街を守るために その2
カレンの言葉は不気味なほどよく響いた。ティターニアさえも顔を僅かに強張らせているが、アリエルだけは笑っていた。
「その通りだ。よく考え付いたな。私達ですらやられなければわからなかった。」
「別に。ただ癖がついてるだけ。最悪は考えても考えすぎないことにはならないし。
で、もし本当にあの男がそんな命令を出していたとしたら、トリガーが何か分からない以上無暗に攻撃できなくなるわよ。何もできないで守り一辺倒になる。そうなったらどれだけ実力差があっても長い時間はもたないわ。」
「そうだな。そこでヨミと勇者。あの男はどんな人間だ?接敵した二人なら私達よりわかるだろう。どんな条件を設定してそうだと思う?」
アリエルに突然話を振られたヨミは若干戸惑いながらも口を開いた。
「そうですね。生粋の戦闘狂です。男自身の目的はひたすらに強くなることだとも言っていました。なのであの男が戦いを楽しいと思っている間は少なくとも大丈夫だと思います。ですが一方で勝ちか負けを確信した瞬間が一番危ないような気がします。」
「僕も似たような感じかな。少し違うのは戦闘狂であることは否定しようがないけど、それ以前に一人の将という自負が感じられたことくらい。任務を達成するためには自分の命を軽く捨てられるくらいの強い責任感があると思ったよ。」
ヨミに続いてアーサーが語る。しかしその内容によると敵として見たら厄介この上無い特徴を持っていることになる。狂戦士のような戦闘力がある上に一人前の将としての気質まで持ち合わせているということになるのだ。
「……つまり?男には常に任務が順調に進んでいると思わせる必要があるってこと?無茶にもほどがあるんじゃない?」
「そうだな。だが方法はある。」
「方法?」
「あの魔道具は杖と首輪で一つなんだ。片方が壊れればもう片方も当然壊れる。リヴァイアサンの首輪を壊すことは難しくとも、男の持つ杖を壊すのはそこまで大変ではないだろう。」
「そうなのね。じゃあその杖さえ壊してしまえば万事解決となるわけね。リヴァイアサンは解放され男は切り札を失うことになるのだし。」
「そうだ。しかも命令できるのは杖を持っている人だけだから確実に男がその杖を持っていることになる。当然隠しているだろうが、こうなればいくらでもやりようはあるだろう。」
「……叔母様、感謝する。その上で取れる作戦は大きく二つに分かれるように思う。一つは男だけを狙い、こちらの目的に気づかれる前に魔道具を破壊してしまうこと。もう一つは泳がしておいて隙をつくことか。
どちらの作戦をとるにしろ、リヴァイアサンの相手を何人かしなければならないし、この街が戦場になるのであればその護衛も必要だ。最後のは騎士と冒険者にさせればいいが、どちらにせよ人手は足りん。」
実際にリヴァイアサンを止めることを考えるのであれば最低でもSランクが二人はいないと希望は見えないであろう。ヨミとアリエル、アーサーの3人でギリギリだったのだから、それでも足りないくらいだろう。
「……男の相手は私がします。私がしないといけません。私にやらせてください。」
ヨミが真っ先に手を上げて立候補した。その目には確かな覚悟と決意があった。自分の信念に従ってしたことに反省はすれど後悔はしたくないと、熱い視線が雄弁に語っている。
「……すまない。私がヨミを責めたせいだよな。だが、それをさせてやるわけにはいかない。ヨミと男では実力はよくて拮抗してるくらいだろう。それでは魔道具を見つけて、あまつさえ隙をつくことは出来まい。
それにリヴァイアサンと直接やり合ったのはこの中でヨミだけだ。リヴァイアサンの方に行ってほしい。」
「……そうですか。いえ、分かりました。」
ショックを受けたようであるが、それでもティターニアの言い分に納得したのだろう、ヨミは引き下がった。なんの偶然か、リヴァイアサンと一対一で戦ってしまったのだ。たとえそれがリヴァイアサンにとってはお遊びのようなものだったとしてもそれは変わらない。
「なら僕とニアもリヴァイアサンの方に行こう。男ならカレンに任せた方がいいでしょ。」
「いや、男は私が相手をする。私なら瞬殺できるし、この街に詳しいカレンには影からサポートをしてほしい。できる限りこの街にいることを知られたくないしな。」
「そんなこと言ってる場合なのかい?リヴァイアサンをどうにかできないと秘密も何もないと思うんだけど。」
「……いや、勇者。私はニアの意見に従うわ。」
「……正気?」
「ええ。どうしてか知りたければ、スキルを解凍しきりなさい。……私達隔世スキルを持つものは初代の遺志に大きく逆らうことはできないし、しようとも思えない。あなたも分かっているはずよ。」
「……そう、だね。分かった、ティターニア。君の指示に従うよ。」
「助かる。」




