海上にて
「……っく!!まったく、こうなるなら無理を言って叔母様かカレンをこっちに連れてくるんだったな!」
「ティターニアが決めたことじゃんか!……って言いたいところだけど確かにそうだね!」
場所は変わって港近辺。ティターニアとアーサーの二人はどうにかリヴァイアサンが上陸してこないようにその巨体をその場に押しとどめていた。
だが、その戦いは劣勢であった。すべての属性魔法を無効化できるティターニアとそれ以外の攻撃を事前に止めるアーサーのペアで耐久戦を挑んだのであるが、リヴァイアサンは時間が経つにつれて自身の魂に刻まれた破壊以外の権能も使い始めたのだ。
全ての呪いを司り、呪いそのものである禍呪に、海の全てを愛し海に愛される海神。神像兵器が持ちうる三つの権能全てを使っているのだ。
「くそっ!!やはり出力が理不尽だな!私と私の精霊でも随分無茶をしないと抑えこめん!」
「破壊はどうにか僕が止める!だから呪いは逃げてくれ!」
「分かってる!」
そのうちの一つ、海神はティターニアの精霊である星の精霊の力で打ち消すことができているが、どちらかというと打ち消されたといった方が正しいであろう。その結果、ティターニアはリヴァイアサンをその場に押しとどめることに必要以上に力を使ってしまっている。そして純粋な破壊の攻撃はアーサーが最初の攻撃と同じように止めることができている。
だがどうしても一つは浮いてしまうのだ。しかも権能という隔世スキルや深淵といった対抗手段がほとんどない凶悪なモノが。
呪いが個体と化した泥の結晶のようなものがリヴァイアサンから放たれている。その結晶一つ一つからありえないくらいの凶悪なオーラが感じられ、ティターニアもアーサーも見ただけで脅威であると分かった。そして極めつけはその結晶が当たった建物である。海上で戦っていたが、それでも流れ弾が臨海部にある建物にぶつかり、そしてその建物はまるで溶けるようにして一瞬で崩れた。
その攻撃は3大禍死呪のいずれかがランダムに混合されている。呪いにかかった相手を体の端から崩すように破壊し、遺体も魂すらも残さない死滅呪。呪いのかかった相手から死を取り上げ、その上で体を破壊し体が壊れていく激痛と絶望の果てに魂を壊す不死呪。そして精神から汚染して、肉体の損傷と引き換えに上限なく力を与えた上で、最終的には魂を先に破壊しその後に肉体を破壊する狂死呪。
これら三つの禍死呪は三つの国全てで研究が禁止されており、使えることが判明した場合は最低でも終身刑として生涯幽閉される。魂に干渉する時点で全てが禁忌扱いされるが、これらの禍死呪は魂を破壊する。特に最後の狂死呪はその呪いの特性上、周囲を完全に破壊しつくすことになるため存在知っているだけでも罪になる。
そして呪いの対処方法は浄化魔法に限られ、特に強いこれらの呪いは光属性のでないと解呪できない。しかし浄化はいずれの属性にしても難易度は高く、時間がかかる上に消費魔力も多いために乱発はできない。そのため、光属性を使えるアーサーも食らうわけにはいかないのだ。
ーーーまずいな。このままだと確実に負ける。
ティターニアの心の中にはその確信があった。自身と星の精霊との融合を行ったことで出力は権能以上に引き上げることができてはいるものの、その分消耗は激しい。そもそもが一つの能力で相手の移動を封じた上で権能を一つ無効化しているというのがおかしな話なのである。
ーーーだが、攻撃してもリヴァイアサンは海上にいる以上すぐに回復する。
エクスカリバー以上の聖剣を抜けない以上、次切り札を切るのは私の役割だ。だが、できればやりたくない。隠しきれなくなってしまう。
時間稼ぎの耐久戦は体力以上に精神を削る。信頼できる仲間がいても先が見えない戦いに心は大きなダメージを受ける。それは集中力の乱れを引き起こし、体力も削られる。体力が削れれば、心も同じく削られる。
そんな終わりの見えない泥沼のような戦いに彼らは身を投じたのだ。
彼女らは気付かぬことであるが、リヴァイアサンは攻めあぐねていた。
彼の神が使える権能は全て、この世界を崩壊させるのに足るほどの力を内包しているのだ。その全てを完全に使いこなせるわけではないが、それでも部分部分としては使えているのだ。それでも全部が押さえ込まれている。リヴァイアサンの立場からしても今は持久戦であったのだ。




