吸血鬼ってすごいんですよ!!
「そうだな。まずは手本を見せてやろう。」
それだけ言うとアリエルはすたすたと一人前に歩いていきました。
「ちょ、何やってるんですか。危険ですよ。」
「馬鹿者、私を誰だと思っている。少し離れてついてこい。」
「はいはい、分かりましたよ。」
前を歩いていくアリエルの少し後ろを私もついていきます。
「吸血鬼になって、月を見てから見えるようになったものがあるだろう?ほらこの光の結晶みたいなものだ。これは夜の微精霊だ。
確かに吸血鬼は人間に比べれば夜目も利くし、五感も鋭い。だが、これは吸血鬼だから見えるものだ。吸血鬼以外の者にはたとえ精霊師でも視認はおろか感知もできない。逆に吸血鬼は夜の精霊以外の精霊を見ることはできない。」
へえー、そうなんですか。てっきりただきれいなだけだと思ってたんですが、そうではないんですね。
「この精霊はとても特殊な精霊だ。人ではなく吸血鬼だけに手を貸してくれている時点で既にそうだが、彼らは他にも通常の精霊とは違う点が多い。
よく知られているのは加護のかけ方だ。他の精霊は精霊が大気中の魔力の残滓を集めてそれを魔力にして術者に渡してくれる一方で、夜の精霊は術者の体に入り魔力を渡してくれるだけでなく、私達の魔法の発動にも力を貸してくれる。」
ちょうどその時、木の陰から狼型の魔物のワイルドウルフが勢いよく飛び出してきました。その視線の先にはのんびり歩いているアリエルがいます。
は?いやいや、そろそろ魔法使わないと間に合わないんじゃないですか?無詠唱魔法と言えど発動までに数秒はかかりますよ?
そしてワイルドウルフの鋭い牙がアリエルの細い首に突き刺さる、その寸前でワイルドウルフが何か透明な壁にぶつかったように跳ね返されました。
そして跳ね返されたワイルドウルフが空中でもがいているところに透明な三日月のようなものが放たれ、ワイルドウルフを仕留めました。
「こんな感じか。分かっていたがかなり弱っているな。すまない。……で、貴様は何をやっているんだ?」
「え?いやいや、こっちのセリフですよ。どう考えてももう間に合わなかったじゃないですか?一体何をやったんです?」
杖を構えている私を見たアリエルが呆れ気味に尋ねてきました。そりゃ杖も出しますよ。さっきのクレイジーモンキーとの闘いでは杖を出していませんでしたけど今は握ってますよ。
「私の魔法は特別だからな。まあ、それは追々話す。今日の本題はそこじゃない。
ヨミ、貴様から見てもあの魔物の攻撃は当たったように見えただろう?」
「まあ、それは。でないと杖なんて使いませんよ。重たいですし手も塞がります。」
「だが、結果はそうはならなかった。あの魔物は私に触れる寸前で止まり、弾かれその上に討伐された。」
「ですね。」
「だが、私は何もしていない。ただ何も考えずに森の中を歩いただけだ。」
「はい?何を言ってるんですか?」
「だから、今の攻防は私じゃなくて、私の中にいる夜の精霊がやってくれたということだ。」
???えっとつまり?アリエルは戦う必要がないということなんでしょうか?だってそういうことですよね、精霊が守ってくれたっていうことは。
「とはいえ、当然魔法の威力自体は私が発動した方が明らかに強いし、消費魔力も少ない。それにこれは夜の精霊とたくさん触れて魔力を慣れさせてようやくできる芸当だ。まだ初心者吸血鬼の貴様にはできん。」
はあ?なんですかそれ?つまるところ自慢ですか?お前にはできないけど私にはできるー、みたいな。さすがに、それはないですよね?
「これはいわば吸血鬼の究極形だ。精霊の憑依を完璧に使いこなせなければできないこの技を体得できるほどの吸血鬼は今も昔も数えるほどしかいなかった。
さて、これからは貴様もすぐできるようになることを教えよう。」
まあそりゃそうですよね。自分が戦わずに勝つなんて神の御業って言っても変わりないですもんね。それにしても精霊の憑依ですか。私の知り合いには精霊使いがいないので初めて聞きました。でも彼らとパーティー組むまではずっと一人でしたからあこがれたこともありましたね。相棒みたいで。
通常、精霊使いは誰でもなれる魔法使いとは違って、精霊の姿を目で見れる人しかなれないですからね。で、私も精霊を見ることができなかった人なので夜の精霊だけでも見れるようになったと思えばいいですか。
「?どうした?ほら行くぞ。」
「はーい。ちょっと待ってくださいねー。」
「さて。で、これから貴様にやってもらうのは貴様の体の中に入っている精霊の感知だ。感知ができていない今でも少しは手を貸してくれているだろうが、それでは不完全だ。それだと精霊にとっても貴様にとっても良いことがないどころかかえって悪いことが起こる。自分の想定以上の魔力消費があったり、威力が出たら危険だろう?今はどうか知らんが、昔はそれが続けばギルドからランク取り消しとかされてたな。」
「へえー。そうなんですね。聞いたこともありませんよ。」
「そうか。まあランクがどうこうは置いておいても、自分で自分の魔法のコントロールができないのは怖いだろう?」
「それはそうですね。さっきも想像以上の威力が出て爽快感もありましたが、それ以上に呆然としてしまいましたし。」
そうなんですよね。間違いなくアリエルがいなかったら追撃のつもりで魔法を放って森林破壊をしていましたからね。
「それで、どうやったらその精霊を感知できるようになるんですか?」
「なに、簡単なことだ。魔力を全部使いきればいい。」
「はい?」




