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閑話 連合国にて

この話から二日毎に15時投稿をします。

よろしくお願いします。

 多種族連合。精霊信仰が強いこの連合では、その本部を世界樹の全貌を臨める連合の中心地に置いている。それぞれの種族の王は世界樹の近くに住み、そしてそれ以外の集落は連合の中に散らばるように存在している。同種族同士が固まることもなく、異種族同士の交流も盛んだ。もっとも、人間はそこから省かれるが。


 エルフは森の中に木造の平屋を作り、集落を形成している。ドワーフは山の麓に穴を掘り、そこで生活を送っている。獣人は拠点を持たず、連合の中での移動を繰り返している。そんな彼らの元にもサーシャは現れていた。


「やられたな。まさかこんな時に始めるとはな。」


 中心地には自然と一体になって暮らしてる彼らの中で唯一、文明というものが芽吹いていた。集落ではなく、街と言っても差し支えないほど繁栄している。建物は木造に限られるが、平屋だけでなく2階以上の建物も散見される。また連合内に唯一冒険者ギルドが存在する。


 その中心にある連合本部は豪奢ではなく、街に溶け込むようにひっそりと立っていた。初めて訪れたものはそれを本部だと見抜くことはできないだろう。だが、その中で連合の全ての取り決めが為されている。他国との外交や内政をはじめ、彼らにとって最も大事な精霊との契約を収穫祭と称して行う。そして隠れているSランク冒険者、精霊王と唯一連絡を取れる機関でもある。


「そうね。いつも急とはいえ、今回はタイミングが悪すぎるわ。」


 しかし、そんな本部に入れる者はたった3名。


 一人目はエルフの長。いくつもある集落の長ではなく、それらすべての長の頂点に立つもの。エルフの中での王族である彼らは種族からしてエルフとは違う。エルフよりも長く生き、多くの魔法とスキルを持つ。集落を持たず、一人で生きたいように生きるそんな彼らはハイエルフと呼ばれる。そんな中でも最も長く生きたハイエルフがエルフという種族そのものの長となる。

 今のエルフの長は若々しい女性が務めている。だがその体から感じる魔力は強大で、見た目通りではないことを示している。


 二人目はドワーフの長。高熱に耐性があり、筋力も強い彼らは鍛冶師として大成することが多い。業物や名剣と言われるものは大抵彼らの手によって作られる。しかし、その中でも魔剣と言われる属性のついた武器を作れるのはほんの一握りのみである。そんな彼らはエルダードワーフと呼ばれている。そして最も強い魔剣を作れたものがドワーフの長となる。

 ドワーフの長は日焼けした中年の男が務めている。体は鍛治師とは思えないほど細いが、それは筋肉を自身の筋肉で圧縮しているためである。


「まさか精霊王様がいらっしゃる日が開戦と重なるとはの。ま、吾輩は精霊王様を迎える方を優先するべきと思うが。」


 三人目は獣人の王。魔法を不得手としているが、その分純粋な肉体の強さは他の追随を許さぬほどである。そんな彼らであるからして、王には強さではなく賢さが求められる。代わりに強さの象徴には戦士長と言われる役職がある。

 今の獣人の王は老齢の犬型獣人が務めている。杖を突き、戦闘能力はないと言っても過言ではないが、それでも眼光は鋭く、老獪という言葉が似合う出立ちである。


「そうするに決まってるじゃない。ただ、魔王は私たちハイエルフよりも長く生きてる。それは伊達じゃないわ。」


「しかもあの言葉。普段の宣戦布告よりも言葉が多かった。そのまま受け取るなら、これが最後の戦争になりそうだが。」


「然り然り。あの魔王が失脚するとは思えんが、じゃが最後の戦争だと思って準備はするべきじゃろう。」


「どんな準備よ?いつも通りじゃだめなのかしら?」


「ドワーフが補給、エルフが後衛、獣人が前衛、か。種族を超えての連携は難しい。儂はこれが一番だと考えるが。」


「そうじゃのう。吾輩もそれには異論はない。じゃが、6000年の答えを知りたいと言っておったじゃろう?なら、これまでの戦争とは一味違うものになるはずじゃと、思ってな。


 ーーーそれこそ、侵略戦争から生存戦争に変わったり、とかの。」


「?それの何が違うのかしら?同じように攻めてくるってだけじゃないの?」


「……?」


「そうじゃな。魔王の言葉にこの戦争の結果の全てを受け入れるとあった。極端に言うならば、それは吾輩たちと帝国、どちらの在り方が正しいかを問うているとも解釈できる。となれば、どちらが生き残り、滅ぶかを決めると言っているのと大して変わりはないじゃろう。」


 獣人の王の言葉の後、本部は静寂に包まれ、他の二人の顔は驚愕から納得、そして覚悟へと変化した。彼らからしてもそれは妥当性がある未来だったということであろう。


「なるほどね。正真正銘の殺し合いになるっていうことね。」


「儂らも覚悟を決める必要がありそうだ。敵を殺し、自らが生き残る覚悟を。」


「これまでの戦争は言ってしまえばただの領土の取り合いであったゆえ、無暗に殺しなどはしなかった。じゃが、今回はそうはなってくれんだろうな。」


 それは誰にとっても最悪な未来である。ただ戦争の目的が土地や富ではなく、相手の鏖殺なのであれば。その未来は誰がどう見ても血に濡れたものになるのである。


 その未来を思わず想像してしまったのだろう、誰かが生唾を飲み込む音が静かに響いた。

誤字報告ありがとうございます。

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