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街中決戦 その7

「残りの魔物はこの街の冒険者がどうにかするでしょ。あなたは休んでなさい。随分無理したようだし。」


 カレンに言われて、ようやくヨミも自らの感知空間内に多くの人が入ってくるのに気づけた。


「でも……。」


「いいから。あの男程度なら私一人でどうにかできる。それとも私が信じられない?」


「いえ。……左腰のポケットです。後は任せます。」


 それだけ言うとヨミは緊張の糸が解けたのか、その場に座り込んだ。だが、それでも座標固定の魔法を解かないように意識を張り詰めた。


「……強いわね。まあ、任せなさい。」


 カレンは音一つ残すことなくその場から消え、真っ直ぐに男の下へと向かった。男が吹き飛ばされた家に降り立ったカレンは周囲の気配を探るように目を閉じた。


 その瞬間、家の奥から突然巨大な魔力が放たれた。


酸魔圧縮砲(アトミックブロウ)!!」


 男の街を破壊する強力な一撃がカレンを襲い、爆発の渦に巻き込まれた。


「はぁ、はぁ。……くそっ、きれいに不意打ち喰らっちまった。動きもさっぱり見えなかった。


 ……だが、気づいてるな?俺様を殺したらそれでおしまいだってことに。」


「当然でしょ。だから私が来たんだし。」


 スッと何かが滑るような納刀される音の後に、爆煙の中から答えが返ってきた。


「ほう?俺様の攻撃は確実に不意をついていたはず。それなのにしのぎきるか。」


 一体誰にそんなことができるのかと、目を凝らすと煙の中にはメイド姿の女性が立っているのが見えた。


「そのふざけた格好、精霊騎士か。」


「そ。とりあえずうちの子が世話になったみたいじゃない?まずはそのお礼参りと行こうかしらね。」


「そうだったな。この街に入るときに戦ったやつも執事服なんてもんを着てやがった。お前はあれの上司ってわけだ。


 ……つまり実在したってことか、精霊騎士長!」


 精霊騎士長、カレン=ササキ。そもそもとして精霊騎士について知られていることがほとんどない上に、その長であるカレンについて知られてることは名前はおろか存在すらも疑われるほどである。


「別に隠さなくてもいいんだけどね。あんたらの諜報機関の人間じゃ、私のことを覚えてられないし。


 礼儀として一応名乗っておいてあげる。私の名前はカレン。カレン=ササキ。Sランク冒険者"剣神"って言ったらわかるかしらね。」


「Sランク冒険者だと?……クックック!そうか、情報は間違ってなかったってことか。あの精霊王もどきが別格だっただけなわけだ。」


 男は更なる強敵を前に高揚と共に焦燥も感じていた。この街には男の想像以上の戦力が集まっていたのだ。

 ここにきてようやく男の頭の中に失敗の文字が浮かび上がる。リヴァイアサンさえいれば最悪でも主戦力は抑え込めると考えていたはずが、その半分で止められてしまっている。その上、その残りが自分の所にやってきているのだ。

 作戦を練ってから攻撃を仕掛ける以上、まだ優勢であるものの戦力という点でおいては逆転されていると言っても過言ではなかった。


 ―――だがよ、それが何だってんだ!?


 男の瞳に闘志が漲る。一時はがれていた魔力の鎧であったが、全身から魔力が立ち昇り瞬時に男の全身を包み込む。


「行くぜ。」


 男が地面を強く蹴り、カレンへと迫る。距離がぐんぐん縮まり、魔力と殺気がこもった男の拳がカレンに襲い掛かる。


「なっ!?」


 しかし当たる寸前にカレンの姿が消えた。直後腹部に衝撃が走り、上空に吹き飛ばされた。


「がっ!?なんだと!」


 男の攻撃をかがんで躱したのだろう、さっきまで立っていた場所に男は視線を走らせる。だが、その場には既に誰もいない。


 直後、上空から背中に攻撃を受け地面に叩きつけられた。


「ッ!?」


 何度も予想外の場所から攻撃を受けたために受け身を碌に取ることができず、大きなダメージを負った。しかし、それ以上に何をされたのかがわからなかったという事実が男の精神に巣くった。


「もう終わりなの?」


 音もなく隣に降り立ったカレンの冷ややかな声が男の鼓膜を打つ。


「……ッソが!」


 分からないなら分かるまでやるだけ。そう言わんばかりに起き上がりと同時に裏拳による攻撃を仕掛けた。


 だが、その攻撃はスピードが出る前に腕をカレンに止められ無効化された。そして少し間を置いて男は脇腹に再度衝撃を受けた。

 たまらなく吹き飛ばされる男であるが、空中で体勢を整え着地した。


「はぁ、はぁ。てめぇ、一体何をした!?」


「別に特別なことはしてないわよ。あなたじゃ見えなかっただけでしょ?」


 確かにあり得るかもしれない。だが、男は直感でカレンの言ったことが真実ではないと悟った。

 何か仕掛けがあるはずであると確信を持ちつつもそれが全く見えない男はその戸惑いを振り払うように勢いよく立ち上がった。そしてその内心とは裏腹にニヤリと笑った。


「……クックック!言いやがるじゃねえか。目で見えないからって諦めると思ってんか?」


「どっちでもいいわよ。私の目的はあなたを殺さずにここに留め置くこと。わかってるだろうけどね。」


「そうだ。お前たちはどんなに実力差があろうと俺様を殺すことはできない。空間を支配する力を持とうが最強の剣技を持とうが同じことだ。できるのは時間稼ぎだけだろう!?」


 死なずに強者と戦えるのであれば願ってもないことだ、と言わんばかりに男は目を輝かせた。

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