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揺蕩う魂 その2

「これは……?」


「これはね、生物としての根源である魂だよ。生命活動を行う上で一つの生命に与えられたエネルギーのようなものさ。」


 精霊が手に持っていた羅針盤を空中に引っ掛けるようにして空中に固定させた。


「いつか話したよね?本質(コーパス)がどうのってやつ。それによってこれの形も変わるんだ。ここまで奇形な物は初めて見るけど、それだけ君たちが目指すものが壮大な物だってことだね。」


「はぁ。」


「……最初から説明しなさい。あなたの説明は適当すぎるわ。」


 ヨミがよく理解できていなかったのを察したのか、ノアが精霊を叱りつけた。


「えー、分かったよ。

 まずこれについてね。この羅針盤の大きさが君の魂の残量だよ。時間と共にこの羅針盤が魂の炎に溶かされていくんだけど、その時に魔力やら体力やらに変換されるんだ。そしてこれがなくなった時生物は死ぬってことだね。」


「なるほど。それは吸血鬼であったとしても死ぬということですか?」


「死ぬね。でもまあそんなことには滅多なことが起こらないとならないんだけど。それ以外の方法で死ぬ方が多いんじゃないかな。」


「なんでですか?」


「そりゃ、僕達夜の精霊は魂を治すことができるからね。たとえ限界まで消耗していても時間さえかければ確実に治せる。だから吸血鬼は死なないのさ。」


「なるほど、そういう理屈ですか。」


 吸血鬼の不死性は夜の精霊に裏打ちされていたのだ。いつぞやアリエルが言っていた夜の精霊が特殊であると言うのはここからきているのだろう。


「そそ。それでさ、こんどはこっちを見てみてよ。」


「その青白い炎ですか……?」


「そそ。これがさっきまで大変なことになってたんだよ。ガンガン魂を消費されてくからさ。……ずいぶん無茶したみたいだね?」


「それは、はい。」


「いやいや、別に責めてるわけじゃないよ!?ただなんて言うかさ、お疲れ様って言うかさ。頑張ったねって言うかさ。まあ、そんな感じなわけだよ。」


「えっ?」


 座り込んだままのヨミが驚いたような表現を浮かべて彼らを見上げる。


「まだるっこしいわよ。いいかしら?簡単に言うと、私たちはあなたの味方ってことよ。私たちは一心同体である以上に頑張り続けるあなたの応援をしたいし、手を貸してあげたいと思ったの。」


 ノアはヨミに手を差し伸べながらニコリと優雅に微笑んだ。


「……ずっと見ていたわ。魂の奥底から微睡の中で。辛かったわよね。しんどかったわよね。全てを投げ出して逃げ出したかったわよね。


 もう大丈夫よ。私たちがついてるわ。だから、私たちの手を取ってくれないかしら?」


 ヨミは一瞬眩しいものを見るかのように目を細めたが、すぐに顔を下に向けてしまった。


「……わからないんです。」


 ヨミがくぐもった泣きそうな声でそう言った。


「私は誰かを信じるということがわからないんです。どうしたら信じられるのか、何をしたら信じるということになるのか。そして信じられたとして、私に何ができるのか。

 だからあなたの手を取ることは私にはできません。」


「……そう。なら仕方ないわね。」


 失望でもなく怒りでもない、ただ寂しさを湛えた声にヨミの心は揺らいだが、それでも彼女に起き上がる気力は残されていなかった。


「…………。」


「これから話すのはただの独り言よ。


 私は生まれた時から特別だったわ。私はね、この国の第一王女だったのよ。知ってるかしら?王女ってだけでこの国で片手で数えられるくらいには偉いのよ?

 対等な存在なんてほんとに家族しかいなくて、それ以外の人は話しかけることすら不敬であるとされてたわ。そんなだから当然対等な存在なんていなかったし、友達もいなかった。他者との関わりは命令と受諾、それのみだった。


 そうね、あえて言いましょう。私はずっと一人だったわ。誰も気づいてくれなくて、みんなが私の存在をありがたがった。

 王女という立場を鬱陶しく感じ、一人の人間として認められたいと思うようになるのに時間はかからなかったわ。運よく火と光の適性に恵まれた私は魔法の腕を磨いたし、それだけじゃなく剣の鍛錬も積んだ。その結果近衛騎士団の入団試験にも受かるほどの実力を身に着けることができたわ。でも今にしては思えば力さえあれば認めてもらえるなんてあまりに短慮が過ぎたわよね。

 実際力があったところで私にはそれを振るう機会を与えてはもらえなかった。私に求められていたのは王女という肩書だけだったのよ。王子だけでなく王女も国民のために戦っていると、そのために利用された。


 だから私は人を助けるという道を選んだわ。誰であろうと助けれくれた人には等しく感謝をするものだと思ったし、実際そうだった。王女という身分を隠し世界を放浪した旅の中で多くの人を助けたわ。手を差しのべるたびにいろいろな物を失ったけれど、感謝されるたびに私は生を実感できた。


 だから私は人を助けたいと思ったのよ。不器用な私にはそれくらいしか人と関わることができなかったの。……あなたはどうなのかしらね?

 少しだけ体を借りるからその間考えておいて頂戴。いつでも私はあなたを待っているわ。」

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