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街中決戦 その8

「楽しそうね。」


「そりゃそうさ!たとえどうなろうと俺様には得しかないんだからな!」


「そ。確かに私はあんたを殺すわけにはいかない。でも逆に言えばそれ以外は何してもいいってこと。……その余裕が続くといいわね?」


「は!言ってろ!」


 刀を抜くことなく鞘ごと手に持つカレンに男は再度突撃した。


 しかし先程の攻防と同様に男は碌に受け身も取れずに吹き飛ばされることとなった。


「はぁ、はぁ……!クックック!また消えたな!とてつもないスピードだ!」


「そうかしら?私は別にそこまで早いわけじゃないわよ。あんたの目が悪いだけ。」


「そうかもなぁ!?」


 再度馬鹿正直に男は突っ込んだ。先ほどとは違い、全身に鎧のように纏う魔力の量を増やし、防御力を底上げしつつ攻撃力と速度を上げている。


 だが、


「ぐおっ!?」


 男の攻撃は当たることがなく、それなのにカレンの攻撃は当たる。しかも防御力を上げたはずなのにダメージが軽減された感じもない。


 ーーー防御も意味がないか。これはあれか?防御を貫通してダメージを与える感じのスキルか?いや、だが剣神のスキルがそんなチャチなもんじゃないはずだ。……分からねぇ。

 分からねぇが、でも分かったこともあるぞ。……試してみるか。


「はぁ、はぁ。」


「もうおしまいなの?バテバテだし、自慢の魔力操作も随分杜撰になってるじゃない。鎧が穴だらけよ?」


「クソが!酸魔圧縮(アトミックブ)……」


「させるわけないでしょ。」


 魔力が圧縮し集中した腕を事も無げに動く前にカレンは止めた。そして次の瞬間には男の視界外に移動していた。


「ほら隙だらけ。」


 カレンの鞘は的確に鎧が剥がれていた背中に向かっていく。その間1秒に満たない極めて短い時間の中、


「……ここだ!」


 男は気合いと共に魔力をあえて途切れさせていた背中を守るように体は反転させ、カレンの攻撃を魔力で強化した腕で受けた。


 鈍い音共に痛みが走るが、それでも男は受けきったと確信した。だが、


「甘いわね。」


 カレンは流れるような動作で鞘を振り上げ、半身の切り替えと同時に再度振り下ろした。


「ガッ!?」


 腕で受けようとした男であるが、鞘は男の想定した軌道よりもずれた軌道を通り男の防御が薄い脇腹を打った。

 そして一瞬動きが止まった男の頬をカレンの裏拳が射抜いた。


 たまらず吹き飛ばされた男であるが、すぐに起き上がることができなかった。カレンの一撃は衝撃を伴い男の頭蓋の中を駆け巡り脳を揺らしていたのだ。

 だがそれもほんの数秒のこと、少しよろめきつつも男は立ち上がった。


 ―――動きが段違いに速え。いや、速いというよりかは認識できねぇ。今の攻撃もどっちも目じゃ追えなかった。攻撃の場所を誘導したから一度は受けることができたが、二度は無いだろう。いや、そもそも受けられたとしても反撃ができねぇ。

 ……この俺様が攻撃するどころか、満足に受けることすらできねぇとはな。Sランクはどいつもこいつもふざけた野郎しかいねぇな。


「……一体何のスキルなんだ?」


 男はまるで頭が正常に働くまでの時間を稼ぐかのようにカレンに問いを投げかけた。


「何が?」


「決まってるだろ。てめぇが持ってる隔世スキル“剣神”だよ。」


「……ああ、そういうこと。なら安心しなさい。今私は一切スキルなんて使ってないから。

 唯一使ってるのは精霊の力だけよ。と言ってもただ刀の具現化に力を借りてるだけだから戦闘にはあんまり関係ないけどね。」


「は?ありえねぇだろ、んなの。」


「あり得るのよ。私がSランクの中でも対人戦に特化してるのもあるかもしれないけど、それ以上にそもそもSランクかそうじゃないかでその差が歴然なのよ。

 認めてあげるわ。あなたは人間としてはそこそこやる。それこそあなたの相手をできるようなのはほとんどいないでしょう。

 でもそれは人間という規格の中での話。私達にはそれじゃ通じない。もしかしたら勇者といい勝負ができたからって勘違いしてしまったのかもしれないけど、それは勇者がこれまでにないくらい弱体化してるから。それでもあなたはそんな勇者にいい勝負程度しかできなかったのよ?なら普通に戦えるSランクには勝てる道理なんてないでしょ。」


 このセリフを紡ぎながらもカレンの頭の中では男の心を折るための言葉が絶えず探されていた。


 ―――はぁ。面倒くさいわね。殺しちゃいけない以上心を叩き折るのが最上の策ではあるのだけど、私には向いてないのよね。人の心なんてかけらも興味がないし。でもニアのためだと思って割り切るしかないわね。それに心を折れれば魔道具の破壊だって簡単にできるでしょ。

 情報ではこの男は目的は不明だけど、強さに対する執着が異常らしいわね。きっと才能に恵まれただけでなく、血を吐くような努力をしてきたんでしょうね。何度も死を経験していたとしてもおかしくはない。

 だからひとまずその道には終点があるし、それにその終点にたどり着いたとしても私達との差は絶対に埋まらないってのを知らしめてやればよかったはずよね。そのために一応スキルを一切使わないで戦ってたわけだしね。面倒だったけど。


「分かったかしら?たとえ何をしようとどこまで努力をしようと求めているものに手は届かない。絶対にね。」


 カレンの心を抉るためだけに考えられた冷ややかな声が音のない街に無情に響いた。

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