスピードではなく、二人の残像のみが周囲が知覚できる情報であった。
「はっはっはっはぁ!!いいぞ!それが下賜された聖剣の力か!!」
「ぐッ!……っそがぁ!」
「遅い遅い!まだまだ俺は全力じゃないぜ!」
ガウェインの声に余裕はないが、ガートの声にはまだまだ余裕がある。
「おいおい、防御だけじゃ俺には勝てねえぞ!」
「……ッ!ぅるせぇっ!!」
炎の聖剣と闇の魔剣。双方が織りなす光の軌跡は戦場を彩る。だが、劣勢であるガウェインは攻撃から次第に精彩が欠かれていきーーー。
「はっはぁ!攻撃が雑だぞ!!」
とうとうガートの振るった魔剣がガヴェインの体を捉えた。
たまらず吹き飛ばされたガヴェインであるが、空中で体勢を整え着地した。
「クッソ!強えな、おい!」
「まだまだだな!出し惜しみなどせずに本気を出せ!出ないと死ぬぞ!」
ガートはガヴェインへと駆け出しながら大声で叫んだ。
「戦慄け、フェイルノート。」
しかし、攻撃姿勢に入ったガートへ光の矢が放たれた。その矢は光のレーザーとなって圧倒的速度と威力をもってガートへ襲い掛かる。
「ぬぅっ!?」
ガートは少し後ろに押し戻されたが、その矢をデュランダルで受け止めた。
「ッ……。必中必殺の穿弓、フェイルノートか。はっはぁ!受け止めてやったぞ!」
にやりと笑って見せるガートの顔を見て思わずトリスタンは顔を歪めた。そもそもが必中効果を持つフェイルノートに込められる最大の魔力を込めて放ったのだ。倒せはしなくても、少なくとも手傷を負わせることはできると確信していたのだ。
「まじ?絶対入ったと思ったんだけど?無傷とかしんど。」
「そんなこと言ってる場合かよ。これでわかったろ?死ぬ気でやらねぇとこいつらには勝てねぇ。」
「っぽいね。めんどくさい。……溜まった?」
「いや、まだだ。もう少し時間を稼ぐ。」
「分かった。」
ガウェインがガラティーンを手にトリスタンの前に立った。炎を宿す聖剣は煌々と輝き、ガウェインの闘志を映しているかのようである。
「なんだぁ?作戦会議はおしまいか?
―――なら、行くぜッ!!」
「来やがれッ!」
再度炎と光、闇が戦場を彩った。




