街を守るために
時は昨晩に遡る。リヴァイアサンの襲来という未曽有の危機を前に、この街に集まった実力者たちはそれに立ち向かうために話し合いの場を持っていた。最初こそ来る戦争の話をしていた彼らであるが、その話はあくまで一部であり、ほとんど全てが作戦会議へとあてられていた。
「……今更なんですけど、私っていても大丈夫なんですかね?Sランクでもないですし、皆さんほど強くはありませんよ?」
話が切り替わったタイミングでヨミが切り出した。ここにいるのはアリエル、ティターニアといった歴戦の戦士に勇者、精霊騎士長といった立派な肩書付きである。ヨミだけBランクに上がりたての冒険者という曖昧な立ち位置なのである。
「気にしない気にしない。……でもまあ確かにここにいる全員がSランクかそれ以上だとやりづらいかな。」
アーサーが独り言のようにつぶやいた。が、その後すぐに口を手で覆った。まるで言ってはいけないことを言ったかのように。そしてそのアーサーをカレンが睨みつけている。
「……え?っていうことはカレンさんもSランクっていうことなんですか?そうなるとSランクが3人いることになると思うんですが?」
目の前に世界の最高戦力であるSランクが3人もいるという現実を前に若干逃避しかけるヨミであるが、次のティターニアのセリフで再度意識を飛ばしかけることとなる。
「いや、私はSランクではない。が、特別な精霊と契約しているからな、便宜上精霊王という肩書を借りているのさ。本物の精霊王は別にいる。」
若干呆れたような視線をアーサーに向けつつもティターニアがそう告げる。
「私の契約精霊は居場所がばれるだけで戦争の火種になりかねないほど強力な精霊だからな。少しでもカモフラージュをかけておかないといけなかったんだ。それに万が一、私に何かがあってもこの精霊だけは守れるように精霊騎士の長にSランク冒険者を据えている。」
そう言うとあとの言葉は任せたと言わんばかりにカレンに視線を向けた。自然とカレンに視線が集まり、言いづらそうにしつつも口を開いた。
「……はぁ。仕方ないわね。私はSランク冒険者“剣神”のカレンよ。そこのうっかり勇者のおかげで話すことになったけど、本当は私の存在は表に出ないものだから口外はしないでね。」
―――えええ?そんな世界の秘密を知ってしまって大丈夫なんでしょうか?いや、それ以前に私以外Sランク以上っていうすさまじい場違い感は解消されていないんですが。
ヨミは内心で混乱しつつもそれを口に出せずにいると、話は勝手に進んでいく。
「よし、じゃあ今夜も遅いからさっさと作戦を立てよう。それこそ明日の朝に再度来てもいいように。」
「そうだな。私は戦いでは手を貸せないが、話し合いには参加しよう。リヴァイアサンや古代魔道具について、言えることはいくつかあるだろうからな。」
ティターニアが話を仕切り、アリエルが知識の提供を約束した。
「まず一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
アーサーが口を開いた。質問の相手にアリエルも含まれるためか、言葉は丁寧なものになっている。
「なんだ?あと、口調は適当でいい。貴様もSランクなのであれば同格だ。」
「え、そうですか?なら、……古代魔道具について聞きたいんだけど、それは一体どういうものなんだい?リヴァイアサンの首についていた首輪みたいなものがそうだったりする?」
「そうだ。あれはつけた対象を確実に隷属させることができる魔道具だ。5回しか命令を下せないという欠点こそあれど、逆に誰であろうとどんな命令だろうとこなさせることができると思えばちょうどいいバランスだろう。」
「5回……。それはあとどれくらい命令が残っているかとかわからないの?」
「魔道具についている鎖の数で分かる。今日見た時はあと2回分残っていたな。」
2回。少ないように思えるが、それでも命令を出せる相手がリヴァイアサンなのだ。おそらく使うタイミングさえ選ばれれば一回で全てが事足りるだろう。
「まあ、だが実際の所はあと一回しか使えんだろう。最後の命令を完遂されてしまえばリヴァイアサンは解放され、その結果あの男はリヴァイアサンに殺されるだろうからな。」
「なるほど。それは確かにそうだね。聞きたくもない命令を聞かせられていたとなれば、その相手を殺したくなるほど憎んでいてもおかしくない。」
その言葉を最後に考え込み始めてしまったアーサーをわき目にカレンが口を開いた。
「その命令は期限ってあるの?例えば死にそうなときに助けろ、っていうのを出していたとして、その命令はいつまで効果があるのかしら?」
「いい質問だな。答えは無期限、その命令を完遂した時に鎖が一つ飛ぶ。そして命令の内容にもよるが命令を聞いたとしても消えないものもある。」
「と言うと?」
「そうだな。これは命令を受け取る側の認識にもよるが、私の知っている中だと側にいろっていう命令を下されたのはずっとそばにいたな。詳しい基準は分からんが達成したかどうかが分かりずらいとおそらく消えない。」
「……そう。なら最悪を考えておかないといけないわね。」
「ほう?」
「無条件で、かつ何度も男の危機にリヴァイアサンが駆けつけてくる可能性。」




