頭、ガンガン
「うううう、気持ち悪い……。」
「何をその程度で音を上げている。まだ使い切っていないぞ。魔法は発動自体はしている。失敗するまで魔法を使い続けろ。」
ぐぬおおお、とてつもない不快感です。魔力不足でふらふらすることはこれまで何回もあったんですが、それ以上に魔力を使おうなんて考えたことなかったです。
いやー、しんどいです。本当にしんどいです。例えるなら体の中から絶えず何かが出てきている感じです。何とは言いませんが。モザイクがつきそうですし。ですが本当にそうです。頭の奥はガンガンするし、体に力は入らないしでもうボロボロですよ。
それにそもそも何で魔力を全部使い切らなければいけないかというと、私の中に入ってくれている精霊が私の所持魔力の総量を把握できるようにするために一度使い切らなければならないそうです。でも、一回やっても次の夜には新しい精霊が入ってくれるので、最初の頃は定期的に魔力を使い切らないといけないそうで。これを聞いたときは卒倒すると思いましたよ、ええ。まあ、それなりに回数をこなせばする必要はなくなるそうなんですが、それがいつになるかはわからないと言われました。早ければ早いし、遅ければ遅いって答えてないのと同じですよね。
「私も通った道だ、どうせ一日寝れば治る。ほら、また新しい魔物が来たぞ。」
「く、おおお!!!もう!!」
そして来た場所が悪かった。それはもう、本当に。ここ樹海はとにかく魔物の数が多いんです。そのため、ウリオールの冒険者は大抵がこの樹海か私がアリエルとあったダンジョンに向かっています。どちらかというと初心者はダンジョンに、中級者は樹海に向かいます。
というのもダンジョンのモンスターは素材だけを落としますが、樹海の魔物は討伐してもそこに残るのは魔物の死体です。当然後処理をしないといけないし、もし依頼を受けていたらその部位を持って帰らないといけないしで大変なんですよね。なので樹海に行く冒険者はEランクとかFランクの冒険者を荷物持ちとして連れていくことが多いです。
当然下位ランクの冒険者にとっても悪いことだけじゃなくて、高ランクの冒険者の戦いを見れたり、その途中に何か採取してもいいし、何なら分け前以上に魔物の素材をもらえたりもします。特にお肉とか。低ランク冒険者はその日暮らしの人が多いですからねー。私みたいに部屋を買ってる冒険者は少ないですよ?だいたいは宿屋ですから。
「はあ、はあ。うおえええ……。」
「それにしてもまだ魔法を撃てるのか。ヨミ、貴様もそれなりにたくさんの魔力を持っていたんだな。」
「そりゃ、これでも、二つの系統、使えますからね。」
「それは見てれば分かる。器用な物だ、二つの系統をそこまで使いこなすとは。昔は一つの系統を極める者が多かったし、実際そいつらの方が強かった。だがそこまで使いこなせれば話は違うのだろうな。」
「そりゃ、どうも。」
ふう、そろそろ本格的に限界ですね。話すのも厳しくなってきましたよ……。いえ、もう何回も限界なんて突破してるんですけど。なんならその先の限界も突破しかけてしまっているんですけど。
「まあ、今日はここまでとしておこう。最初から全部を使い切るのは難しいらしいからな。ちょっとずつその感覚に慣れていけ。そうだな、一週間だ。一週間後にできるようになれれば上出来だろう。」
「は、はい。」
「今日は帰るぞ。」
あ、その前に今日倒した魔物の処理をしておかないと。めんどくさいので燃やしたいですが、私は火の系統の魔法を使えないので埋めるか全部回収するしかないんですよね。まあお金になるので回収しておきますか。
「ちょっと待っててください、魔物の回収だけしてきます。暇ならアリエルも手伝ってください。」
「む?……はあ、仕方ない。早く帰るためだ。」
かくかくしかじか。倒した魔物を回収しきった時にはもう朝日が昇りかけていました。もう、そこら中に倒した魔物が散らかっていたので想像以上に時間がかかりましたよ。それに回収している間にも魔物に襲われるのでその数がめちゃくちゃ増えてます。まあ、それはアリエルが普通の顔して倒したんですが。なんで猫のくせにそんなに強いんですか?
「……はあ、重たいです。」
「む、なんだ。別にいいじゃないか。空間魔法の劣化版の魔道具だから重さは消えないにしても便利な物だろう?」
「そりゃ、私はデュアルキャスターですからね。」
そうです。私にはこの袋の形をした魔道具があるのでソロでも割とどうにかなるんですよね。まあこの魔道具、アイテム袋っていうんですけどこれ自体はCランク以上の冒険者は持っているんですが、その収納量は所持者の魔力量に比例するんです。なので私のは同じランク帯ではおそらく最大級の大きさになっているんですよね。複数の系統の魔法を使える人は魔力量が多くなる傾向があるそうですし。
でも、重さは消えませんよ?なので今は一歩歩くだけでも足にきます。しかも魔法使いなので体は弱いんですよ。
「そうか。ならちゃっちゃと歩かんか。その換金とかもするんだろ?家に帰る時間がどんどん遅くなる。早く寝たい。」
くそ、この猫め!人の形をしてたらためらいなく荷物持ちさせるのに!
場所は変わって冒険者ギルド。時も少し遡る。ちょうどヨミが冒険者ギルドを出ていってから一時間ほど経った時、その事件は起こった。
次にCランクに上がるといわれている4人パーティーとついさっき組まれた7人パーティーが大げんかをした。負傷者を出すほどのけんかをギルド内でしたその両パーティーは出張から帰ってきたギルマスにより一週間の謹慎処分を受けた。
その理由はこの街で唯一のデュアルキャスターに認められCランクを与えられた冒険者に対する暴言だった。最初こそはただの口喧嘩だったが、次第にお酒が回ってきてヒートアップしたのか、ギルド内にいた冒険者全員を巻き込むほどの騒動に発展した。
この騒動をしった当の本人は果たして何を思うのか。それは本人にしかわからない。




