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死の天使

 上空からゆっくりと降りてくるノアの存在に魔物たちが気づいたときには既に手遅れであった。既に結界魔法の中に囚われており、殺人クラスの浄化魔法の中に囚われているのだから。


 周囲を囲んでいた魔物たちが上げている苦悶の声を聞いたセロは混乱したが、突然聞こえた謎の声の言うことを聞いて結界の強度を上げておいてよかったと心の底から安堵した。なにせ、彼の結界魔法の隙間からかすかに見えるあの魔法に巻き込まれたら、自分たちも当然のようにまきこまれるであろうことは想像に難くなかったからだ。


「久しぶりに使ったけれど、思ったよりも使いこなせるわね。……それも当然ね、あなたは私が願った私ですもの。根底は変わらないわよね。」


 ノアからしたら久しぶりに使う魔法であるが、彼女の想像以上に滑らかに発動できた。魔力の支配も空間の把握も一度全て習得したこととはいえ、時間と共に感覚が失われているはずであった。


 だが、そうはならなかった。彼女の意識に体が追い付き、的確に魔法を発動させたのだ。彼女の全盛期よりは少し劣る部分もあるが、許容範囲に十分収まっている。


 それが意味するのはヨミもさぼることなく魔法の訓練を続けていたということである。昨日の自分よりも強く、一時間前の自分よりも速く、一秒前の自分よりも深く。


「今ので感覚のすり合わせができたわ。……それで、まだやるのかしら?巨人さん?あなたも少しずつあの男の支配も抜けてきているでしょう?」


 ノアの視線の先には一人の巨人が膝をついて震えていた。周囲の魔物は倒れ、半数近くが姿を消している。彼以外の巨人たちは地面に横たわり、全身から黒い煙のようなものを上げている。魂の昇天まで至っていないのはそれだけ彼らにかけられた支配が強いということだろう。


「ウググ……。トメラレナイ。アタマデハワカッテル。ダガ、カラダガカッテニ……!」


 巨人が突然立ち上がり、ノアに向かって走り出した。その顔はなぜか攻撃をしている側のはずなのに恐怖に染まっていた。


「あらあら、それは大変ね。しかもそんな顔をして……。仕方ないわね。直接浄化してあげるわ。」


 彼が振り回している家の柱のような丸太を空中で軽快によけながらノアは巨人に向かって手を伸ばした。


「この結界でも浄化しきれないとなると、魂の奥深くまで支配が及んでるかもしれない。となると、詠唱付きで魔法を底上げしないといけないわね。少し魂に触るけど、我慢してね。」


 大通りの中央でまだ暴れ続ける巨人の周囲を飛び回りながら少しづつ魔法をくみ上げていく。


「天の手、……、光の手、……、汝に差しのべたるは救済の証、」


 詠唱の始まりと共にノアの左手の周囲を回るように魔法陣が組みあがり始める。そこに呪いが反発をしているのか、巨人の動きが激しくなっていく。丸太がぶつかった家が倒壊し、家具が散乱していく。


「汝に授けたるは輝ける未来、……、光あれ、……、幸あれ。」


 魔法が完成していくにつれて、魔法陣が光を放ち始める。狂乱状態に陥った彼の攻撃はついさっきまで避けていたセロの結界にまで及んだ。反撃として雷が飛んでくるが、それすらも取り込んで暴走を続けている。丸太が雷を帯び、さらなる破壊力と攻撃範囲を持って暴威を振るい始めた。街並みを破壊し、廃墟を更地に戻す勢いである。


「神と精霊の名のもとに、我は担い手とならん。」


 詠唱の終了と共に魔法陣がノアの左手の中に溶け込み、白く光を放ち始める。魔法の完成を直感した巨人が最後の力を振り絞るように周囲を破壊し始めた。どちらかというとノアに攻撃を当てるというよりかは、近づけさせないとしているようである。


 だが、惜しむらくは彼女は魔法の中でも最速に位置する光属性に適性があったことであろう。光属性に対抗するには無属性でも特殊枠である時間、空間、重力など世界に干渉する力がどうしても必要になってくる。


 そのために、彼の暴走は全てが無駄であった。最も、魔法の詠唱をしながら周囲を光のスピードで飛び回り続けるという芸当が出来てこそだが。


「無駄よ、たとえ同じ光でも私を捕えることはできない。」


 まるで空間転移したかのように巨人の頭上に移動したノアが左手を軽く巨人の頭に触れさせた。


「光属性浄化魔法 ピュリフィケーション」


 光が巨人の体内に流れ込み、内側から浄化を始める。それは結界を利用した浄化よりもはるかに効果が高く、瞬時に魂にまで浄化の輝きが届いた。体から呪いの残滓のようなモノが出てくる余地を残さないほどの強力な浄化であった。


「……さて、これで一件落着、と言いたいところだけど。」


 他の巨人たちの浄化も完了していることを確認したノアは結界魔法を解いた。白い炎に包まれた空間は消え、ただただ静かな廃墟が目の前に広がっている。


 だが、その中に魔物の気配と呪いに侵された人間の気配があった。


「まだ終わりじゃないようね。


 面倒くさいから一撃で終わらせてあげるわ。」


 ノアは左手を天に掲げると小さく呟いた。


「光属性魔法 セイントレイン。」


 浄化魔法が乗った光の雨がノアを中心に広範囲に降りそそいだ。それは魔物を天に返し、冒険者にかけられた呪いを解呪した。


 たった一人で戦場を完璧に制圧しきったのだ。


 天使の帰還は今この時果たされた。

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