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ティターニアの戦い その3

 ティターニアが展開した神性領域の中でリヴァイアサンが重ねるように神性領域を拡張した。


 リヴァイアサンが作り出した魔法陣からは大量の海水が流れ出し、ティターニアの神性領域を侵食していく。

 海水が星を満たしていくと言えば神秘的に聞こえるかもしれないが、その実態は荒ぶる大量の海水による穏やかな世界の蹂躙である。


「これは……。」


 他でもないティターニアは分かっていた。自分の世界がリヴァイアサンの手によって浸食されているという現状の危険さを。そしてそれに抗うことができないという事実を。


「――――!!!」


 リヴァイアサンは魔道具の契約に縛られ、敵意と殺意をまき散らしている。だが、まだそれで済んでいるのは世界の奪い合いでティターニアの方が優勢だからである。世界の奪い合いでリヴァイアサンが優勢になったら直接攻撃を仕掛けてくるであろう。


「くっ!」


 ティターニアが世界に干渉の手を伸ばし、リヴァイアサンに攻撃を仕掛けた。全方位からあらゆる属性の攻撃魔法がリヴァイアサンに殺到する。そして星の権能が乗ったそれらは世界に後押しされ、威力が通常のそれとはけた違いなものとなっている。


「――――!!!」


 リヴァイアサンはその魔法を禍呪の権能を実体化させた呪いの弾幕で向かい打った。その結果攻撃のほとんどは撃ち落とされたが、その弾幕を掻い潜った魔法がリヴァイアサンの体を打ち抜いた。


 ―――少しは通じるか。それに世界の浸食が少し遅くなったか。悪くはないな。……使った魔法が最高位の魔法であることを除けば。


 星の権能を反映させた神性領域内において魔力切れはない。しかし魔法の発動を維持しつつ世界の主導権を奪い合うのは精神的に厳しいものがあるだろう。


「ティターニア!?これは?」


「世界の奪い合いだ!とにかく、リヴァイアサンに攻撃を当て続けろ!」


 余裕のない声でティターニアが叫ぶ。アーサーが慌てて聖剣を抜き、攻撃を始めたのを尻目にティターニアは思考を加速させる。


 ―――まずいな。おそらく世界そのものが崩壊するまで10分程だろう。だが、このままのペースで侵食が続けば5分もかからず世界の支配権は私の手から失われるだろう。


 ティターニアの直感で5分。それだけの間リヴァイアサンが支配権を握る神性領域内で生き延びねばならない。それがどれだけ絶望的なことか、神性領域を展開できるティターニアは分かっている。


 ―――叔父様の権能、か。確かにまだ二つの権能が残されている。私が今いる星を示す“星”、月を示す“陰”と太陽を示す“陽”。

 だが、今使っている星だけでもようやく使いこなせるようになった程度だ。同等の力を持つ二つの権能を解放したら、おそらく出力に耐えられない。体の損傷ならいい方、魂が内側から壊れたら夜の精霊でも治すのは手間だ。


 刻々と制限時間が迫ってきている。アーサーの助力もあり、少し浸食の速度が落ちているとはいえ、誤差の範囲といって差し支えないだろう。


 ―――それにそもそもとして私の体はもう吸血鬼ではない。同族である吸血鬼のヨミと互いに気づくことができなかったように。叔父様に力を借りる過程で随分精霊に寄った存在となってしまった。

 ……こんな体になってまでまだ吸血鬼を自称するとはな。


「ティターニア!まずいよ!反撃がどんどん強くなってきてる!」


「分かっている!少しだけ時間をくれ!」


 ―――そう、こうなることは分かってた。あの時、始祖の叔父様が死んで、その魂の受け皿に自分の体を差し出した時から、ずっと。

 私は数少ない吸血鬼から、半精霊半吸血鬼という一人ボッチになるということを。


 今も昔も吸血鬼の数はとても少ない。そのために、家族という存在を唯一自分の命よりも価値があるものとして、とても大事に考えている。

 無限に等しい命を持つ彼らからしたら当然のことだろう。同族以外の生物は大抵すぐ死んでしまうのだから。


 ―――……ヨミ、お前のせいだぞ。叔母様に再会して、それで終わりだったらよかった。でも、久しぶりに新しい家族ができてしまった。

 もう鼓動を止めた胸が弾むようだった。ずっと昔からお姉ちゃんみたいな話し方を考えてたし、行動も考えてた。無駄に生きてるせいで詳しくなったこの世界のことを、教えてあげたかった。世界樹の枝から見る日の出がきれいだとか、エルフの癖にすごいおいしい肉料理を作る男がいたとか。


 お前と語らいたい、お前と触れ合いたい、お前と仲良くなりたい、……お前のことを、もっと知りたかった。


「ティターニア!」


 自分に攻撃が迫ってきていることをティターニアは気づいていた。その攻撃は禍呪の結晶に破壊のオーラが上乗せされた、一人に使うにはあまりにも過剰な火力が乗っている攻撃である。それが雨のように降り注ごうとしていたのだ。


「分かってる。」


 だが、その攻撃は突如として現れた赤い炎の塊に吸い込まれるようにして消えた。


「リヴァイアサン。私は覚悟を決めたぞ。大切な家族を守るためにも、ここで私がお前を止める。」


 その瞳はかつては朱く、緑に色づき、その果てに白く染まる。その髪は金から緑へ、そして緑から白へと到達した。

 吸血鬼という無限の生を持つ存在でありながら、生の概念のない精霊と完全同化したティターニアの周囲には二つの塊が静かに漂っていた。炎の塊と一回り小さい岩石の塊。


 紫の光輪を背に立つティターニアを見たリヴァイアサンが大きく吼えた。

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